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ゲームが全てを支配する世界ですが、今日も元気に配信します!  作者: ぬるぽガッ
プロローグ どうにも、彼女は全てを持っていた様に見える
14/42

天才とは努力する凡才の事である

コトリンは、インフラも通っていない廃墟スレスレの安アパートで産声をあげた

父親は36歳の浮浪者で、母親はどこかのうっかり者の風俗嬢

物心付いた時からコトリンは、戦う力の無い者がどうなって行くのかを嫌という程見せられてきた


戦わなければコインは得られず、コインが無ければ何も買えない

誰かの下について働こうにも、普通の生活が送れるだけのコインは手に入らない

ましてや家族を養う事など


「…コトリン」


「なあに?」


「俺の事どう思ってる?」


「大好き!」


「そっか。俺もだよ」


コトリンが最初の裏切りを経験したのは、6歳の頃だった

ダンジョンの中での出来事だった


「ねえパパ、ここどこ?なんだか怖いよ…」


「悪魔級ダンジョン。難易度は魔王級と同格なんだが、入り口で対価を差し出すと探索も戦闘も無しでクリア扱いにして貰える」


コトリンの父親ジァヴァは、幼い我が子を連れ、青い炎で照らされたホテルのロビーの様な場所にやってきた

フロントには紫色の肌の、スーツ姿の痩せた悪魔が立っていた


『本日はご来店ありがとうございます。本日は無期限か日帰り、どちらのご宿泊プランに致しましょうか』


「日帰りで頼む」


『かしこまりました。追加料金は…』


悪魔の男は、ジャヴァの足の影で震えるコトリンを見つける


『素晴らしい。ご用意出来ておられる様ですね』


装飾品だった鎧が動き出し、コトリンを捉える


「何?はなして!」


『では、お客様はこちらへどうぞ』


ジャヴァは悪魔の男に案内され、報酬のある部屋に通される

一方コトリンは、この後一生のトラウマとなる出来事を体験する事になった




(変だな。何で今こんな事を思い出すんだろ。相手が悪魔だからかな?)


例え内面がどれほど醜くとも、魅せ方次第では誰かから愛される事だって出来る

それが、コトリンが父親から唯一学んだ事だった


海竜の突進を身を翻して受け流しながら、アウレリウスの剣撃もかわし続ける


「君にはうちが、そんなに特別に見えるの?」


「これ程までの力になるまでノーブルスに捕捉されずに生き延び、尚且つ、今のお前には愛してくれる大勢の人間も居る。お前は特別なんだよ。誰が何と言おうとな」


「まぁ、そう見えるよねぇ」


コトリンは高くジャンプし、背後から突っ込んできた海竜の背に乗り、竜の胴体を後ろ歩きする事でその場に留まる

その隙にアウレリウスは飛翔し、紅い拳銃をコトリンに向けて発破する

コトリンは身を揺らして弾丸を回避しつつ、アウレリウスと向き合う


「自覚してないだけで、君の言う通りうちには何か特別な才能があるのかもしれない。でもね、うちこう見えてもそこそこ努力したんだよ?」


視聴者0人の中喋り続けた日々

生計を立てる為、巡視者一機だけでボロボロになりながらダンジョンを回った日々

楽では無い過去があるから、今のコトリンが存在する


「苦労してやっと手に入れた結果を、“あんたは特別”の一言で片付けられるのは、流石に気分が悪いかな。君がうちのファンだったら、喜んで真に受けるけどね」


海竜から飛び降りた所で、コトリンの動きが止まる

ソルトの拘束魔法が、再び発動したのだ


「まずっ」


直ぐに大帝と銃王を動かし、ソルトの迎撃に当たる

大帝のガトリングガンは、渦の外で機械獣と戦っているリラによって食い止められたが、銃王の射線が通りソルトは回避を余儀なくされた


「はぁ!」


アウレリウスの刃が降り掛かる

コトリンは間一髪身を逸らしたが、右耳を損傷してしまった


地面に、少量のコトリンの血が落ちる

アウレリウスの刃先にも


「っつ…」


コトリンは耳をさする

少し欠けてしまっていた


「…」


アウレリウスは、コトリンを切った刃に視線を落とす

当たると思っていなかったのだ


「…これで分かった?うちだって人間なの。努力しなきゃ結果は出せないし、どうしよも無い事を解決する力も無い。動けば疲れるし、傷付いたら痛いし、傷付き過ぎたら死んじゃうんだよ」


「そんなに戦いたく無いのならどうして挑…」


「君達が暗殺しにくるからでしょ!?」


真上から海竜が来る

コトリンが二歩前に進むと、竜は何も無い地面に突っ込んでいった


「うちはただの人間だから、戦いたくなくても、挑まなきゃいけない時はあるの!何もしたく無いのに、挑戦しなきゃいけない時だってあるんだよ!

うちは別に、君達が暗殺に手を出してる事を否定してる訳じゃ無い!ただ…何て言うか、君達の行為を止める事を否定しないで欲しい!そうじゃ無いとうち…頑張れなくなっちゃうから!」


「………」


コトリンの背後から海竜が迫る


「あはは…うち何言ってるんだろう。久し振りに痛い思いして、少し気が立っちゃったのかな」


コトリンが拳を振り上げると、海竜は真下から突き上げられた屠猿の拳にぶっ飛ばされた


「ごめん、もう大丈夫。みんなにはまた情けない姿を見せ…あれ?」


コトリンは辺りを見回してみるが、カメラドローンの姿が無い

爆御と一緒に締め出されていたのだ


「うそ!今の今まで取れ高ゼロ!?」


コトリンの背後に上向きの磁界門が開き、牛頭の法師の姿をした機械獣が上半身だけ召喚される

更に九つつもの磁界門が彼女の周囲に開き、多頭崩壊乃大蛇の頭が一つづつ召喚される


「じゃあ、ちょっと本気出さなきゃだね」


コトリンは欠けた耳をさすりながら、アウレリウスに向けてぴしゃりと告げた


「良いだろう…出し惜しみなんてしてくれるなよ!」


次の瞬間、大蛇の頭はその口か、全方位に向けて熱線を放つ

その凄まじい質量にリラのダイダルは耐え切れず、渦は崩壊した


「な!?」

「抜けられた!?」


銃王と大帝の弾幕に耐えながらアウレリウスの帰りを待っていた二人が、一斉に弾けた渦の方を見た

全ての大蛇に睨まれたのでアウレリウスはあえなくリラとソルトの方に合流し、爆御、銃王、それから撮影用ドローンがコトリンの方に戻る


ーーーーーー


お帰りーーーーー!

耳やばくね?

あいつにやられたのか

銃王の戦闘シーン普通にカッコよかった


ーーーーーー


「ごめんお前らー!あの渦対象指定らしくってさぁ!」


ーーーーーー


ええよ^^

トラブルとは言えたまにはこう言うのも良いな

メカかっこよかったです

《32歳独身フリーターメカ豚:200コイン》

戦闘メカの激エモ戦闘シーンが見れて良かった


ーーーーーー


「嘘、同接あんまり減ってない。こう言うのも需要あるのか把握」


ーーーーーー


それよりコトリン今すごい格好だけど

人型ボスの第二形態みたい

中で何があった


ーーーーーー


「全然何も無かったよ?ちょっとおしゃべりしたりバトったりしてただけ〜」


コトリンは3人の方に向き直る

彼女の底無しの兵力を前に、先程までの余裕はすっかり失せていた


「どうやら君達は、本当に死ぬまで戦うつもりらしいね」


胸の奥底を揺さぶられるような低い音を立てながら、牛頭法師型人型機械“贅魔王(ぜまおう)”は、右手に握るモーターを数珠状に繋げた物を振るう

周囲が磁気に満ち溢れ、大帝以外の機械獣の走行からは空電や青い光が漏れ始める


「でも取れ高逃した事には変わりないから、今日はいつもより派手に行っちゃおうか!」


ーーーーーー


おおー!

やったれ

その牛何?

空気が変わった


ーーーーーー


「この牛ちゃんの能力は、うちの周囲に“磁気飽和”のフィールド効果を付与する事。磁気飽和の影響を受けた機械は、能力がちょっと変化するんだ」


雷鳴と共に、銃王が3人の背後に一瞬で回り込む


「加速、それから」


銃王のたてがみから、実弾では無く青色の光が放たれる


「今度は何だ!」

「任せて!【起動:結晶の砦】!」


リラの前に、水晶の砦が聳え立つ

弾は砦に当たると電流としてその内部を進み、壁を抜けると再び弾としての形を取り戻し推進する

電気の銃弾は、そのまま3人に降りかかった


「…ん?」

「何だ?」

「効いていない?いやこれは…」


アウレリウスが周囲に残した薬莢や、地面に落ちていた金属製のものが、弾の当たった3人に吸い寄せられている


ーーーーーー


!?

磁石化?

なるほど攻撃力を犠牲に磁気を付与できるようになるのか。何故?


ーーーーーー


「磁気飽和の間、うちは一切の殺傷能力を失いまーす!」


ソルトの魔法で加速したアウレリウスが、コトリンの方に駆け出してくる

切りかかってきたのを爆御が阻み、エネルギーを得たそれはそのまま爆発する

ただ伴ったのは熱と炎では無く、青白い電流だった


「こいつの攻撃力が失われたのであればこっちのものだ!」


アウレリウスは爆御を蹴って退かす

コトリンは後退しており、周囲の九つの蛇頭がブレスを放つ寸前だった


青白い九本の光線が降り掛かる

アウレリウスは、光線はかわすか刃で受けて散らし、リラが出した狼の幻影と共に並走しながらコトリンを目指す

彼女の首を間合いに収め、刃を振るおうとしたその時だった


「………?」


「もー、ダメージ受けないからって油断しすぎだよ?」


コトリンが手を掲げると贅魔王も同じ動きをし、アウレリウスは空中でぴったりと停止した

重力に任せて落下すらしない


ーーーーーー


えっぐ

火力無いけど攻撃当て続けたら実質エクストラウィンって事か

術中にかけるのにしきい値どんくらいなん?


ーーーーーー


「うーん…数えた事ないけど、致命傷よりちょい上くらいかな?」


ーーーーーー


ガード不能でそれだろ?普通にチートじゃね?

いや、攻撃パターンが変わった訳じゃない。ガード不能言うても、機械獣それぞれの攻撃への対処法が変わった訳では無い。ライオンはかわせ、魚は殴るな

もしかしてコトリンは加速しない感じ?


ーーーーーー


「そ!うちが贅魔王を動かせるようになる前に倒された終わり、おまけに相手に傷を負わせれなくなるって事は、負傷させて行動を鈍らせるとかができなくなっちゃう!それこそさっきみたいに被弾覚悟で突っ込まれるのは普通に厳しいよ!」


ーーーーーー


で、こっからどうするの?

ダメージ負わせれないんでしょ?


ーーーーーー


「そりゃあ、決まってるよ」


大帝の銃口が、アウレリウスに狙いを定める

当の彼は、スキルは愚か少しの移動もできない


磁気飽和はあくまでもフィールド効果

遠く離れた大帝までは届いていなかった


ーーーーーー


引くほど容赦ねえwww

コトリンたやの御身を傷つけた罪は重い

おっそろし


ーーーーーー


大帝の機銃が火を噴く

アウレリウスは、せり出した結晶の壁によって守られた


コトリンの背後から狼の幻影が飛びつく


「うおっと!」


コトリンは身を逸らして回避する


「離れろアウレリウス!」


ソルトが叫びながら魔弾を発射する

コトリンは更に後退したが、磁界飽和フィールドも一緒に移動した為、地場から出たアウレリウスの拘束も、三人に蓄積していた磁気も綺麗さっぱり解消された


コトリンを襲った狼は、アウレリウスを咥えて二人の元に連れて帰る


「奴の攻勢に翻弄されてばかりだ。何か攻め手を見つけなければいずれ全滅するぞ!」


ソルトはかつて無い程の焦燥感に苛まれや叫ぶ


「落ち着いて。彼女自身に戦闘力が無いのは変わってないわ」


リラは、コトリンが今出している機械獣の位置と種類を確認しながら、何か突破口は無いかと思案する


「奴があとどれだけの手札を持ってるか不明だ。…出し惜しみするなといった手前ではあるが、あそこまで余裕を保ち続けられるのは流石に予想外だな…」


アウレリウスはコトリンを睨み、不自然な冷風に気付く

完全復旧した大帝が再び鏖滅砲のチャージを開始したのだ


「確かにうちは防御の方が得意だけど、攻め手にあぐねてる敵を眺める程親切でも無いのさ」


コトリンは、磁気フィールドと共に前進する


「何より、動きの無い地味な絵面じゃ取れ高が狙えないのだよ!」


磁界門が開き、天翔る機械の竜“贅征神君(ぜいせいしんくん)が滑り出てくる

その名の通り、贅魔王の影響下で真価を発揮する機械だ

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