民事不干渉?
常夜に沈む、閑静な住宅街の道路の真ん中
四人は、街路樹の枝葉を集めたキャンプファイアを囲んでいた
「君達はどういう関係?」
ジュピターは問う
答えたのはゼル
「仲間かな。メトロポリス風に言うんだったらパーティ?たまたま同じダンジョンで知り合って、そっからずっとつるんでる」
「良いね。そう言うの。素敵」
「おめーは何なんだ?こないだまでこの辺りにはうちら以外いなかった筈だが」
「グレーランドから逃げてきた。メトロポリスで浮浪者になるよりも、ここの方がマシだと思ったから」
これは、ジュピターが5分で考えた偽の自己紹介だ
「そっか。おめーも大変だったんだな」
グレーランドには、アンツールと違い文明が存在する。それも沢山
だがそれらは国と言う単位で独立しており、限りある資源を巡って毎日紛争を続けていた
グレーランドからの逃亡者がアンツールにやって来る事は、決して珍しい事では無い
不意に、アザミが鞘に手をかける
「火を消せ。何か居る」
シータが水入りバケツをひっくり返して消化し、ゼルは指をぽきぽき鳴らしながら立ち上がる
ジュピターは、そんな三人の様子をぼんやり眺めていた
現れたのは、とげとげの首輪をつけたピットブルの群れ
その中心には、タンクトップとブリーフだけの小太りはげの中年男
「ぐいっひひぃ~!こ~んな所に居たのかお嬢さん達~!」
男が近付いてくる
何日も風呂に入っていない犬の群れと男の悪臭に、ジュピターは顔をしかめる
(他にもプレイヤーが居たんだ。第二次役職、テイマーかな。)
「他には誰も居ないんじゃなかったの?」
答えたのは、後方を陣取っていた為ジュピターと一番距離が近かったシータ
「シータ達も同じ。元々はもっと西の方に居たんだけど、あの人からここまで逃げてきたの」
「ふぅん」
犬の群れが道を開け、男が群れから出てくる
「久しぶりだね~。アザミたんにシータたん、そしてゼルちゃん。君達がニュータウンを出てっちゃってから、おじさんすっごく寂しかったんだよ~」
「知るかハゲ!いつまでも付きまとってくるんじゃねえ!うぜーんだよ死ねゴミクズデブが!」
「うっほお!たまらんね~!もっと、もっと罵っておくれよ~!」
「きっも…」
ジュピターもゼルと一緒に、そんなゴミクズデブを冷ややかな目で見る
「あの人何?」
「クロハチ。シータ達が昔いたコミュニティのリーダーなんだ。凄く強くて、ずっと追いかけてきてるの」
そう語るシータは、そこはかとなく身を縮こませた
「そう言う事ね」
ジュピターは手を頭の後ろに回し、そのまま気怠そうに身を倒した
警察でもノーブルスでも無いのに、内輪揉めに干渉するのは良くない
クロハチはアザミの肩に手を置く
「また戻ってきてくれないか~?小娘三人じゃあ、アンツールで生きるのは大変だろ~?」
「断る」
「そんな事言わずにさ~」
クロハチの手が、アザミの脇、脇腹、腰、太ももと順に滑って行く
「また楽しい事しようぜ~」
「…っ!」
アザミは剣を振り抜く
「私だけならば構わなかった。だが、ゼルやシータにまで手を出した貴様を到底許す事は出来ない!」
「おいおいそんな怒んなよ。ちょーっと魔が差しちまっただけだろ~が~」
それを聞いたゼルとシータは顔面を蒼白させる
「嘘…ゼルには手を出さないって言ったのに…」
「テメェ!シータは襲わないっつってたのに!嘘つきやがったな!」
「おおコワ」
クロハチは再び犬の群れの奥に戻る
そこで彼は、見慣れぬ四人目を見つけた
「おや~?おやおやおや~???」
クロハチは犬の群れごとキャンプファイア跡地まで移動する
「良いねぇ君。何歳カナ~?まあ見た所、もう必要最低限出来上がってそうだから関係無いかな~?」
「…何?あたし?」
まさか自分にまで話が振られると思わなかったジュピターは、豆鉄砲を喰らったハトの様な面持ちで上体を起こす
「君も一緒に来ないか~い?僕のところには美味しい食べ物もあったかーい寝床もあるよ~!おまけに、女の子だったらアイテムやコインを払う必要も無ーい。どうかな~?」
「結構。文化的な生活への未練はもう無いので」
「そうか~い?残念だな~。だったら…」
ピットブル達が、黒い煙と共に二足歩行の人狼に姿を変える
「みんなまとめて力づくでお持ち帰りするしか無いカナ~?」
「………」
人狼の爪が振るわれる
ジュピターは床に座った状態で体を後ろに倒して地面に手を突き、そのままバク転して回避しつつ立ち上がる
(魔物を使役してたって事は第三次役職ビーストテイマー?いやでも、普通の動物が魔物になった様にも見えたからまさか…)
一行の上空をカラスの群れが通る
クロハチが指を鳴らすと、群れは全て三本足と腕の様に発達した強靭な翼を備えた全長3mのカラスの魔物に変化し落下してきた
「第四次役職モッドサモナー。珍しいですね」
「おや?僕の役を知ってるのか~」
廃墟の中や下水道の底から、巨大化したネズミが這い出てくる
「それでも逃げないって事は君、随分と自信があるみたいだね~」
四人はあっという間に異獣の群れに囲まれる
モッドサモナーの固有資源は操作対象そのもの。ただし現地調達が容易で、森林やゴーストタウンでは無類の強さを誇る
シータは杖を抱えて震えている
ゼルは前に出ようとするが、足が震え上手く進めていない
「ジュピター殿よ。貴女はあれについて知っているのだな」
ジュピターの隣に立ったのはアザミだった
「普通の動物を元手にしてるから、召喚にはいつか限界が来る。持久戦に持ち込めば勝ち目はあるよ」
「御意」
ジュピターは胡坐をかいて座り、鋼の後光を展開する
「降魔・羽弓聖帝」




