人は人を傷付けて成長する
ノーブルスの砦の前に、一人の男が立ち塞がっている
彼の名はキソゴンゾウ
第四次役職、空間操者である
彼は、攻撃を異次元空間に転移させる事で防御する
その性質上、彼の防御は決して破れない
(く…ディメンションピースを120個も消費しちゃった…)
空間を開くには、いくつかの素材を合成する事で手に入るディメンションピースと言うものを消費する
閉じると、開くときに使った75%分のピースが還元されるのだが、それは大きな空間であればあるほど沢山のピースを消費する事を意味する
飛び道具への絶対の耐性と引き換えに、彼自身には戦闘能力は殆ど無い
このまま守り続けても、味方の攻め手が無ければいずれ敗北する
鏖滅の火矢を放ち終えた大帝は動きを止め、そのまま冷却モードに入る
大帝の周囲が凍て付くが、侵攻と比べたら遥かに無害である
敵陣の彼方から、軽やかなスキップでコトリンがこちらに向かってくる
冷静さに欠いたノーブルスが銃を構えたが、引き金を引く前に大帝のガトリングガンで粉砕された
「やぁ!今の攻撃止めたの君でしょ?凄いねぇ!」
「………」
「もう、なんか話してよイジワル~!」
コトリンはスキップのまま、ゴンゾウの脇を通り過ぎようとする
「ねえ」
不意に、ゴンゾウが口を開く
「うん?何カナ?」
「前、言ってたよね。死ぬのは嫌いだって。だったら何でそんなに楽しそうにしているの?殺しが、破壊が、そんなに楽しいの?」
「………」
希望の見えない防衛戦
既に、ノーブルスの戦意は喪失していた
「君の言う通り、確かに死ぬのは嫌い。でも、うちが死んで数字が取れるなら、うちは喜んで乙る!それに、そんな深く考える必要も無いと思うんだ」
コトリンは両手を広げる
「だって、これはただのゲームでしょ?それなら目いっぱい楽しまなきゃ!」
「…そっか」
キソゴンゾウは両手を挙げる
「僕は降参する」
「何も取らない!」
「ありがとう、コトリン」
「どういたしまして!うちはファンに優しい配信者なのだよ!特に、君みたいに沢山コインをくれる人にはね。キソゴンゾウ君」
「…ふ…」
コトリンは、再びスキップで進み始める
「これだから、コトリン推しは辞められない」
ゴンゾウは、光の粒子となって戦場から消え去った
他のノーブルス達もゴンゾウに倣って降参するが、ファン以外には厳しいコトリンによって全コイン全アイテムを根こそぎ奪われた
「ふぅん」
コトリンは辺りを見回す
もう敵は殆ど残ってない
「疑似政府ノーブルス、最初はどんな物かと思ったけど、大した奴は居なかったね」
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銀鎖のレオナルド、聖王フライパンマン、無敵傭兵やげほ氏、剛腕のベルゲス、精鋭なら沢山居た。全員纏めて像の鼻息で消し飛んだけどなwwwwwwww
もうお前政府で良いよ
政府って言うか、そもそもちょっと大手だからってしょーもない正義掲げてダンジョン独占たり、PK禁止し得おきながら自分らは罪人処刑とか言ってPKボーナス独り占めして調子に乗ってた間抜け共だからな
ていうか俺達には運営が敷いた黄金律があるのに、これ以上ルールは要らなかった
ノーブルスは物量だけの雑魚とかそれ結構前から言われてた
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「燃やすのは無し…と言いたいところだけど、今回は流石にうちも擁護しないかな。うちだって被害者だもの」
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お前ら…これが大箱配信者を怒らせたギルドの末路だ。しかと目に焼き付けとけ
実際コトリンて集団戦めっさ有利そうやな。機械に暴れさせて自分は芋ってれば良いんだもの
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「まあ最近は楽ちんになったけど、昔は結構大変だったよ?手から火の玉とか出してくる超人の集団から、常に逃げ続けなきゃいけないんだもん。うち自身のスペックは一般人と変わらないからさ」
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やっぱ暗殺安定か
ギルド対抗戦じゃ勝ち目無い把握
コトリンが最後通牒送り付けるだけで攻撃として成立するのやばすぎ
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「うちがそんな強欲に見える?見えるか。でもそんな事はしないよ。そうやって稼いだコインでご飯食べてもおいしく無さそうだからさ」
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君は魔王なのか聖人なのかどっちだ
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「うちはファンとコインをこよなく愛する、オーメントピア1の人気配信者、コトリンだよ!」
ノーブルスの陣地の二階の窓から、アウレリウスはコーヒー片手に戦場の様子を眺めていた
味方は九割九分九厘全滅
当然だ。中央の生ぬるい環境で、物量と装備の質に物を言わせてふんぞり返ってただけの軟弱者共
上質な装備と戦闘経験を両立した強者に、勝てる訳が無い
実際、今までノーブルスが調子に乗れていたのは、成長途中の第四次役職を早急に始末したり、他のプレイヤーが高レアなアイテムを入手できない様に画策して環境を弱体化させていただけであって、本体が強い訳では無い
「もやし共には丁度良い薬になったな。お前もそう思うだろ?ソルト」
アウレリウスはコーヒーを飲み干す
「過激派を弱体化できたのは嬉しい誤算だ。彼女には感謝しなくては。そうだ、彼女に一日ギルドマスターになってPRして貰うと言うのはどうだろうか」
「はは。そりゃ良い」
部屋の奥から、小さな影がやって来る
「でも今は、この戦いに勝つ事を考えなきゃ。そうよね?」
それは髑髏と愉快な仲間達唯一の第四次役職、リラだった
「リラ士官も、今回は良くやってくれた。」
ソルトからの激励の言葉
「妾はそんな大層な事はしておらぬ。幾ら事前調査を積んでも、彼女のアドリブの前には全部パー故」
「コトリンが髑髏と接触したと言う情報だけでも十分だ。彼女が利己で動いている訳でないという事も知れたしな」
三人は戦場を睥睨する
「さて、そろそろ行くか。お前はどうするソルト」
「私も出よう。だが勘違いするな、私は戦いに行くのであってお前の援護をする訳では無いからな」
「くふふ、お主らは相変わらずじゃなぁ。ま、せいぜい妾の技に巻き込まれんよう注意する事じゃな」
「さてと。確かあの中に旗があるんだよねぇ」
"タタタン!"
斜め上から三発の銃弾
コトリンは咄嗟の連続バク転で回避する
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まだ居たのか
やっちゃえコトリン
もうこの試合良いから例のホラゲの続きしよーぜ
《湯エフ:500コイン》
こないだ買った最新型VRゲームやって欲しい
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「ごめんみんな」
敵陣の方から、三人のノーブルスが歩いて来る
アウレリウス、ローブ姿の長身の金髪青目男はソルト、そしてリラ
「ちょっとガチらないとやばそうなのが出てきた
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マジ
頑張えー
お前ならいけるって
やばそうだったら降参…は流石にあかんか
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コトリンは小さな磁界門に手を突っ込み、キンキンに冷えた銀のスキットルを取り出す
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おい…
そりゃまさか…
あかん、まじであかん
マジで死ぬぞ!!!!!
やるんだな…今、ここで!
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「おう!やってやるよ!」
コトリンはスキットルの蓋を開け、満タンに入っていた内容物を一気に飲み干す
7種のエナドリに100種以上の液体漢方、顆粒や錠剤タイプの滋養強壮剤の煮出し汁、そこに高麗ニンジンのパウダーやマムシエキス等、やたら高い滋養強壮食品を全てを混ぜ合わせ煮詰め凝縮し、最後に機械で強炭酸をぶち込んだ究極飲料
深夜配信のノリと勢いだけで生み出されたそれには、電極をさすと何故か豆電球が点灯した事に因んで"バッテリー"と名図けられた
「ごふぁ!?」
コトリンは、ケミカルな香りと泡を吹き出しながら倒れた
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そしてこれである
自滅wwwww
コトリンチャンネル終了のお知らせ
ガチらないとやばい敵の前で何てことをwww
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「…自殺したのか?」
ソルトが一瞬気を抜いた瞬間だった
「「離れろ!」」
アウレリウスとリラの声がほぼ同時に響く
間一髪で、ソルトは真横からの爆御の突進を回避できた
「ふふふ…バッテリーの力を借りた今のうちはねぇ!無敵なのだよぉ!」
コトリンが弾かれる様に起き上がる
息は荒く、目は不自然なほど力強く、そして何より随分と楽しそうだった




