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ゲームが全てを支配する世界ですが、今日も元気に配信します!  作者: ぬるぽガッ
プロローグ どうにも、彼女は全てを持っていた様に見える
21/42

挫折こそ前進するチャンスなのだ。そこから逃げ出し、それを避けようとすると、お前は未来を捨ててしまうことになる

巌進の砲撃が、はりぼての大隊を粉砕していく


(もしかして…パパってあんまり強くない?)


何度も何度も、屠猿は倒れた大帝を殴り続ける

弾幕が薄まった所でコトリンの銃王が戦線を離脱

ジャヴァの大隊の横腹を狙うべく駆け出した


黒い銃王達が応戦するが、魂無き傀儡ではコトリンの分身に勝てない

コトリンの物より上等な黒い金属で造られているにも関わらず、30機あったジャヴァの銃王は、残り二機になるまで追い詰められた


(まさか"魂束鳥(こんそくちょう)"での一発逆転狙い?だとしたらまずい…)


コトリンは大慌てで全ての機械獣を収める

ジャヴァの両サイドを、残った二機の銃王が固めている


「…!」


鋭い殺意を感じた気がして、コトリンは振り返る

だがそこには誰もおらず、殺意も一瞬で消えた


「よそ見か?」


敵の銃王が掃射を始める

コトリンは細く息を吐くと、横に走り出す


弾幕に追われながらも、コトリンは確実に距離を離していく


「…!まただ…何なのこれ!?」


今度はジャヴァの居る方角から

鋭い殺意を向けられるたび、コトリンの集中力は大きく削がれる


目の前に銃王

気の緩みに付け込まれ、接近を許してしまったのだ


「まず…」


だが、コトリンがハチの巣になる事は無かった

彼女が軽く押すと、銃王は力無く倒れた


視界が開け、ジャヴァの様子を目視できる様になる


彼は、剣を背後から深々と突き刺されていた


「何…故…お前が…」


「貴様と戦いたくなくなった」


長く白い髪

極圏の氷の様な、深い藍色の人

体躯は小柄、まだ子供だ

服装は中世ヨーロッパの国王の様で、頭には王冠も被っている


剣が引き抜かれると、ジャヴァも銃王と同じ様に倒れる


それは倒れたジャヴァを少しの間見つめると、不意に視線をコトリンに移した


「…!」


その瞬間、コトリンは膨大な緊張と恐怖を叩き付けられる感覚を覚える


(こいつだ…)


あれが、戦闘の合間に感じた殺気の正体だった


逃げろ


コトリンの本能が叫ぶ


距離にして体育館二つ分

静かに踵を返したその時だった


「…え?」


それはもう、コトリンの目の前に立っていた


「え…あ…」


腰を抜かし倒れるコトリン

それは数歩コトリンに近付き、目線を合わせる様にしゃがむ


「決めた」


それは立ち上がる


「余は貴様と戦う」


それはそう言い残すと、天に剣を掲げる


石の如く分厚い黒雲が晴れた

見える範囲の全天に金色の魔方陣が展開され、光の炎を纏った槍が無数に現れる

槍の雨は島を割り、海を裂き、ゲームの参加者とドラゴン全てを討ち亡ぼすべく白き聖炎を現界に解き放った

それは神話に描かれた奇跡の様で、コトリンはただ、天を仰ぐ事しかできなかった


『残り生存者が三名となりました。これにて第一ゲームを終了します

 これより本イベント中は、下記の決勝戦出場者三名が死亡ペナルティ免除対象者となります

 コトリン、白ナマコ、恐怖の大王』


それは剣を降ろす


「コトリン。それが貴様の名か」


「あ…ああ…あなたは…」


「余は恐怖の大王。リムーブアールエフ・アンゴルモアだ」


ジェイコブズラダー差し込む天井より、もう一人のプレイヤーがゆっくりと地上に降り立つ


筋骨隆々の褐色の肉体

光る金銀の髪

半裸で、下には黒いズボンを履いている

眼孔の奥には瞳では無く宇宙が広がっている

手には、無数の天使像や神像、神話の楽園の情景が精巧に彫刻された大槌を握っている


「これは白ナマコ。現存する唯一の第五次役職荒人神(アラヒトガミ)だ。さっきのもこれの技であるぞ」


「わた…う…うちをどうするつもりですか…?」


「そんなのは決まっている」


光と共に三人の見る景色が変わる

火山地帯から一変

無数の竜の像で囲われた、巨大なコロシアムになった


『これより、支給される報酬を決定する決勝戦を開始します

 第一試合はコトリン対白ナマコ

 勝ち上がった者が、恐怖の大王との第二試合を行います』


「三つ巴を期待したのだが、まあ仕方あるまい」


アンゴルモアは闘技場から出て、一つきりの観客席につく

格好も相まって、その姿はまるで御前試合を干渉する君主の様に見えた


『両者、所定の位置へ』


闘技場の両端に、蒼いマーカーが灯る

白ナマコは何を言う事も無く、マーカーの場所に立つ


「…最悪だ…」


コトリンはゆっくり立ち上がり、反対側のマーカーの方へ歩き始める


「一緒にあがろうだなんて…甘すぎたんだ…輪廻の宝珠を…うちなんかがそう何個も貰おうだなんて…パラゴンゲームに…勝つだなんて…」


「おい」


コトリンの独り言に、苛立った声色でアンゴルモアが反応する


「?」


「貴様はさっきから何を言っている。貴様が今此処に居るのは、()の気まぐれのせいだとでも言うつもりか?」


「うちは…あなたたちとは住む次元が違う…!うちは…私はただ…」


「残念だなー」


低い男の声

アンゴルモアの物では無い


「…貴方、喋れたんですか…白ナマコさん…どうぞこの身の程知らずを…好きなだけ罵って下さい…」


「夜目遠目傘の下とは良く言った物だよ。配信で見てた時はあんなに素敵だったのに、いざ会ってみたらこんなだったなんてね」


「…え?」


白ナマコは大槌を持ち上げる

柄の下からぶら下がる、デフォルメされた姿のコトリンのストラップ

それは、昔とある飲料メーカーとコラボした時の限定グッズだった


「プレイすらままならないクソゲーだろうが、大手ゲームの激ムズエンドコンテンツだろうが、リスナーからの無茶ブリだろうがギルド三つの連合だろうか疑似政府だろうが、どんな強大な相手でも、構わずはつらつとした笑顔で挑んでいく君の姿が好きだったんだ」


白ナマコは槌を降ろす


「あれは全部偽物だったの?苦境であればあるほど楽しむ健気な君の姿、あれ"も"全部演技だったの?」


「私は…」


「君はそれで良いの?ファンの前で情けない姿を見せるのは嫌いって言ってなかったっけ」


白ナマコは今、コトリンと言う人間と真摯に向き合っている

配信の時にいつも見せる活発な様子は演技だと気付いている

強大な敵と立ち向かっている最中に見せる快活な笑顔が、本心から来ているものだと言うことも


「どうしてそんな辛そうにしているんだい?だってこれはゲームでしょ。楽しまなくてどうするのさ?」


「…」


果たして、自分は本当にゲームを楽しめていたのだろうか

コトリンはそう自分に問いかける


楽しいのはゲームじゃないのかも知れない

好きなのは難敵から勝利を奪い取る感覚であり、戦いそのものではない

勝てないゲームじゃ、楽しくない


思えば、自分は本心からはファンを愛した事は無かったのかも知れない

ただコインが手に入って自己顕示欲が満たされればそれで良かったのかも知れない


「…はは…うちって最低ですよね…」


フィールド全域に放たれた、白ナマコのMAP兵器

コトリンにゲームを楽しめと言われたあの兵隊たちは、白銀の炎に焼かれる時何を思っただろうか


「人の気も知らずに…無理ゲーに直面した人達に向かってゲームを楽しめだなんて…無責任にも程がありますよ…」


「…はぁ。もう良いよ」


白ナマコはマーカー地点を離れ、コトリンの方へ歩いて来る


「君がまさか、やる前から諦める様な人だとは思わなかった」


白ナマコはコトリンの首根っこを掴み、強引にマーカーの場所まで投げ飛ばす

コトリンは抵抗しなかった


白ナマコも肩をすくめながらマーカーの方にとぼとぼと歩いて行く

その様子を見たアンゴルモアも、額に指をあて苦い顔をしている


その様子はまるで、楽しみにしていた新作ゲームのリリースが大幅延期した時のファンだ


「本当に、残念だ」


白ナマコはマーカーの前に佇む


「コトリン」


アンゴルモアの苛立った声


「………」


「最後に一つだけ、貴様の思い違いを正してやろう」


アンゴルモアは、コトリンに向けて殺意の視線を向ける


「!」


力無く地面に溶けていたコトリンの身体が、一瞬だけ跳ねた


「貴様がぺけぱかCEOと戦っている時、余は最初貴様を殺そうとした。だが貴様は余の殺意にいち早く気付き、反応し、それ故に余は貴様を殺せなかった。二度ほど試してみたがな。だから諦めて、CEOの方を落としたのだ。余が貴様を闘技場に招いたのは、ただの気まぐれでもまぐれでも無い。オープンワールドステージでは、貴様を倒すのは無理だと思ったからだ!」


「…?」


コトリンはゆっくりと立ち上がる


「パラゴンは全てに平等だ。今此処に居る誰の間にも、一切の差異は存在しない。余も、貴様も白ナマコも、同じ対等なプレイヤーなのだ!ナマコも余も、貴様と対等な勝負がしたいと考えている、それを貴様は拒絶すると言うのか?」


「………」


「貴様の覚悟は、その程度だと言うのか?」


「…っ」


「余は覚悟を決めて此処に来た。貴様は違ったのか?」


「………!」


「だとしたら凄く…残念だ」


コトリンはコミュ障だ

素の自分として相手と向き合う事に重度の恐怖心がある

故に、"元気で明るいコトリン"と言う仮面を作った

それくらい、本心で語り合うと言うのは難しい事だ


それはアンゴルモアにとっても同じだ

しかし、大王は自らの本心をコトリンにぶつけた


「…ふふ」


コトリンは立ち上がる


「あーあ。うちったら何やってたんだろ。白ナマコさんの技があんまり凄いからびっくりしちゃったのかな?」


コトリンは立ち直る

それを見た白ナマコは、笑顔を綻ばせる


「ごめんねー。ファンの前で過去一みっともないとこ見せちゃったぁ!そんじゃ、始めましょっか!」


「ああ!」


白ナマコは嬉々とした笑顔でマーカーを踏む


『両者のスターターポジショニングを確認

 第一試合、開始』

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