人は金では買えないと言うが、そう言う決まり文句こそ、貧乏人を経験したことがない何よりの証拠だ
ーーー[グループチャット]モニター騎士団幹部会ーーー
かまなつ
>かまなつ、ペコン、ハリガネムシ到着。
[騎士団長]niru
>てことはあとわいとコトリンちゃんだけやな
[副団長]クラブマン
>いよいよ明日か…緊張するな。
[騎士団長]niru
>結局同盟相手は見つからなかったごめん
ミッド
>受けちまったもんは仕方ないが、負ければ俺達全員破産だもんな。
ゆでたまごかけごはん
>戦争の約束取り付けてから同盟で戦力補充とか、やってる事あくどいよなあいつら。
[騎士団長]niru
>まじ巻き込んじまってすまんみんな
[副団長]クラブマン
>よせやい。多数決で決めた事だろ?
コトリン
<ごめん。ダンジョン漁ってた。
[騎士団長]niru
>うお来た
ミッド
>おせーよ
コトリン
<通りがけに見つけちゃってさ。ほら、目の前にお宝があれば行くしか無いじゃん
ゆでたまごかけごはん
>相変わらずで安心した。最近ずっとダンジョン潜ってるよな。
[騎士団長]niru
>なんやかんやでわいも行けそう会場
かまなつ
>こちら会場。超とーくの方にコトリン陛下を目視で確認すた
[副団長]クラブマン
>で、コトリン的にはこの戦争どう思う?
コトリン
<ぶっちゃけケルベロスは大したこと無い。問題は同盟相手のきーたん@永世名誉viper財団の方。あいつらマジで厄介。下から上までもれなくクオリティ高いもん。
ペコン
>確かスレタイ上がりの連中だっけ。
コトリン
<だよ。頭のきーたんはうちのちょい下くらいなんだけど、戦力的にはあいつとその幹部に大きな差が無い。量産型のうちが10人くらいいると思って。
[副団長]クラブマン
>無事絶望で草。
ハリガネムシ
>その言い方…もしかして勝算あるの?
コトリン
<ついさっきダンジョンの中で思いついた作戦がある。破産ぎりぎりまでギルドのリソース使うけど、多分いける。
[副団長]クラブマン
>もうお前団長で良いよ
コトリン
<そろそろ着く。じゃ、続きは現地で。
ーーーーーー
コトリンは弾むような足取りで、ネオン煌めく夜の街を歩いていた
街の電子光に照らされた、流れる様なピンク色の髪
掛けているサングラスはティアドロップ型で、薄い青色のレンズの奥には自身に満ちたぱっちり目。青と橙のオッドアイだ
厚手のオーバーサイズジャケットを、チャックを締めず両肩を出し着ている
インナーは、タンクトップの様な形をした、お腹出しノースリーブの黒い服
上部が青、下部がオレンジ色のミニスカート
全面がモニターになっているニーハイソックスは1~5分おきに紋様が切り替わり、色々な企業の様々な商品の電子公告が投影されている。
靴はスニーカー。同じ形だが、右足は青、左足は橙色の色違いになっている
コトリンは、ゲームが全てを支配する世界『オーメントピア』で暮らす16歳の少女だ
ファミレスにある一番大きなテーブルに、モニター騎士団の幹部計9名が集まっていた
「マジ…?」
モニター騎士団の財務大臣を担当するハリガネムシは、目を白黒させている
「マジ」
一方コトリンは、渾身の作戦を披露してご満悦
「いやいやいやいや無理無理無理無理!うちの倉庫ほぼ空になっちまうよ!しかもほぼ全部をトラップにして使い潰すなんて!」
「この騎士団の貧相な倉庫で、きーたん団との戦力差を埋めるにはこれしか無い。」
「んなの解除されて終わりだって!」
「一個二個ならね。でもそれが戦場一杯に敷き詰められてるとしたら?」
「胆略的過ぎる」
口を挟んだのは、下位メンバーをとりまとめているミッド
「四、五個に引っかかった時点で範囲検知かけられて全処理だ。せいぜい時間稼ぎにしか…」
「それで良いの。前線で戦うのはウチだけだから」
「お前が強いのは分かる。だが、流石のあんたでも単身でギルド二つに立ち向かうのは無理だろ」
「言ったでしょ?"前線では"うちだけだって」
コトリンは靴を脱ぎ、広告ニーハイの右足を机の上にあげる
すると、ニーハイから広告が消え白紙の状態になった
コトリンがニーハイを指でなぞると、黒い線が敷かれていく
「まず戦場一杯に罠を敷き詰める。前線に出るのは、騎士団唯一のまともな航空戦力があるうちだけ。君達地上部隊は、罠を踏み抜いてきた奴の相手をして欲しい」
「本当にそれで上手く行くのか?」
「考え方としてはタワーディフェンスと同じ。あいつらの方が数も総合戦力も多いんだから、開幕と同時に突っ込んで来るに違いない。あいつらにわざわざ後手に回る理由が無いからね、ていうか回れない。うちには超遠距離火力のクラブマンさんがいるから」
作戦を説明し終えたコトリンは、机から脚をどかす
「でもまあ大部分は行き当たりばったりになりそうだけど…なんとかなるっしょ。飲み物とってくるー」
コトリンは席から離れた
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
ゆでたまごかけごはんが訝しむ
「俺はコトリンに賛成だ。少なくとも、niruが建てたただのテンプレ作戦よりは理にかなってる」
意見を述べるのはクラブマン
「僕はniruリーダーの決定に従うよ。大本を辿れば、騎士団のリソースは全部niruの物な訳だし」
金勘定は得意だが軍事には疎いハリガネムシは、中立に回る
「…コトリンは、うちで抱えるには勿体無いくらいのトップランカー。それは周知のとおりだ」
今まで沈黙を貫いていたniruが、ようやく口を開く
「あいつの足、見たか?あいつがあれを履いて街を歩くだけで、わいらの一か月分の予算を一日で稼ぎ出しちまうんだとよ」
「niruお前…何が良いたいんだ?」
クラブマンは苛立つ
「仮にうちのギルドが潰れようが、あいつはなんにも困らない。お前らも見ただろう、前線で戦うと言い出した時の、あいつの嬉しそうな顔。ただゲームを楽しむ事しか考えてねえ奴の顔やった」
「つまりリーダーは、コトリンを支持しないって言いたいのか」
ミッドも機嫌が悪くなっていく
「そうや。…奴は強い、群れる事でやっと生計立ててるわいらとはわけが違う。あいつにとっちゃここは支援ボーナスすするだけのただの腰掛けやが、わいらにとっちゃ生命線、帰る場所そのもの。来て半年もしないあいつのおもちゃにされる訳にゃいかないんや」
「じゃあ、リーダーでも勝てるの?」
ペコンの声は不安げだ
「たり前や!あいつの自爆戦術なんかと一緒にするんちゃうぞ!」
「ふーん…ま、それならそれで別に良いけど」
最悪のタイミングで、人数分の飲み物を抱えたコトリンが戻って来た
「はい。niruさんはストロングビール、ミッドさんとクラブマンさんはコカリ割り焼酎。ハリガネムシさんとカナマツさんにはハンター(炭酸飲料)、ブドウ味しか無かったけど許してね。こっちがごはんさんの分で…」
結局、その日の決起集会はギスギスした雰囲気のまま終わった
澄み切った青空
どこまでも広がる荒野
西側全面には、モニター騎士団総勢135名が展開されている
対する東側には、ケルベロスときーたん団の連合軍総勢1000名超
きーたん団が出ていると言うこと以外は特に特質すべき事の無い、何の変哲もない対抗戦
だが、今回の対抗戦配信の同時接続者は異例の速さで伸びて行っていた
ーーーーーー
ケルきーvsモニター騎士団スレ
1204.盛り上がってまいりました
1205.imkt
1206.コトリンたん出るってマジ?
1207.コトリンはよ
1208.あの目立ちたがり屋の事だ、きっと俺達の期待を裏切らないと信じてる
1209.コトリンってあのいっつもホワイトレーション食って広告ニーハイ履いてるる女の子?
1210.超大箱配信者なのは知ってるが実際強いん?
1211.分からん。戦闘描写ぜんぜん無いから
1212.古参が強い強い言ってるのはたまに聞くけど真実なのか厄介オタクの妄想なのか定かじゃない
1213.取り合えず直近のイベントランキングに上がってる形跡は無いな
1214.一応ダンジョン配信とかもやってるけど、敵とでくわしてるとこ見た事ない。多分先行でtueee奴らに掃討して貰ってるんだろ
1215.コト虐ktkr
1216.何言ってるお前らコトリンちゃんはいつも元気で自信満々なとこが魅力だろそんなコトリンちゃんがきーたんとか言う下種集団にボコボコにされてすすり泣きながらめちゃくちゃにされるなんてアリだながんばれきーたん負けるなきーたん
1217.モニター騎士団だっけ?そんな強そうなとこには見えないんだけどな
1218.昔戦ったことあるけどそんな強くない。クラブマンって奴くらいしかまともに戦える奴いない
1219.コトリンちゃんにギルドボーナス献上してるだけの弱小ギルド把握
1220.広告ニーハイって何だよwwwあれ着こなせるの全人類でコトリンだけやろwwwwwwww
1221.パチ屋のCMだろうが風俗の広告だろうが、コトリンのおみ足の前には全てがファッションになっちまうんだよな不思議な事に
1222.まもなく開戦だってよ
1223.wkwk
1224.cmやべえと思ったら全部コトリンのスポンサーだ
1225.マジで会社選ばんよなあの子
1226.来るもの拒めない性格なんだろうよきっと
ーーーーーー
「来るものを拒めない…確かにねー」
コトリンは携帯をしまう
「…だってさ。せっかく来てくれたのに追い返したら、そのうちもう誰も来てくれなくなっちゃうかも知れないじゃん?」
コトリンはそう呟くと、敵陣の方を眺める
東側には、地平線を埋め尽くすほどの大群が敷き詰められている
(うわお。一気に広告収入が増えた。きっと中継が始まったんだね。てことは…)
コトリンはサングラスを外し、一機の撮影用ドローンを放つ
「やっほーお前らー!元気してたー?」
ーーーーーー
乙
開幕5秒で同接1万はさすがに大草原不可避wwwww
コトっちのギルドが戦争するって聞いた時から待機してますた
《かたみす:10000コイン》
コトリンさんこんにちは!どうか命を大事に、戦争頑張ってください!
ーーーーーー
「かたみすさん早速スパチャどうもー!うち頑張るから観ててねー」
彼女の現在地は、両陣営から見て丁度中間地点
開幕と共に、敵陣営から様々な遠距離攻撃が放たれる
3発のミサイルが、コトリンの頭上と両脇を通り過ぎていく
「そう言えばさぁ。昨日隣部屋に住んでるおばちゃんがシシトウをくれたから、めんつゆで煮て食べたんだけどね」
コトリンが首を傾げると、大振りな弾丸が彼女の頬をかすめる
味方陣営のクラブマンが放った遠隔狙撃
「でも量が多くてさあ、消費するのに困ってるんだよね〜お前らさぁ、なんかいいアイデア無い?」
コトリンは必要最低限の動きで銃弾やミサイル、魔弾を回避しながら配信を続けていた
ーーーーーー
弾幕回避ダンスしながら雑談すんなwwwww
ししとうって何?
相変わらずの回避スキル流石。
緑色のでかいとうがらし的な野菜
煮まくって辛味飛ばすとか?
ふりかけに加工
《ぺけヲ:500コイン》
およそ戦場のど真ん中で喋る事では無い
ーーーーーー
「煮まくるのは割とありかな。辛味って大抵揮発性らしいし。あ、もしかしたら配信中にうちの頭が吹き飛んじゃうかもしれないけど、まあそこはご愛嬌って事で。ぺけヲさんスパチャどうも~。まあ確かにね、はは」
配信用ドローンには小さなモニターが付いており、そこでコメントが見れる仕様になっていた
ーーーーーー
なんで安全な自陣で喋らんの?
それ
危険な場所が好きなの?
ーーーーーー
「うち一応回避盾って事になってるんだ。攻撃引き付けて、極力敵の弾を自陣にあてない様にする的な?味方に背中から撃たれる可能性もあるんだけどね」
ーーーーーー
味方外道で草
マジかよモニター騎士団最低だな
niruって奴だっけ。そんな強くないのになんでギルマスなんだろう
ーーーーーー
「どーどーどー。みんな落ち着いて。あの人らを燃やすのは無しでお願いね。どうせこの後…おっと、何でもない」
ーーーーーー
どうせこの後…の辺りで広告靴下にきーたん団の求人入るの完璧すぎやろ
あ…(察
ギルドでかくすればコトリンたやのおみ足に広告載せれるってマジ?
弱小ギルマスわい、生きる希望を見出す
ーーーーーー
「そうだよー。お前らもうちにお金くれたら、このニーハイにお前らが作った広告を載せてあげるよ」
ーーーーーー
《どーど君:50000コイン》
超鳥愛好会を何卒
《ぺけパかCEO:70000コイン》
ギルドは無いけどうちの商品をオネシャスm(__)m
ーーーーーー
「わわわわわ!今じゃない今じゃない!一応お仕事依頼だから、うちのDMにお願いね!」
コトリンの耳を、鋭利な魔弾が掠める
ひりりとした痛みに襲われ、コトリンは右耳をかく
ーーーーーー
《ドヴォルス@きーたん団メンバー:ことりんくらぶプレミアムメンバー》
配乙!今の銃弾僕が撃ちました!どうですか!?
ーーーーーー
「ドヴォルス君凄い!久々に緊張感って奴を感思い出した!ていうか敵軍の配信来て大丈夫なの?」
ーーーーーー
《ダリウス@きーたん団幹部:7000コイン》
そりゃみんな見てますよ!ちゃっかり作戦まで教えてくれたし(笑)
ーーーーーー
「あ、そう言えばそうだっけ?」
コトリンの真上から、矢が降り掛かって来る
彼女が天に掌を広げると、矢は掌に突き刺さりそれ以上は進まなかった
「っつ…あ、そう言えばさ。命乞いとかそう言うのじゃぜんぜん無いんだけど、うち死ぬのちょっと苦手なんだよねぇ。痛いしペナルティあるし、何よりあの虚無感ていうの?脱力感?身体が動かなくなって、魂が、うちという存在が消えてく感じ?あれすっごく嫌。分かるかな?」
ーーーーーー
そんなじっくり死んだ事ない
アカウント弱い人だとたまにそういう話聞く
上位じゃ無双か即死のどっちかだもんね。互角同士で戦っても、そんな事になる前にペナルティ嫌ってどっちかが棄権して終わるし
ーーーーーー
「一番印象的だったのはやっぱ硫酸に沈められた時かなぁ。てかあれ以来死んだ事無いんだけどね」
ーーーーーー
NA☆NI☆GA☆A☆TTA☆SI☆
駆け出しあるある。ダンジョン潜って分からされる
ーーーーーー
コトリンは矢を引き抜きながら、リンボーダンスの要領で上体を倒す
レーザーが、彼女の鼻先の少し上を通過した
「今のって課金砲だよね?へぇーふーん」
ーーーーーー
課金砲?
最高位スキルと同等の技を金払って撃てる奴
初心者お助けアイテムだね。たまに上位勢がマナ節約の為に使ってるの見るけど
てかちょくちょく被弾してるよね。コトリンちゃん大丈夫?
ーーーーーー
弾丸が、コトリンの背後から敵陣に向かって飛んでいく
クラブマンの放った銃弾は、敵陣に当たると大爆発を起こし敵を大量に掃討した
「多分大丈夫。うちが耐えてる間にクラブマンさんが数減らしてくれるから」
ーーーーーー
《るすわん@きーたん団参謀:ことりんくらぶメンバー》
もしかしてコトリンたや無視安定?
《グォン@きーたん団メンバー:ことりんくらぶメンバー》
ねえねえコトリンたん!今からそっち行っても良い?
ーーーーーー
「えーだめー来ないでー」
ーーーーーー
すがすがしいほどの棒読みで草
だめだきーたん早まるな!
ただ戦況的にはきーたんは突っ込まなきゃだめだよね
クラブマン氏?が良い仕事してる。実質コトリン氏と彼の二人だけで戦ってる状態だもん
てかモニター騎士団の他の奴はどうした?
見たけど、多分遠隔攻撃持ちが居ないせいで動けてない
ーーーーーー
「いやーだめー来ないで―」
ーーーーーー
《るすわん@きーたん団参謀:ことりんくらぶメンバー》
おけ、コトリンたんにリア突するわ
ーーーーーー
「ほんとに来るの?分かった。んじゃうちは逃げるー」
コトリンはそう言って、自陣に向かって走り出した
弾幕がコトリンを追いかけるが、彼女は「うはははは」と笑いながら全部を回避した
ーーーーーー
楽しそうだなおい
今更だけどコトリンたやって戦えるの?
回避特化のアサシンだけど、大規模戦においては何一つ役に立たないから遊んでるだけ…と
にしてもうまいよな。未来予知でもしてるのか?
ーーーーーー
「予知なんてそんな大したものじゃないよー。スキルの軌道はある程度決まってるから、覚えれば楽に対応できるってだけ。むしろ、さっきみたいな通常攻撃の方が困るかな」
コトリンは、流血する手の甲をさする
「そろそろ自陣か…んじゃそろそろ配信切るね。続きは公式の中継見てね。試合終わったらまた配信付けるから」
ーーーーーー
乙~
俺達にししとうの消費方法聞くためだけに配信開いた説wwwww
おつぴ
おつぽよ~
ーーーーーー
電流により、水面の波紋の様な様相の空間の歪みが発生する
ドローンは、そんな歪みの中に沈んで消えた
(さて、そろそろ真面目に働かないとね。これから三つのギルドを相手にするんだから)