若人はそこに夢と希望を抱いて出撃するが、戦場にそんなものはない
「おいコトリン!全世界にわいらの作戦バラすとか何考えとんねん!」
「リーダーも見てたの?」
「たり前や!と言うか、何で敵の広告が写っとった!」
「そ…それとこれとは別じゃない?うちにとっては、風俗だろうがきーたんだろうが、お金を払ってくれるならみんなお客さんなの。」
「…おまいの思考はまるで小学校やな」
「?」
「関わる人間全員受け入れれば良いとおもっとる、頭お花畑なあほの間抜けって意味や!」
「な…」
niruの肩を、クラブマンの手がぽんと叩く
「少なくとも、危険な前線に仲間を一人置いてった奴がいう事では無いな」
「クラブマン…おまいはどっちの味方なんや!」
「お前じゃない事は確かだ。そもそもお前の作戦でも、敵が前進してくる事は必須だった。コトリンは作戦の開示って方法で、あいつらを前進に持ち込ませたんだよ」
「あそこにコトリンがいなきゃ意味が無いんや!」
「じゃあ見てみろよ!」
クラブマンがコトリンの方を指す
服は損傷し、あちこちには銃創や、弾が掠めたことでできた裂傷、火傷も多数
コトリンは既にボロボロになっていた
「体力8分の1も残ってねえんだぞ!お前はコトリンを殺す気か!」
「…じゃあうちのギルドの為に死ねばええ」
「…今なんつった…?」
「スキルも無い!戦いもしない!ただ機動力しか能の無いこんな奴、ただのお荷物やて言うたんや!」
「お前…コトリンがどんな…」
「じゃあ聞くが、あいつは何が出来るんや!?剣術か?遠隔攻撃か!?ただ配信で金集める事だけやろがい!」
「おい。今は仲間割れしてる場合じゃ無いぞ。」
割って入って来たのはミッド。
遠距離のクラブマン、近接戦のミッド、この二人が、このギルドの主戦力である
「コトリンを無視していけばいいなんて、コトリンがばらさなくても見てたらそのうち気付いてたさ。今は進軍してきた敵をどうするか考えろ」
その様子を、コトリンはただ神妙な面持ちで眺めていた
(これ、流石にうちもちょっと悪かったかな…)
コトリンは懐からポーションを取り出し、一瞬で一本飲み切る
身体中に付いた小傷が瞬く間に癒えていき、彼女の元から少ない体力は全快した
「ねえみんな。もしうちが今からここを裏切るって言ったら、着いて来てくれる?」
最初に反応したのはniru
「はあ!?裏切るだと!?気でも狂ったんか!?そんな奴おるわけ…」
最初に手を挙げたのは、クラブマン
「…悪い、niru。俺もうお前についてけねえよ」
「クラブマンてめぇ…!」
次いで、ミッドも手をあげる
「俺も付いてく。だがモニター騎士団は辞めねえよ。新米共の面倒見なきゃならねえからな。」
「…ああそうかい。もう良いよ!だったらとっとと出てけお前ら!」
「い…いいえ…!」
たまごかけごはんがやって来る
「で…出てくのは…に…niruさんだと…おお…思います…!」
「はぁ!?」
コトリン加入より半年
彼女への人望は、自然とniruを超えていた
「コトリンは確かに、お前よりは弱いかもしれねえ。お前よりも適当かもしれねえ。だがな、仲間に向かって死ねなんて言うクズよりは数百倍ついてく価値がある!」
その瞬間、コトリンはモニター騎士団を脱退した
「おっと。我らがアイドルが抜けちまった」
ミッドは飄々と言う
「お前はどうすんだ、クラブマン」
「事が落ち着いたら俺も抜ける。だけど、今はまだやるべき仕事があるだろ?」
niruは剣を抜く
「そうか…そうかよ…じゃあ良いよ!コトリン!前は今からわいら、モニター騎士団の敵や!」
その瞬間、ギルド対抗戦にコトリンと言う第三勢力が追加された
ーーーーーー
ケルきーvsモニター騎士団vsコトリンスレ
5212.こwwwwれwwwwはwwwwひwwwwwどwwwwwいwwwww
5213.マジかよniruサイテーだな
5214.もともとあんま良い噂は聞かなかったが、なるほど頭が腐ってたのか
5215.一応昔はまともだった。だけどギルドがでかくなってくのと同時に天狗にでもなっちまったんだろ
5216.てかコトリンなんで今抜けた?操作ミス?だったらやばくね?
5217.あいつは長らく戦ってなかった。つまり…
5218.コトリン推し古参わい、全てを察し武者震いなう
5219.やばい鳥肌立ってきた
5220.この流れ、何気に全国放送初じゃね?
5221.ずっと配信外でしか戦ってなかったからな
5222.この流れってなんのこと?
5223.待ってお前らさっきから何言ってんの?
ーーーーーー
「………」
コトリンは葛藤していた
今、両陣の攻撃を一身に受けて死ねば、長年かけて築き上げたイメージは保たれる
だが、それ以外の問題は何一つ解決されない
モニター騎士団は亡び去り、メンバーは露頭に迷う事になる
入団してからの半年間、コトリンは彼らがいかにギリギリの生活をしているかを目の当たりにした
強者が集まり、高難度ダンジョンを計画的に消化して、やっとその日の生計を建てている
配信と広告収入で面白おかしく生きてる自分とは違うのだと知った
世紀の大波乱に、ギルド戦の中継にはさらに視聴者が集まっていく
コトリンは配信をつけようとしたが、視聴者との約束を思い出し辞める
(もしこの力を配信内で使えば、きっとうちの視聴者層は変わる。前より多くなるかもしれないし、少なくなっちゃうかも知れない。…これは、賭けだね)
不意に、自分の胸にクラブマンのレーザーポインターを見つけたコトリンはクスリと笑う
(賭け?違う違う。これは贖罪。ボーナス欲しさのために適当に入団して、散々引っ掻き回したうちからの、モニター騎士団への謝罪)
過去に一度だけ、コトリンはしくじった
節操無く戦い過ぎたせいで、ランキングに名前が載ってしまったのだ
当時コトリンの知名度はほぼ無かったが、それでも彼女の事を推していた古参だけは、今でもそれを覚えている
(みんな…ありのままのうちを受け入れてくれるといいなぁ)
コトリンは戦場から踵を返し、ステージの端の方に歩いて行く
「おいおいおい。まさか、試合終了までやり過ごせると思っちゃいないだろうな?」
背後から声が聞こえ、コトリンは立ち止まる
「君も知っての通り、今回のルールはフルベット。負けた者は全ての財産を失う」
二人目
「今ここでお前を倒せば、三つのギルドを再建してもお釣りが来る程の富を手に入れられる。そうだよな」
三人目
これはクラブマンの声だ
ーーーーーー
7631.キターーーーーーー♪───O(≧∇≦)O────♪
7632.今回の大ボス大集合で草
7633.マジでコトリンはごめんなさいして見逃して貰うしか無いと思う……
7634.クラブマンは一体何の味方なんだ
7635.もはやただの一攫千金のボーナスエネミーと化したコトリンたやかわいそうでかわいい
7636.冷たい事言う様でなんだけど、これはさすがにコトリンの自業自得だと思う。
7637.配信者だろうが何だろうが、戦場では一人の人でしか無いって事よな
7638.コトリンオタ共息してるかな?
7639.アンチ共喜べ、あいつがミンチにされるとこを生で観られるぞ
7640.あの日わいが見たものが幻覚じゃ無い事を心から願ってる
7641.またかよ
7642.イキリオタきもい
7643.頼むコトリンそいつら全員ぶっ飛ばしてくれ
7644.無理だろ普通に考えて。トップランカーじゃあるまいし。
7645.一つ聞くけど、コトリンはあの戦場の真ん中で、一体誰に撮影してもらってたんだ?
ーーーーーー
コトリンは携帯をしまい、振り返る
黒縁メガネに黒スーツ、華奢な身体に、カチカチにセットした黒髪
ケルベロス代表、ネンドー
パサパサの髪、着崩れまくった着物ははだけ、素肌に巻いたボロボロの包帯が見え隠れ、背負うのは巨大な鉈
きーたん団代表、きーたん
短い金髪、青い瞳、筋骨隆々の体に、来ているのは軍の機動部隊の服、背負うは狙撃銃
モニター騎士団副団長、クラブマン
「クラブマンさん、騎士団は大丈夫なの?」
「もう全滅したよ」
「そっか…」
クラブマンときーたんは武器を構える
「元々戦争をふっかけたのはあなたの財産目当てですので、そのあなたが騎士団から離脱するのであれば、もう彼らと敵対する理由はございません」
ネンドーは拳を構える
(広告収入が倍増した…?てことは、ここにカメラが寄ってるんだね。)
コトリンは諦めた様に笑う
「そっかそっか。うちはもう逃げられないんだね」
「お前の知名度があれば、すぐにまた稼げるさ。こっちも生きるのに必死でね。悪く思うなよ、コトリン」
きーたんが切り掛かってくる
コトリンは目を閉じて両手を広げ、攻撃を受け入れる構えを見せる
空電音
「…!きーたん氏!危ないです!」
ネンドーの叫び声とほぼ同時に、きーたんは爆炎の中に消えた
「く…」
ネンドーとクラブマンはバックステップで距離をとる
二人が目の当たりにしたのは、傷一つ付いていないコトリンと、彼女の周りを回遊する様に浮遊する、三機のカジキマグロ型の大型機械
きーたんは吹き飛ばされながらも空中で姿勢を立て直し、ちょうど二人がいる場所に着地した
「なんだありゃ…アイテムか?」
困惑するきーたん
「…なるほど。どうりで本人は回避特化な訳です。」
逆にネンドーは、全てに合点が行ったので落ち着き払っていた
「そうかコトリン…それがお前の…」
クラブマンは更に後退し、遥か遠方から銃を構える
コトリンは遠い目をしながら、再びスマホを開いた
ーーーーーー
【速報】大箱配信者コトリン、《鋼獣創造主》と判明
1.ケルきーvsモニター騎士団の戦闘中の最中、突如自陣を抜けたコトリンはそのまま第三勢力として、各ギルドのリーダーと相対し、その際に能力を発動した
ソース→《公式:けるキーvsモニター騎士団》
2.縦乙
知らん役職だな。検索しても全然出てこないし
3.《ビーストテイマー》と《マルチエンジニア》の複合でできる役職
4.第三次役職がさらに昇華すんのか?
5.第四次役職は、歴史的に見ても数えるほどしか確認されてない。しかもその殆どが、かもしれない程度の噂話でしかないし
6.問題は、コトリンがなんで第四次役職なんて持ってるかって話だ
7.課金しまくった
8.運営に媚びた
9.ただのAIにどうやって媚びるんだよwww
10.ここでコトリンたやと同じ役職の僕がきますた
11.嘘末乙
12.何が起こってるか説明よろ
13.今コトリンたやが展開してるのは爆御ってユニット。空飛ぶ火力盾だと思ってくれ。
14.んなの見たらわかるわい。もっとうこう何か無いのか。能力の制約とか
15.とにかく大量の素材がいる。鉄とか電気部品とかは勿論、凝ったやつ作るとなるとダンジョンにしかない非売品アイテムもとんでもない数必要になる
16.いるとこにはいるもんだな
17.なんで表舞台に出てこないの?第四次役職って
18.第三次までとはマジで別ゲーになるから。ちなわいは昇級直後に調子乗ってダンジョン潜って死亡、全アイテム失ってからは底辺彷徨ってる
19.もしかしてビーストテイマーとかと同じ詰み方するん?
20.丸腰でもその辺の魔物取ればワンチャンあるBTとかとは訳が違う。
機械獣作るにはアイテム必要→アイテムは買ったりダンジョン潜ったりしないと手に入らない→機械獣無いと戦えない→詰み
21.第四次って検索したら結構出てきた。相当な物好きじゃ無い限りは第三次で止めとくのが安定。四次に行って人生詰んでも自己責任…と
22.待て待て待て、その機械獣ってのに所有上限とかって…
23.無い
24.あ…(察し
25.BTとかと同じって事は、一度破壊されたらそれきりって事か
26.素材さえあれば無限に兵力をストックできるが、破壊されたらそれきり。だから連戦とかになればいずれ兵力は尽きるし、使い切ったらもう戦う力は無くなる。本体に戦闘能力が無いからね
27.ヒェ…
28.別ゲーってそう言う
29.第三次はそのバトルに全て賭けてりゃそれでいいけど、四次は戦いの後何をするかも考えなきゃいけない。全ロストしてからわからされた
30.コトリンたやが今まで頑なに戦おうとしなかったのって、リソース節約してただけって事?
31.広告とか配信で金稼いでたのも役職柄って事か
32.一体何に備えてたんだ
33.今みたいな状況
34.マジで第四次役職として完璧な立ち回りだったって訳だ
35.だとしたらさっきの弾幕回避ダンスは本当に頭のネジ飛んだ行為だったって訳か
36.その戦いに全てを掛けるのが第三次役職、自分の人生そのものを考慮していつ戦うか、戦わないかを決めるのが第四次役職。まさに次の次元って訳か
37.あれ、これもしかしたらもしかするんじゃないの?
ーーーーーー
「君たちには今、二つの選択肢がある」
コトリンは一歩前に出る
「一つ。戦わずに、この戦争を引き分けとして片付ける。もう一つは…」
電磁波による空間の歪み、磁界門から新たな獣が出現する
たてがみが無数のガトリングガンになった機械の獅子
百銃王
「全力のうちと戦うか」
レーザーポインターが、コトリンの額に狙いを定める
「お」
発破と共に、射線上に爆御が割り込み銃弾を受ける
「今更引ける訳無いだろう。君がいる限り、この戦争は終わらないんだ」
「………」
百銃王のガトリングが一斉掃射を始める
きーたんが剣を振るい弾丸を弾く
「きーたんさん!後ろ!」
ネンドーの指す先には、赤熱した爆御が接近している
先ほど弾丸を受けた個体だ
きーたんは死を覚悟した
爆御が爆発する
「…?」
きーたんは、爆御と自身の間に立ち塞がったネンドーによって無事だった
「君はもしや…」
「タンク職だ…とは言え、クラブマン氏の弾丸と同程度の攻撃を受けるのは、少し骨が折れたけど」
受けたエネルギーを使い切った爆御が、コトリンの元に戻っていく
「それに僕のタンクとしての性能は、あの機械魚一匹にすら劣ると思うけどね」
磁界門から更にもう一体
尻尾が大剣になっている大型のトカゲ、刃龍が出てくる
刃龍はすぐにコトリンの体をよじ登り、変形し彼女の腕に装着される
刃龍と合体したコトリンのその様は、右腕がそのまま剣になったように見えた
遠方から大砲が飛来してくるが、コトリンの周囲を回遊する爆御に受けられる
「お。ラッキー」
大量のエネルギーを手に入れた爆御を、コトリンは三人の方に突っ込ませる
「来るぞ!」
きーたんが警告する
きーたんは前に、ネンドーは横に、クラブマンは後方に、それぞれ散り散りになる
「てやあああああああ!」
きーたんはコトリンに斬りかかる
コトリンは、装着した刃龍でそれを受ける
“ガジャキ!ギリギリギリギリギリ…”
鍔迫り合い
不意にコトリンの刃龍がしなり、きーたんに斬りかかる
「!」
きーたんは彼女から距離を取りそれを回避する
気付けば、きーたんも爆御の回遊の中にいた
「俺とタイマンしようってか?」
「うん。だって凄く楽しそうなんだもん」
「嬉しいねえ!」
“キン!キン!ガキン!”
爆御の回遊でできた円形闘技場の中、二人の剣舞は続く
一方、爆御の外では
「今です!クラブマンさん!」
「分かってる!」
百銃王との苛烈な戦いを繰り広げていた
“グガオオオオオオオオオオ!”
“ダダダダダダダダダダダダダダ!”
方向と共に、無数の弾丸が放たれる
弾丸はネンドーが受け続けているが、彼の体力も無限では無い
「がっは…!クラブマンさん!何をしているんですか!」
「無理だ!いくら撃ってもあの弾幕に相殺される!」
歩く掃射前線を前に、二人の状況は悪化の一途を辿っていた
「かくなる上は…クラブマンさん!こいつは無視しましょう!」
「何!?」
「我々もあの闘技場の中の押し入って、きーたん氏を援護するんです!我々の勝利条件は、あくまでもコトリン氏の討伐なのですから!」
「そうか!分かった!」
クラブマンはそう言うと、懐からグレネードを一つ取り出し、百銃王に投げる
グレネードは爆発し、高濃度のスモークが放たれた
“ガウウ!?”
標的を見失った百銃王の射撃に狂いが生じる
二人はその隙に、きーたんとコトリンの元へと駆け出した
「ごめんなコトリン。俺達も生きるのに必死なんだよ!」