人間、およそどんなものにもせよ、何かに隷属しているのであれば、どうして幸福になれるだろうか
少し前
集落はかつてない危機に陥っていた
「集落合計でたった9000コイン…このままでは冬を越す前に集落は全滅してしもう…」
雲の様な白髭を蓄えた老人、族長は、杞鬱な顔で暦を見つめていた
「あの略奪者どもめが…今すぐとっちめに行ってやる」
「待つんじゃデイガンド。あの族共はもう昔とは違う。メトロポリスよりやって来たあの魔剣士一人に、集落の戦士たちは何度も全滅させられた…」
「でも俺…やっぱ居てもたってもいられねえよ!みんなが必死に稼いだ大切なコインを根こそぎ奪ってく奴を、野放しにしておく訳には行かない!」
デイガンドは武器をとり、部屋を出て行こうとする
「待つんじゃデイガンド!」
「何だよ、俺はもう心に決め…」
族長の机の上に、バスケットが一つ置いてある
その中には10匹の竜の子がすやすやと眠っていた
種類はどれもまちまち、様々な入手経路から搔き集められた物である
「北の巡猟団が集めてきてくれた物じゃ。これがあれば、パラゴンの挑戦を受ける事ができる」
族長は席を立ち、デイガンドに小竜入りバスケットを手渡す
「お主に頼めるか。デイガンド」
「爺ちゃん…」
デイガンドはバスケットを受け取る
「分かったよ。必ず勝って、冬を越せるだけのコインを取ってきてやる!」
「ドク、プエラ、爺ちゃん、小児院のみんな…待ってろよ。帰ったら、良いもんを腹いっぱい食わせてやるからな!」
燃える斬撃が、高空を飛ぶ翼竜に直撃する
『ボーナス獲得:移動速度+50%、1分間プレイヤーの位置情報を表示』
「やったぞコトリン!位置表示だ!」
「でかした」
コトリンは携帯を見る
ドラゴンアイランドの全体地図に、プレイヤーを示す赤い点が散らばっている
「流石にちょっと派手過ぎたか?何人かこっちに集まってきてるみたいだ」
デイガンドは紙の地図を広げる、そこにも同様に赤い点が現れている
「位置表示には翼竜を倒さないといけないけど、上空への攻撃は即ち私達の位置を明かすビーコンにもなる。場所がバレるのはお互いさまって事ね」
パラゴンは限りなく平等で厳格、そしてプレイヤーの選択を全て肯定する
「逃げるよデイガンド」
「おう!」
目標はただ一つ、
決戦の七日目で一気に得点を伸ばし、二人で3位以内に入る事だ
「…ん?なあコトリン」
「君も気付いた?」
先程から、30名以上の大群で活動しているとこがある
ドラゴン狩りの効率化は図れるが、明らかにイベントルールと戦略が合っていない
「変だよね。盤面を一掃してから、仲間うちでバトルトーナメントでもするつもりなのかな。とにかく関わらないのが吉だと思うよ」
数度点滅した後、二人のマップから赤いマーカーが消えた
その瞬間だった
「げへへぇ…やっと見つけましたよぉ!この小鼠どもめぇ」
上からの声
二人は空を見上げる
そこには、木組みの翼をバサバサとはためかせ空を飛ぶ中年が居た
「よくも今までアイレーア様の獲物を横取りし続けてくれましたねぇ!3日もわしらの監視の目を逃れ続けたその悪運は評価しますが、それもここで終わりぃ!貴様らの位置は既にぃ、我らがアイレーア様率いる本隊に伝達済みぃ!もう逃げ場はありませんよぉ〜!」
暫しの静寂
「お前はどう思う?」
「飛行能力がある割には強そうに見えないね。偵察特化の第一次役職だと思う」
「だな。俺の集落にも一人居るぜ」
二人は飛行中年を無視し、集団の写っていた方とは逆方向に進み始める
「くっくっく…逃げるつもりですかぁ!?」
中年はそう言って、二人の方に蒼く光るクリスタルを投げる
先に気付いたのはデイガンド
「…!離れろコトリン!」
「え?…うわっと!?」
コトリンは脱兎の如きバックステップで投擲物から距離をとる
地面に当たるとクリスタルは割れ、そこに大きな魔方陣を展開した
「マルチテレポートクリスタル?そんな良いアイテム、一体どこで」
「来るぞコトリン!俺の後ろに隠れてろ!」
魔方陣が光を放つ
一瞬で、二人は30人のプレイヤー集団に囲まれた
「おいコトリン、これ…」
「うん…ちょっとピンチかも…」
集団の中から一人、リーダー格の少女が前に出る
金髪ツインテール
赤い瞳
黒と赤の華やかなバトルドレス
「おーっほっほっほ!ご苦労だったわねフラリデュ!わたくしが生き残れた暁には、一生コインには困らせないと約束しますわ!」
「はは!あり難き幸せ!」
現在三日目
本来ならまだ戦うべきでない日付
コトリンは辺りを見回す
物陰はあるが、逃げ場は見つからない
「お前達、中々沢山のドラゴンを狩ったそうじゃありませんか。その実力に免じて、わたくしアイレーア・チェニコフ4世の仲間となる事を許可しますわ~!」
コトリンは一言、
「何とかするから時間を稼いで」
とデイガンドに耳打ちすると、そのまま物陰に隠れた
デイガンドはアイレーアの前に出る
「もし断ったらどうする」
「脱落して頂くほかありませんわね~!何せ今はPVP中ですので~」
「ほう」
デイガンドは、燃え盛る剣を召喚する
「だったらお前、俺と決闘してみろよ。お前に、俺を率いる資格があるのか試してやる」
「時間を稼ぐつもりでして?先程そこに隠れたお嬢さん、彼女をこちらに引き渡して頂けるのであれば、応じてあげてもよろしくてよ~」
「ッチ…意外と賢いぞこいつ…」
「馬鹿にしないで下さいまし~」
デイガンドは必死に会話のネタを考える
「お前、この挑戦のルールは知ってるんだよな?どうやればあがれるかも」
「ええ。上位三名に勝ち残ればクリアですのよね。まだわたくしの慧眼をお疑いで?」
「だったら、こんな大勢のプレイヤーどうするつもりだよ」
「ゲームが終わったらわたくしが報酬を支払いますわ。これはパラゴンゲーム、30人を用意する事くらい容易ですわ~!」
デイガンドは他のプレイヤーを見る
ほとんどが第一次か第二次どまり、お世辞にも単独でこのゲームをクリアできるとは思えない者ばかりだった
だがこの人数でドラゴン討伐のバフを共有したとなれば、それなりの戦力になるだろう
「お前たちはそれで良いのかよ?この女の言いなりになって、こいつの兵隊として大人しく勝ちを譲るってのかよ!?」
「だって仕方無いだろう!」
兵隊の一人が叫ぶ
「イベントの中には、たまにPVEや戦闘面以外を競うゲームがある。俺達はそれに賭けて参加したんだ。」
「俺は財産の殆どをはたいてこのゲームに参加した。どうせ負けるなら、幾らか戻ってきた方が得だろ」
「アイレーア様は強い!勝ち残るに相応しいお方なのだ!」
「見てわからないのか!?俺達じゃこのゲームには勝てないんだよ!」
人の気配に誘われ、多数のドラゴンが集まって来る
『ポイズンドラゴン
討伐ボーナス:攻撃に相手現在体力15%分のスリップダメージを付与』
『ホーリードラゴン
討伐ボーナス:10秒毎に最大体力5%分を回復』
『ブラックドラゴン
討伐ボーナス:全ての攻撃のダメージが2倍になる』
どれも、デイガンドとコトリンだけで狩りをしている間は全く出くわさなかった種ばかり
そこで、デイガンドはこのゲームの仕組みを理解した
「お前達、利用されてるぞ?」
「それでもいい!」
「どうせ勝てないなら、いっそアイレーア様の手足となって…」
「そうじゃない!パラゴンの挑戦は全てに平等だ!元の能力が弱い奴にほど、強力な加護を抱えた竜が現れる様になってるんだよ!」
「な…」
「そんな…いやだとしてもだ!ちょっとやそっとのバフで、装備差や能力差が埋まる訳…」
『アーマードラゴン
討伐ボーナス:攻撃を10回まで無効にするアーマーを獲得。回数制限は5分おきに1づつ回復』
『シルバードラゴン
討伐ボーナス:攻撃魔法反射を獲得』
「そこに居る奴らの加護の内容を見てみろ!シルバードラゴンに至っては高位アイテム"シルバークローク"の完全上位互換だ!本当にそう言い切れるのか!?」
「…」
「…」
兵隊達が靡き始める
「お…おい…」
兵隊の一人が、アイレーアに向かって剣を抜く
「よ…よくも…俺達から搾取してくれたな…!」
「そうだ…」
「今の俺達には力がある…!」
デイガンドに先導された兵隊たちが、アイレーアに反旗を翻す
「覚悟しろ!アイレーア!」
一人、アイレーアに向けて切り掛かる
だがその攻撃が当たる事は無かった
アイレーアは滑る様に反乱分子の背後に回り込むと、目にもとまらぬ連拳で30枚のアーマーを割り、最後の一撃を胴体に深々と突き刺した
「がっは…!?」
拳が引き抜かれ、反乱分子は倒れる
「全く…おバカな方々です事」
アイレーアは青白い炎に包まれている
ツインテールの毛先は青炎そのものになっていて、左目も青白く光っている
両腕も燃えている
彼女は細く、炎を帯びた呼気をバーナーの様に吹き出す
「確かにパラゴンは平等ですが、同時にプレイヤーの選択全ても肯定しますの。
おつむも能力も可哀想な程弱い貴方方の為に、せっかくパラゴンが用意してくれた強力なバフ。それをわたくしに献上すると言う選択も、パラゴンは肯定しましてよ?」
アイレーアは第三役職『スピリットモンク』
格闘職でありながら、魔力をダメージ源とする特異な役職
だが、無数の討伐ボーナスを抱えた今の彼女は、それ以上の物になっていた
「ですが、わたくしも約束は守りますわ。わたくしが勝利した暁には、コインはきちんと支払いますわよ」
「………」
場を包んだのは、後悔
勝利ヘの希望を自ら潰していた事を知った兵隊達はただ呆然と、忠誠を誓ってしまった自らの女王を見つめる
「さ、どうしますの?」
「…解った。もう解ったよ!」
「やれば良いんだろやれば!」
兵隊達は再び武器を取る
「この軟弱者どもめが…」
これがデイガンドの時間稼ぎの限界
だが、コトリンは暫く前に準備を終えていた




