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ゲームが全てを支配する世界ですが、今日も元気に配信します!  作者: ぬるぽガッ
プロローグ どうにも、彼女は全てを持っていた様に見える
16/42

釣り人は、どんな冒険家よりも先回りしてそこにいる

ジャヴァはただ静かに、コトリンと向き合っていた

無鉄砲で不完全だった過去の自分が残した、戒めと、向き合っていた


小さな足音が聞こえてくる

ジャヴァとコトリンは全く同時に銃王を消した


「お父様〜!」


ジャヴァの元に、齢6歳の少女がとてとてと駆けてくる


「見て見て〜!お父様ー!」


少女は、クレヨンで描いた父の戒めをジャヴァに見せる


「おお、よく書けているじゃないか」


「えへへ〜」


ふと、少女はコトリンに気付く!


「あ!コトリンだ!」


少女は、今度はコトリンに駆け寄る


「コトリンだ!凄い!本物のコトリンちゃんだ!」


「そうだよ〜!うちが本物のコトリンだよ〜!」


「凄い!テレビとおんなじ声だ!」


「どう?凄いでしょ?」


社長室にもう一人

髪をきっちりと整え、かっちりとしたブレザーを着た10歳の少年だ


「こらシーシャ。お父様は今大事な商談ちゅ…コトリン…!?コホンッ、コトリンさんと大事な商談中なんだぞ!」


「やだやだ!シーシャ、コトリンと一緒が良い!」


「わがまま言っては行けないよ。ほら、お母様がバタークッキーを焼いてくれるらしいぞ」


「え?ほんとう!?やったー!」


コトリンから興味を逸らされたシーシャは、そのまま退出した


「妹が失礼しました!コトリンさん、いつも動画拝見させて頂いております!」


「ほんと〜?うちにこ〜んな未来有望そうなファンが居たなんてね!こりゃ将来安泰だぁ!」


「えへへ…あ、で、では、僕もこれにて失礼します!」


少年も退出した


コトリンは二人が出て行った方を暫く見つめた後、ゆっくりとジャヴァの方を向く

その顔は、困惑と恐怖、それから失望がごちゃまぜになった、悲哀に満ちた表情だった


「…あの子達は…?」


「お前の弟妹だ。パイソンとシーシャ、妻のお腹には3人目も居る。何の因果か、今では家族揃ってお前の大ファンだ」


「どの口が…!」


ふとコトリンは、ジャヴァのデスクの小物に意識が向く

自分とスピンサーのコラボ商品、最新の物から昔のプレミア物まで幅広く揃っていた


「…何…私を捨てといて…何の嫌味よ…」


「今更許してくれなどとは言わない。お前が硫酸風呂の話をした時は流石に罪悪感に駆られたよ。ああ、そう言えばまだ言ってなかったな。済まなかった、コトリン」


ジャヴァは深々と頭を下げる


「…何で…こんなの…あんまりよ…」


コトリンにとって、ジャヴァは生涯を賭けて憎む相手だった

自分をダンジョンに捨て、復活しても迎えに来てくれなかった最低の父親

それが今、自分に謝罪をしている


「お前が望むなら、また家族に戻ろうか?お前が姉だと知ったら、二人はきっと喜ぶだろう」


「何よ…今更…」


「憎み続けても良い。今の俺達の関係はビジネスパートナー同士だ。それ以上になりたく無ければ、俺も(わきま)える」


「………」


コトリンは、父親に背を向ける


「少し、考えさせて」


「いつでも来て良いぞ。我が娘よ」


「…っ!」


コトリンは早足で社長室を出て行き、そのままビルも後にした

キソゴンゾウが居たかも知れないが、今のコトリンに周りの事に目を向ける余裕は無かった


何かに追われる様に、コトリンは急いで家に帰り、そのままベッドに身を投げた


「…父さんは本当に良い人になっていたの…?」


ジャヴァことぺけぱかCEOは、コトリンの活動開始当初からずっと支えてくれた古参ファンだった

コトリンはそれが、自身を捨てた実の父親であるとも知らずに、喜んでコイン付きのスパチャを読み上げていた


「父さんはずっと…私の事を愛してくれていたの…?

じゃあ…じゃあ…私一人だけで…勝手に過去引きずってたって事…?馬鹿みたい…」


ふと、コトリンの脳裏に知らないうちに出来た弟と妹の顔が浮かぶ

自分みたいな派手な髪色じゃなくて、普通の金髪蒼目だった

顔立ちも殆ど似てなくて、自分と母親が違うのは明白だった


「家族に戻ろう…?そんな事言われたら…うち…」


コトリンは、欠けた右耳を撫でる


「もう…戦えなくなっちゃうよ…!」


次の日コトリンは、約束通りホラゲ実況をした

彼女の巧みな話術と虚飾に、彼女の心境の変化に気付いた視聴者は誰一人としていなかった


それからコトリンは、機械獣のメンテナンスに集中したいと嘘をつき、配信を一週間ほど休止する事にした

彼女はただ、ゆっくり考える時間が欲しかった


(もう…戦わなくて良いのかな…?頑張らなくて良いのかな…?)


何度心に問いかけても、彼女の心は疲れたと言っている

政府を破壊した責任なんて負いたくないし、もう戦い続けるのにはうんざりしていた


ジャヴァの会社は大きいし、パイソンは凄く育ちも良さそうだ

もし父の提案に乗れば、将来は間違い無く安泰だろう


ベッドに寝転がり、SNSに引退発表を綴っては送信前に削除するを繰り返す日々

明確な結論が出ないまま、3日が経過した


その間殆どベッドに寝たきりで過ごしていたが、ろくに食事も摂っていなかったので、少し痩せていた


(…このままじゃ、せっかくのナイスバディが台無しになっちゃう…)


三日振りに活動を起こす気になったコトリンは、散歩でもしようかとベッドから起き上がる

三日振りにシャワーを浴び、寝巻きから地味モードに着替え、久々にスニーカーに足を通す


(散歩がてら外食でもしようかな。店は…そうだな、やっぱり“あの店”が良いな)


コトリンは、すっかり行きつけとなった中華料理屋に向かった


(今日はやけに繁盛してるなぁ…世間もやっと激辛料理の素晴らしさに気付いたのかな)


コトリンは入店して直ぐに、異様な繁盛の理由を理解した


「すみません!特性点心定食一つ!」

「はいはーい!」


「餃子セット四人前お願いします!」

「かしこまりましたー!」


「すみません!デザートを頼みたいんですが!」

「ご注文ありがとうございまーす!」


「この、因果応報涅槃寂静赤火鍋っての下さい」

「了解しましたー!誓約書を発行するので少々お待ちくださいませー!」


ローラースケートを履いた小柄な店員少女が、実に楽しそうに注文をとっていた


どうやら、この異様な繁盛の原因は彼女目当ての客らしい


「次のお客様どうぞー!」


その新入りと目が合い、コトリンは思わず動揺する

彼女は、リラだった


「あれ?お客様、どこかでお会いした事ありましたっけ?」


「…さあ。私みたいな人なんて沢山居ますよ」


「うーん…他人の空似ですね!失礼しました!お席にご案内致しますのでこちらへどうぞ〜!」


結局コトリンは、それ以上リラとは何の会話も無かった

いつもそうしている様に、劇物指定済みの激辛鍋を食べて、コインを支払い帰った

途中でクラブマンとすれ違ったが、コトリンの影が恐ろしく薄いもので、顔見知りであるにも関わらず全く気付かれなかった


(広いようで狭いもんだね。世間ってのは)


夕暮れ

まだ家に帰る気が起きないコトリンは、その足のまま行きつけの廃港に向かう

釣り具は持っていなかったがいつも釣りをする波止場に行き、そこで海に向かって釣り糸を垂らす老人を見つけた


何の気なしに、コトリンは彼から少し離れた隣に座る


「久しぶりじゃな。コトリン」


「お爺さんも。お元気そうで何よりです」


暫しの沈黙が続く


「リラは元気じゃったか?」


「え?」


「行ったんじゃろ?あの店に。鼻や目が染みてくるその香りで分かる」


「ご…ごめんなさい」


「良いんじゃよ。リラも帰ったらいつも同じ匂いを付けてくる」


「お爺さんはリラと知り合いなんですか?」


「わしの妻じゃ」


「んえええええ!?」


「どうにも、あいつの方がわしよりも先に寿命が尽きたらしい。お陰で、この事を公表するだけでリラが転生者だとバレてしまう」


老人は釣り糸をあげる


"ピキエエエエエエエ!"


釣り上げたのは海竜の子供

10体集める事で特別なダンジョンに挑戦できる、期間限定のイベントアイテムだった


「噂によれば、このイベントの上位3人の報酬が輪廻の宝珠らしい。出来れば手に入れてみたい物じゃが、今のわしには無理じゃろう」


「……」


老人は海竜をインベントリにしまうと、再び釣り糸を垂らす

その様子を見て、コトリンは決意した


「ねえお爺さん。私とアイテムトレードしない?」


「何じゃ?わしはそんな良い物は…」


コトリンは、自分が出すアイテムを提示する

手のひら大の大きさの金色に輝く透き通った宝珠。中心には、輪廻転生を描いた曼荼羅が浮かび上がっている

輪廻の宝珠だ


「お爺さんの持ってる海竜の子供全部と交換。どうかな?」


老人は目を輝かせながら宝珠に手を伸ばそうとして、ふと我に返る


「な…こ、こんなの釣り合っておらん!」


「これを持つべきは私じゃ無くてお爺さんだと思うんだ。それに、上位に入れれば報酬のおまけつきで取り返せるし」


「本当に…良いのか…?」


「勿論。辛い時、いつも相談に乗ってくれたお礼だと思って」


トレードは成立した

老人は宝珠を、コトリンは9体の海竜の子を手に入れた


「本当にありがとう…コトリンよ…お前にとってもこれは貴重じゃろうに…」


「大丈夫だよ。その代わり…」


コトリンは老人から釣り糸を借りると、海に垂らす

アタりは直ぐにあり、コトリンは見事、10体目の海竜を釣り上げた


「私はこれで取り返すから」

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