過去を捨てなくては、未来の場所がない
贅魔王は残りの半身も磁界門から出し、そのまま贅征神君に跨る
"カアアアアアアアア!"
魔王を乗せた神君は、銃王と共に三人の方に向かう
磁気飽和の発生源はコトリンでなく魔王なので、フィールドも一緒に迫ってきていた
「来るぞ!」
磁界飽和から逃れる為、三人は散り散りになる
磁気フィールド内では常に落雷が発生しており、一発でも当たれば即座に魔王の支配下に置かれてしまう
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真面目にあとどれだけ戦力あるのか知りたい
少なくともまだワンパンゴリラ見てないな
ワンパンゴリラすげー爽快で好き
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三人とも贅魔王一味に手いっぱいで、コトリンはコメントを読むくらいには暇になった
「ワンパンゴリラ君ねぇ。正直、今回は出番無いかなーって思ってる。ぶっちゃけロマン砲だもん。あれ」
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まあ溜めも後隙もでかそうだもんね
えー見たかったのにー
《ヨグヨグ:7000コイン》
像は規模でかすぎてステージギミックって感じだけど、ワンパンゴリラ君はちゃんと必殺技っぽくて好感持てる
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「えー?しょーがないなー」
コトリンは九つの大蛇の頭を引っ込める
「でもまあ、ファンの頼みなら仕方無いよね!」
コトリンは三人の方を眺めながらプランを組み立てる
(屠猿で仕留めるなら贅魔王は引っ込める?でもせっかく出したし、何より相手が磁気拘束を過剰に怖がってるこのチャンスを捨てるのは勿体無い。彼らを何とか一カ所に集める方法は…)
不意に、コトリンの視界は闇に包まれる
太陽は煌々と照り付けている筈なのに、一瞬で真夜中がやって来たかのようだった
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暗!?
磁気使い過ぎてカメラ壊れた?
あれ、このギミックどこかで…
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(視聴者も同じ状況って事は、視覚系のデバフでは無さそう。という事は)
闇の中に、牙を向き出した狼の顔が浮かび上がって来る
一つや二つでは無い。360°全面にだ
(どうしよう。この技知らない。恒常っぽくは無いからイベントボスのだろうけど)
リラの、転生者としての強みがここで発揮された
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ナイトメアファングじゃん!なっっっっっっつ!何十年前も前の奴じゃん!
山ほど狼が飛びついてくるやつか
《ジークルーネ:ことりんくらぶメンバー》
北東と南西から時計回りだっけ
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「サンキューお前ら―!愛してるぜー!」
視聴者の予言通り、影の狼が北東と南西、鬼門と裏鬼門から飛び掛かって来た
ボスの必殺技は往々にして派手だが、知ってさえいれば回避は容易い
コトリンはリラのナイトメアファングを、徒歩で躱した
闇が晴れる
コトリンが最初に見た物は、悔しそうにこちらを睨むリラの顔だった
「ごめんねー!君に年の功がある様に、うちにはうちの強みがあるのだよ!」
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《ジークルーネ:ことりんくらぶメンバー》
全く無自覚でコトリン助けてしまった件
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「ジークルーネさんには、あとでうちがスポンサーやってるエナドリを段ボールで1ダース贈呈して進ぜよう!」
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《ジークルーネ:ことりんくらぶメンバー》
死んじゃう()
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コトリンの周囲に三つの磁界門が発生し、大剣を持った人狼の士の様な機械が三機召喚される
いつか、坂DOOOONを威嚇する時に使った三体の"蛮浪"は、そのまま贅魔王の元に駆け出して行った
ぐわり
コトリンをめまいが襲う
蛮浪と爆御が三機づつ、銃王、贅魔王、贅征神君、更には不動鏖滅大帝
10機もの機械獣の同時操作は、今の彼女の脳のキャパシティを超えていた
特に、大帝の鏖滅砲のチャージには多大な集中力を要する
(うっぷ…流石に出し過ぎた…)
平衡感覚を失い、コトリンはその場でへたり込む
彼女の異変に、三人は直ぐに気付いた
「奴が怯んだぞ!」
ソルトは叫びながら、全員に加速バフをかける
交戦し続ければいずれ負ける
やるなら今しか無い
絶望の中で、目の前に希望をぶら下げられると、人と言う生物は往々にして正常な判断能力を失う
コトリンの元に行けば磁界からも抜けられる
怯んだコトリンに攻撃を当てられれば、この戦いは終わる
そう言う希望に目が眩み、3人はコトリンの前で集結してしまった
「ファンの頼みなら!」
コトリンは叫ぶ
「うちはやる!」
更に磁界門が開く
二体目の贅魔王だ
「な!?」
ぶら下げられた希望がただの釣り針だと気付いた頃にはもう遅い
3人は、三機の蛮浪に取り囲まれていた
間髪入れずに、コトリンは更に門を開ける
屠猿の上半身。その拳は、青白い磁気光を纏っている
「はぁ…はぁ…うっぷ…」
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無理しないで
俺たちの為にそこまで…
《ぺけぱかCEO:80000コイン》
落ち着いて、余計な事は考えるな
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「クソッ!」
アウレリウスは包囲網を突破しようと剣を振るうが、三機の蛮浪がそれを許さない
屠猿が振りかぶる拳に、次第に光の粒子が集まって来る
銃王と一機目の贅魔王、贅征神君も包囲網に合流し、3人は完全に逃げ場を失った
もしキソゴンゾウが居れば、脱せたかも知れない
「えいやあああああ!」
コトリンは拳を振り下ろす
途轍も無い光量を伴った電磁の爆発が周囲の景色を白一色に染めた
光が晴れる
屠猿の拳は地面に触れてもいなかったが、規定量を優に超える磁気を帯びた3人は、コトリンもとい二機目の贅魔王の支配下に置かれた
銃王、一機目の贅魔王、贅征神君、三機の蛮浪と爆御は既に引き払っている
残ったのはコトリンの背後の贅魔王と、
“ブオオオオオオオオオオオオ!!!”
チャージが完了した大帝だけだった
「はぁ…はぁ…ふぅ。収まった。気を失わなくて良かったよぉ」
コトリンは立ち上がり、固着した3人から後ろ歩きで距離を取る
「お前は…」
ソルトが口を開く
「ん?」
「お前は、我々への勝利が何を意味するか知っているのか?」
「暗殺が無くなる!」
「補給を受けられなくなった灰の戦線は、間違い無く壊滅するだろう。そうなれば、この街の平和は終わる。この街の豊かな資源を狙った外のプレイヤーが続々と侵攻して来る事だろう。それでどれだけの惨劇が巻き起ころうとも、それは全てお前の…」
「攻め込んでくる方が100悪い!うちは知らない!」
「…無責任が…」
「それに、案外仲良くなれるかも知れないじゃん?外のプレイヤー?が本当に邪悪かなんて、あって話して見ないと分からないでしょ?」
「………」
ソルトは、ふっと笑う
「お前なら、或いは可能かも知れないな」
鏖滅砲が放たれる
3人は、跡形残さず掻き消えた
ノーブルス対髑髏と愉快な仲間達のギルド対抗戦は仲間達の勝利と言うことになったが、戦場で生き残ったのはコトリンだけだった
「ふぃー終わった終わった!」
戦争が終わり、コトリンは髑髏本部のゲストルームに戻される
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お疲れー
乙ー
やりやがった…マジでやりやがったよこの女!
明日から無政府かー。取り敢えず筋トレしとこ
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「お前らもお疲れー。そんじゃ、今日はそろそろ乙るかなぁ。明日は多分1日ダウンしてるから、次の配信は明後日の夜くらいって事でー
例のホラゲの続きやっちゃうよー!」
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楽しみー!
《うへへ男爵:500コイン》
お疲れー
《グラットンビーム:2000コイン》
またなー
《餡子ひねりねじり納豆添え:ことりんくらぶプレミアムメンバー》
お休みなさい^^
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コトリンは配信を消し、再三確認してからドローンをしまう
(さて、英雄の帰還と行きますか)
コトリンは部屋から出ようとして、携帯の通知に引き止められる
(何だろう?)
ことりんくらぶプレミアムメンバーからのメッセージで、キソゴンゾウからだった
『お疲れ様です。この後って空いてますか?うちのスポンサーの方がコトリンさんに興味を持ったらしくて、是非会いたいとの事』
「お」
とんだ棚からぼた餅
コトリンは携帯をしまうと、直ぐに部屋を飛び出した
「お前すげーな!まじでやったのか!」
「これは流石としか言いようがありませんね」
髑髏のメンバーからの称賛の声も振り切り、コトリンはそそくさと外に出る
「おい!どこ行くんだよ!」
カリーナが呼び止める
「ちょっと新しい仕事が取れるかも知れなくってね!急いでるんだ!あ、祝勝会には絶対呼んでよね!」
コトリンはそれだけ言い残すと、磁界門から機械の馬、“御神殻僕”を召喚して跨り、車顔負けの大急ぎで新たな案件の元へと向かった
やって来たのは高層ビル
入り口では、キソゴンゾウが待っていてくれていた
「随分と早いね」
「コインの為ですもの!」
コトリンはゴンゾウに案内され、最上階へ繋がるビルに乗り込む
(玄関も受付もエレベーターも全部広い!それにここって確か、多頭崩壊乃大蛇の修理代出してくれた企業だよね。ノーブルスも手玉に取ってたなんて、手広くやってるんだなぁ)
エレベーターが止まり、扉が開く
コトリンは外に出たが、
「君は来ないの?」
「二人で話したいらしい」
「ふぅん。そっか。道案内ありがとね!ゴンゾウ君!」
「…べ、別に、俺はそんな…どう致しまして…」
照れるゴンゾウを乗せ、エレベーターのドアは閉まる
コトリンは雲のようにふっかふかの床を踏みしめ、長めの廊下の突き当たりにある社長室の前まで来る
ノックをしようとしたが、中から厳しい声で「入れ」と聞こえたので、コトリンはそのままドアを開けた
「どうもー!オーメントピアいちの…」
「……………」
目の前に座る男の顔を見た瞬間、コトリンは顔を怒りに歪め、室内である事にも構わず銃王を召喚した
ほぼ同時に男の前にももう一機銃王が出現し、コトリンのと睨み合う状態になった
男の銃王の目は赤く、素材の違いからコトリンの物より若干装甲が黒ずんでいた
「…何であんたがここにいるの…」
「ビジネスパートナーになろうとしている者に向けての第一声がそれか?」
男は椅子から立ちあがる
「リア凸?するのは初めてだな。どうも。ぺけぱかCEOこと、アンジャンクホールディングス総裁、ジャヴァ・スクリプトだ」




