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ゲームが全てを支配する世界ですが、今日も元気に配信します!  作者: ぬるぽガッ
プロローグ どうにも、彼女は全てを持っていた様に見える
11/42

希望も夢もいらない。認めてくれる誰かが欲しいだけ

「どう?貴女がケルベロスときーたんとモニター騎士団にした様に、今回の戦いも独り勝ちを狙ってみないかい?」


「………」


コトリンは考える

質問の答えでは無く、どうやって伝えるかをだ


「…ありがたいお申し出ありがとうございます。ですがご遠慮させて頂きます。いたずらに敵を増やしたら、ファンが減っちゃうかも知れないので」


「ふ…ふふ。そうかそうか。まあ、今の事は軽い冗談だとでも思っておいておくれ」


リラはベイプを深く吸い込む


「話は変わるが、貴女、勝算はあるのかい?」


「?」


「今のうちのギルドは数こそ多いが、総合戦力で見たらノーブルスの半分未満と言った所。まともに戦えるメンバーは妾含めても10人居ないと思ってくれて良いわ」


「一応こうなったらいいなって言うシナリオはあるんですけど、メインはやっぱり現場でのアドリブになりそうですかね」


「シナリオにアドリブ。口ぶりがまるで動画撮影だね」


「すみません。癖になってるもんで」


結局、ノーブルスは決闘の申し入れを受諾した


開戦までの16時間

全ての元凶であるコトリンだけは、やる事も緊張感も無くぐーたら過ごした






荒野

草は無く、グラウンドの様な茶色い大地だけが地平線の彼方まで広がっている

岩で作られた古びた要塞、“陣地”だけが、荒野を挟んだ遥か彼方から睨み合っている


「この短期間で、二度もここに来る事になるなんてね」


コトリンは味方陣地の屋根の上から、遠くの方に蜃気楼の様に鎮座する“敵陣地”を眺めながら呟く


ルールはシンプル

敵の陣地に侵入し陣地要塞の最深部にあるフラッグを自陣に持ち帰るか、敵を全員を倒せばクリアだ


コトリンは携帯を開く


ーーーーーー


復旧まで残り

00:00:05


ーーーーーー


携帯をしまい、代わりに撮影用ドローンを磁界門から出現させる


24時間振りのインターネット

人類はきっと、メディアに飢えている筈だ

みんなオンラインゲームのデイリーを回収しに行くかも知れないし、ニュースサイトをパンクさせに行くかも知れない

それでもコトリンは、凍結が解除された瞬間に、配信を付けた


「よーお前らー。久し振りだなー」


ーーーーーー


ーーーーーー


「ですよねー」


コトリンの指定した時間になり、試合が始まった


「確認なのですが、我々は本当に守備に徹するだけで良いんですね?」


ブルドッキングがいつもの抑揚の無い声で確認する

彼は不安を隠しきれていない様子だった


「うん。相手は爆撃機とかも使ってくるだろうから、気を付けてね」


「分かりました」


コトリンも、少しテンションが落ちていた

視聴者0人の中配信し続けるなど、並のメンタルであれば耐えられない行為だ


然し、彼女は知らなかった

パンクしたのはニュースサイトでは無く、動画投稿サイトの方だと言う事を


コトリンは歴史上で初めて、超大手動画サイトをたった一人ではち切れさせた

想定外の事態により、視聴者数表示はバグで0に固定されコメント欄も一時凍結、定員オーバーを食らった視聴者が公式の配信になだれ込んだので、公式配信も破裂寸前だった


いち投稿者が、事実上の政府と正面からやり合うなど、後にも先にもこの一度きりであると、人々はそう確信していたのだ


「えー今回は、まぁ色々ありまして、ノーブルスと戦う事になりましたー!ひえーい!」


ーーーーーー


ーーーーーー


レスの帰ってこない、実に虚しい配信


コメントとスパチャの奔流が巻き起こっているとも知らずに


「………」


開戦

重火器で武装したノーブルスが一斉に侵攻を始める

戦車や戦闘機、更には無数の召喚獣まで出撃し、ものの数分で戦場は地獄絵図となった


だがコトリンは、屋根の上で体育座りをしながら動かない

彼女は、普通に落ち込んでいた


「こんな配信は久し振りだなぁ…まるで初日に戻ってきたみたい。はは、寂しいもんだね」


ーーーーーー


ーーーーーー


「うち、時々思うんだよ。こんな事いつまで続けれるのかなって」


次第にコトリンから、“配信者コトリン”が剥がれ落ちていく

彼女は初めて、配信内で、衣装のまま素に戻ってしまった


「辛くなるたんびに、何で配信してるのかって自分に問い掛けたんだ。その度に、お金の為って答えて、自分を慰めてた」


戦線はあっと言う間に壊滅し、敵の軍勢はもうすぐそばまで迫っていた


「でもね、今はもう、一生豪遊して暮らしても使いきれないくらいのコインは手に入ったんだ。だったらなんでまだ配信続けてるのかなって」


ーーーーーー


ーーーーーー


「趣味じゃ無い。私、ほんとはとんでもなく根暗なんだ。人を信じるのが怖くって、友達だと思ってても、そのうちまた裏切られるんじゃ無いかなって。青春も机に突っ伏してやり過ごしてた。まあうち中卒なんだけどね」


コトリンは涙を袖で拭い、鼻をするる

配信内で涙を見せるのも初めてだ


「お金の為でも無い。自己顕示欲なんて私には無い。だったら何だろうって」


ーーーーーー


ーーーーーー


「うち、お前らを裏切りたく無いんだと思う。散々スパチャ貰った挙句、用済みになったらポイなんて、そんな…“あいつ”と同じような事はしたく無いんだ。

そう、きっと私は、自分を維持する為だけに続けてるんだ。エナドリがぶ飲みして、ゲームやったりフィールドワークしたり、たまに歌ってみたり。そんな低俗なライフワークが、いつのまにか私の一部になっちゃってたんだと思う」


爆雷がコトリンのすぐ後ろで爆発したが、彼女は一切動きも抵抗もしなかった

自分の血で湿った土で、コトリンは汚れる


「でも、誰もうちの事を見ていないこの状況になって気付いたんだ。

うち、お前らの事が好きだ…!」


コトリンは本格的に泣き出す


「面白くも得意でも好きでも無いゲームも、痛い辛い怖いダンジョンも、こんな無謀な戦争も、お前らがいてくれたから乗り切れた。楽しかった!

…そうか…お前らか…ゲームでもエナドリでも無い。お前らが、私と言う人間を構成する上で一番でかいピースだったんだ」


コトリンは空を見上げる

無数の爆雷が降り注ぐが、コトリンはそこから動こうともしない


「でもやっと分かったよ。ウチの一部であるお前らにとって、私よりもネットゲームの方が大切なんだって。この気持ちは、ただの私の思い上がりだったんだって。お前ら、こんなうちに居場所をくれてありがとう。私はもうゲームを降りるよ。じゃあな」


コトリンは両手を広げ、爆雷を受け入れようとする


ーーーーーー


俺の胸に飛び込んで来いことりーーーーーーーーん!!!!!


ーーーーーー


「え?」


ーーーーーー


クソ鯖マジ死ね

頼む届いてくれーーーー!

あれ?

復活してる!

早まるなコトリン!


ーーーーーー


爆雷が、爆御によって防がれる


ーーーーーー


《カボンカボン:9000コイン》

ダンジョンの前で怖気づいてた僕に、楽し気にダンジョンを散歩する貴女が勇気をくれた

《ジル個っと:610コイン》

戦う能が無くてグレー企業で下っ端低所得者やってるわいにとって、コトリンちゃんは生きる希望なんや

《ぎぃぎ:6000コイン》

ダンジョンで仲間を失った日も、妻が絶望に耐え切れずゲームを降りた日も、私はコトリンさんから元気を貰いました

《ウハハランド:1900コイン》

コトリンたんがわいらの事をどう思っとるかは正直良く分からん。だが少なくとも、貴重な人生の時間をコトリンたんと一緒に過ごした事を後悔した事は無いんゴ

《ウド:400コイン》

俺らがコトリンの一部って言うなら、それはこっちも同じだ。俺の友達は、コトリンの配信のお陰でゲームから降りるのを踏みとどまったって言ってた


ーーーーーー


「お前らぁ…」


コメント欄が復活したが、視聴者数の表示は文字化けしてバグっている


「ごめんなぁ…そこに居るのにも気付けなくて…」


ーーーーーー


全部このゴミサイトが悪い

病み病みコトリン(生傷付き)いただきます

むしろいつもより人間らしくて好きだった

取り合えずノーブルスとか言うペテン師共何とかして

やっちゃえコトリン。負けるなコトリン。

心配しなくてもわいらが付いてるで


ーーーーーー


「ごめんなぁお前らぁ。情けない姿をみせちゃって。もう大丈夫だよ。

このゲームにはとっくに飽きてるんだけど、お前らが居てくれるならもう少し続けてみるよ!」


戦線は既に目と鼻の先にまで近付いてきており、今は要塞に侵入されるか否かの瀬戸際になっていた


「じゃあ先ずは、あいつら全員ボコらないとだよね!」






(妙だ。機械獣が一体も居ない。このままでは押し切れちゃうよ?)


キソゴンゾウは神妙な面持ちで、前線を結界術で援護していた

髑髏と愉快な仲間達の防勢は凄まじく、倍以上の戦力差がありながら中々突破できずにいた


もしやと思い振り返ったが、ノーブルスの陣地には土埃一つたっていなかった


(落ち着け、余計な事は考えるな。今はあの雷剣士(らいけんし)の女を突破する事に集中しなきゃ)


雷剣士カリーナ率いる戦闘部隊

彼女たちが、ノーブルスを食い止める最後の砦となっていた


「踏みとどまれ!耐え続けるんだ!」


カリーナはしきりに声を出すが、部隊はもう限界を迎えようとしていた

半分以上が倒され、カリーナ含め残った隊員ももう、アイテムも気力も底をつきかけていた


(確かに兵力差は歴然だ。防戦に回ってなかったら確実に競り負けてた。だが…)


カリーナは周囲を見回す

第四次役職が能力を使った痕跡は見当たらない


(いつまでもこうしてはいられないぞ!何やってるんだコトリンは!)


「上だ!」


不意に、ノーブルスの一人が叫ぶ

ノーブルスの軍勢の真上に大型の磁界門が開いていた


(やっとか…)


カリーナは安堵すると共に、敵の刃を首に受け倒された




機動力度外視、極限まで防御力を追求したでたらめに分厚い装甲

捨てた機動力を補うように、背の上と胴体側面に取り付けられた三基の機関銃

無数の敵を踏み潰すように召喚されたのは、全長30mの鋼の巨象だった


"ブオオオオオオオオオオオオ!!!"


巨獣が一歩進むと、大地は踏み砕かれ戦場が揺れる

背の側面の機銃が地面に向かって掃射され、股下を通ろうとする者は尻尾の先から放たれる熱戦で滅却された


「何だありゃ!?」

「あんなのレイドボスだろ!」

「一旦引くぞ!」


自陣に引き下がって行くノーブルス

それを巨象は見逃さない


背中に新たに、ミサイルの発射台がせり出してくる

ミサイルは直ぐに発射され、敗走するノーブルスを爆砕した


ーーーーーー


相変わらずえげつねえwwwww

もはやMAP兵器で草

いっつも気になってるんだけど、どうやって作ったん?


ーーーーーー


「この"不動鏖滅大帝ふどうおうめつたいてい"の場合は、まず"不朽の盾"45枚に…」


ーーーーーー


ホアァ?

もう無理

最上位装備がオークションに並ぶたびとんでもない額で落札してるのお前だろ

ダンジョン何億個回ったんですか???


ーーーーーー


「流石にここまで大掛かりなのを作るとなればこれくらいの素材は必要なのだよ。いやーこの子が完成した時は、流石にうちのお財布もちょっとピンチになったからねぇ。ま、出費分はしっかり働いてくれるから結果オーライかな?」


ーーーーーー


うちのお財布もちょっとピンチ←??????????

えぐすぎやろ

だめだ俺達とは財力も覚悟も違うwww

死んだら全部パーなのによくそんな事できるなぁ


ーーーーーー


不動鏖滅大帝の力は絶大だった

生半可な攻撃では、オーバーフローした大帝の防御力で完全に帳消しにされ、突破しようとすれば機関銃と熱光線がそれを消し飛ばす

凄くゆっくりと、確実に一歩ずつ近づいてくる破滅を前に、ノーブルスに成す術は無かった


ーーーーーー


これどうやったら倒せるの?

無理ゲーじゃね?

バランス崩壊してらwwww

これが無上限の力か…


ーーーーーー


「倒す方法?簡単だよ、機動力ゼロだから、到着する前に防御無視系の攻撃で攻撃し続ければ良いんだよ。もっとも、時間内にあれの天文学的な数字になってる体力削り切れればの話だけどね。うはは」


ーーーーーー


ああ…ノーブルスはもう、自陣がぺしゃんこになるのを指を咥えて見てる事しか出来ないのか…

もうコトリンの勝ちで良いから次の試合行きましょ

即死属性…と思ったが最初から生物じゃ無いのには効果無いんだった


ーーーーーー


大帝は、ソーラーパネルになってる耳を大きく広げる

パネルは太陽光だけでなく、電気、大気中の魔力やマナ、果ては熱まで、ありとあらゆるエネルギーを吸収し始める


「ダメだ…魔力が…」

「寒い…」

「ぐ…火力だけでは無いと言う訳か…」


気温は下がり、敵味方問わず行動不全に陥る


ーーーーーー


うわーやらしー

ただでさえ化け物なのに範囲妨害まで抱き合わせとは

電気もスキルも不能とかもう無理ゲーじゃね?

複モニターで見てるんだが、純朴な物理職とか"気"で動くスキルとかは撃ててるっぽい

待てよ、これ吸ったエネルギーどこ行くんだ?


ーーーーーー


「妨害?違う違う。これはただの溜めだよ?」


大帝の装甲の側面から、次第に青白い光が漏れ出てくる

大帝は長い鼻を持ち上げ、敵陣地に向ける


ーーーーーー


あ…

これはまさか

もうやめたげてぇ!

今日から無政府かぁ…


ーーーーーー


大帝の鼻先から、光線が放たれる

進路上に遍く全ては一瞬で蒸発し、あわや陣地に到達しとうとした所で、遮る様に展開された結界に阻まれた

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