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ラプラスの死神  作者: 山吹いなり
14/14

第14話「不落の堅城」

 12時02分。東京大劇場階段。上階で戦火が切られた頃、伏見と佐藤の追いかけっこが続いていた。

「待てー!」

 伏見は階段を駆け上がり続ける。壁に書かれた数字が一つずつ増えていく。壁の数字が6に変わると、伏見は階段の踊り場から6階に飛び出す。短い廊下の先には柱が均等に並ぶホールが広がっている。

 佐藤もすぐに6階に着き、伏見が背を向けて走っているのを見つける。

(居た!一直線でこの距離、十分追い付ける!)

 素早く駆け出した佐藤の右手で燃え上がった炎の中から一振りの太刀が姿を現す。太刀を両手で握り締めると、佐藤は短く深呼吸をする。

「”気炎万丈(きえんばんじょう)”!」

 大きく踏み出した佐藤は、炎を撒き散らす太刀を携えながら伏見に向かって突き進んでいく。すぐにホールに踏み入った伏見の背後を捉える。炎を纏った太刀が伏見に向けて振り下ろされる。

 すると、伏見が背負っていたボストンバッグの底を引き裂くように大きなファスナーが現れる。スライダーが勝手に動き開くと、ボストンバッグの底が口の様に大きく開かれ、噛み合っていたエレメントが歯の様にギラつく。

「―――ッ!」

 佐藤は直前で動きを止め、素早く後ろに飛び上がる。それとほぼ同時に、バッグの口が力任せに閉じられる。エレメントが佐藤の制服に引っかかり、僅かに切り裂く。

「嘘、今の避けれんの?絶対決まったと思ったのに、体幹イカれてない?」

 立ち止まった伏見が、距離を置いた佐藤に背を向けながら振り返る。

「エグいんですけど」

 バッグの口はエレメントに引っかかった制服の切れ端を大きな舌で舐め取る。それを見た佐藤の背筋がぞくっと凍り付く。

「げえぇ!何其れ、口!?きっっっも!」

「おいコラ!人の能力(もん)見てキモいとかぬかすなや!噛み殺したろか!」

 伏見が声を荒げるが、すぐに心を落ち着かせて口を開く。

「ぶっ殺したる」

 伏見がバッグを背負い直す。佐藤は太刀を持ち直し、切先を伏見に向ける。

「私だって、負けるつもりは無いよ。あと、キモいものはキモいから」

 バックの口が閉じて膨らむ。次の瞬間、バッグの口が開くと同時に飛び出した舌が素早く佐藤に向かって伸びていく。佐藤は左に避けると、舌が背後の柱に巻き付く。

 伏見がバッグを離すと、舌を巻き取りながら、大きく開かれたバッグの口が佐藤へと飛んでいく。佐藤はさらに左前へ飛び出しながら躱すと、そのまま伏見に向かって走り出す。伏見は左手の人差し指を上に向けてくるくる回すジェスチャーをする。その後すぐに腰のホルスターへ右手を伸ばし、抜き取った拳銃を発砲する。佐藤は前で太刀を振り回し円を描き、全ての弾丸を弾く。

 舌を巻き付けた柱に向かっていたバッグは器用に重心を変え、柱への直撃を避けてぐるりと柱の周りを回る。柱に巻き付けていた舌を戻し、遠心力を勢いとして飛び出し、佐藤の背後から迫っていく。其れに気付いた佐藤は素早く振り返り、身を屈めてバッグの口を避ける。

 飛んできたバッグの持ち手を掴んだ伏見は大きく振りかぶると、佐藤に目掛けてバッグを叩き付ける。佐藤は真横に飛び出し避けると、バッグの口が床を豪快に抉り取る。伏見は間髪入れずにバッグを思い切り投げる。受け身を取った後、佐藤は直ぐに体勢を整え、太刀を横向きに構える。バッグのエレメントと太刀が激しく衝突し、勢いで佐藤が押し出されそうになる。

「重っ……!」

 佐藤は太刀を滑らせる様にバッグをいなす。体勢を崩した佐藤に向けて、伏見の拳銃から弾丸が放たれる。放たれた弾丸は佐藤の右足の太腿に命中し、別の弾丸は佐藤の頬を掠める。

 バッグの口から伸びだ舌が佐藤の右足首に巻き付く。舌を巻き取りながら佐藤に噛みつこうと大口を開く。

(”気炎万丈”―――)

 佐藤は振り返りながら太刀を振り上げる。

「”緋月(あかづき)”!」

 太刀は炎で大きな弧を描き、舌を両断すると同時に大量の炎が佐藤の周囲を飲み込む。バッグは佐藤を見失い炎から飛び出すと、どさっと床に落ち弾みながら伏見の手元に戻っていく。

 炎の中から飛び出した佐藤は太刀を突き出しながら伏見に突撃していく。伏見はバッグを身体の前に構える。バッグの口が太刀を噛み咥える。

 佐藤は両手で柄を握ると、太刀を押し込む。

「”緋梅(ひばい)”!」

 太刀から噴き出した炎が木の枝のように伸び、バッグの口の中で広がる。バッグの口から伸びた舌が太刀に巻き付く。伏見が力の限りバッグを振り回し、佐藤を空中に放り投げる。空中で身を翻しながら呼吸を整える。柱の側面に着地すると、太刀を構え直す。

「”緋鯉(ひごい)”!」

 柱を蹴飛ばして飛び出す。再び太刀とバッグのエレメントが衝突する。すると、佐藤と太刀が炎となって輪郭を失い、体勢を崩した伏見の背後の炎が佐藤へと姿を変える。身を屈め居合の様な構えをした佐藤が太刀を振り抜く。

 バッグの口から素早く伸びた舌が柱に巻き付き、伏見の身体を宙に放り出す。床に着地した伏見は、血が滲む焦げた脇腹に手を当てる。

 佐藤は伏見に切先を向けて太刀を構える。舌に巻き付かれた右足首には焼けた様な赤い跡が付いている。

(あの足で何であんなに動けんだよ。それどころか……どんどん動きが速くなってきてる気がする)

 すると、上階から轟音が鳴り響き、建物全体が震える。

「派手にやってんなぁ……」

 伏見はバッグを右肩に背負い直し、右肩を佐藤の方に向けるように身体を横に向ける。背負ったバッグの舌から垂れた粘液、床の表面を溶かす。

(右足めっちゃ痛い、ズキズキする。)

 佐藤が深く深呼吸をする。周囲の音がよりハッキリと聞こえてくる。太刀の炎が静かに燃え上がり、赤くなった刀身が伸びる。次の瞬間、重心を落とした佐藤が前のめりになる。大きく踏み出すと、伏見に向かって駆け出す。伏見が身構え、バッグの口が大きく開く。

 次の瞬間、ホールの窓ガラスを突き破り、自動車が吹き飛んでくる。

「「!」」

 二人は後ろに飛んで下がる。自動車が火花を散らしながら通り過ぎ、奥の壁にぶつかる。すると、ゆったりとした足音が聞こえてくる。佐藤が視線を向けると、分厚いコートを着た大柄の男性が歩いてきていた。首元で金属のプレートがきらりと光る。

「悪い。遅くなった」

「リーダー!?」

 伏見が豆鉄砲を食らった鳩の様に驚く。

(リーダー?ってことは、あの人もマフィアの能力者……!)

 伏見の傍まで来た男性が足を止める。

「何で私の方に来たんだよ!」

「真っ向勝負になったら不利なのはこっちだろ?」

 佐藤が太刀を握りなおす。

「誰?」

 男性は落ちつた口調で答える。

北作(きたさく)だ。漆鴉のリーダーをやっている」

「馬鹿!何素直に答えてんだよ!」

 伏見が怒りながら北作を蹴る。

(さっきの攻撃、身体強化の能力かも。だったら、私の能力のリーチを押し付けながら戦う方が良いな)

 警戒する佐藤に対して、北作が口を開く。

「来ないのか?」

 北作が右手を前に突き出し、佐藤に向ける。

「来ないなら、無理にでも来てもらおうか」

 佐藤の背中に押されるような力が加わる。

「―――ッ!」

 北作が右手を引くと、力が一気に大きくなり、佐藤の身体が持ち上がって北作に向けて飛んでいく。北作は右手を握りしめ、力一杯振り下ろされた拳が佐藤の胴体に打ち込まれる。佐藤の身体が床に叩き付けられる。北作が再び佐藤に向けて突き出した手を横に動かすと、佐藤の身体がぐんと真横に移動する。佐藤が柱に叩き付けられ、そのまま垂直に持ち上げられて天井に叩き付けられる。

 北作がもう片方の手を壁際の自動車に向けると、拉げた自動車がギシギシと音を立てて浮き上がる。床へ落ちていく佐藤に向かって自動車が飛んでいく。

「”気炎万丈”―――”緋月”!」

 佐藤は身体を捻らせながら太刀を振る。自動車は真っ二つに切断させ、爆発が巻き起こる。床に着地すると同時に佐藤が飛び出す。北作に向けて太刀を振り下ろすと、金属の壁が現れ太刀を弾き返す。佐藤が振るう太刀から、その度に現れる金属の壁が北作を守る。

 金属の壁から枝のように伸びた棘が佐藤を包み込み、身体に無数の傷をつける。棘が伸びた金属の壁の両隣に現れた金属の塊から伸びた柱が佐藤を吹き飛ばす。床を転がった佐藤が体勢を直して顔を挙げると、三台の自動車が目の前に迫ってきていた。

(やば……ッ!)

 自動車が落下し、粉塵が巻き起こる。煙の中から飛び出した太刀が北作へ真っ直ぐ向かっていくが、金属に取り込まれて止められる。

「俺の能力の影響を受けないってことは、刀そのものが能力ってことか」

 そう言いながら北作が太刀の刃を指先で軽くつついてみると、炎がボッと膨れ上がる。煙が収まると、自動車の間から佐藤が立ち上がる。

「……金属を操る能力。シンプルだね」

「操るといっても、そんな単純なものじゃない」

 北作が右掌を上に向けると、掌から金属が現れて宙を舞う。

「金属を操るだけじゃなく、一度身体に取り込んだ金属は混ぜ合わせたり、硬度と融点を上げることも出来る。だから君の刀で切られることも、その炎で溶かされることも無い。金属は身体の何処からでも出し入れできる。其れが俺の”堅城鉄壁(けんじょうてっぺき)”だ」

「親切なんだね」

「説明すれば、諦めてくれると思ってな」

「諦める?」

「今回の仕事に抹殺は含まれていない。できることなら殺したくはないんだ。まぁ、半殺しはするけど」

 北作は掌の中の金属を握りしめる。

「だから事が終わるまで、死んだふりでもしていてくれないか?」

「……」


「美琴っちゃんってさ、すごいよねぇ」

 ある日のこと、鬼灯組の部屋でハンモックに揺られていた西宮がぼそっと呟いた。

「え?そうですかね?」

 佐藤は花瓶の水を変えながら聞き返す。

「だって、剣道の全国大会でいつも入賞してたんでしょ?凄いじゃん」

「入賞って言っても二位ですよ、いつも」

「だから凄いって言ってるんだよ」

 佐藤が花瓶に花を戻す。

「……もしかして、馬鹿にしてます?」

「してないよ」

 西宮はハンモックを揺らすのを止める。

「逆に考えてごらんよ。美琴っちゃんの戦績は、諦めず挑戦し続けた結果って言えるでしょ?大体の人は諦めるようなことを、美琴っちゃんは努力し続けることが出来る子ってことじゃん。それって凄くない?」

 西宮は両手を頭の後ろに回し、静かに笑う。

「だから、美琴っちゃんは凄いんだよ」


「……ごめん」

 佐藤が静かに呟く。右手を前に伸ばすと、小さく息を吐き出す。

「それだけはできないんだ」

 右手を力強く握る。次の瞬間、北作の目の前の太刀が炎を噴き出しながら爆ぜる。炎が晴れ、金属の繭の隙間から北作が顔を覗かせる。走り出した佐藤の手元に新しい太刀が燃えながら現れる。

「”気炎万丈”―――”(にしき)緋鯉”!」

 佐藤の身体が炎を纏い燃え上がる。佐藤から分かれた炎が佐藤の姿に変わる。二人に分かれた佐藤はそれぞれ伏見と北作に向かって駆けていく。

 伏見はバッグを両手で持つ。北作が伏見に向けた左手から出てきた金属は伏見へと向かっていく。佐藤が振り上げた太刀を振り下ろすと、金属の塊が反応し攻撃を防ぐ。

 北作の方に向かっていた佐藤が波を描くようにステップを踏みながら太刀を振り抜く。北作は身体を後ろに反らせることで太刀を躱す。北作が取り出した金属が鋭くなり佐藤を襲う。佐藤は後ろに下がり金属を躱す。

 伏見を攻撃していた佐藤が金属を躱しながら絶え間なく攻撃を浴びせ続ける。北作を攻撃していた佐藤は一度距離を取り、その後すぐに距離を詰めて太刀を振る。僅かな金属で太刀を防がれ、金属が佐藤を貫く。だが、佐藤の姿が炎となって消える。驚く北作の背後で燃え上がる炎の中から姿を現した佐藤が太刀を構える。

「”気炎万丈”―――”緋月”!」

 大きな弧を描きながら佐藤から放たれた太刀が金属と衝突するが、金属の結合部から火を噴きながら砕ける。北作の身体がスライドするように移動し、太刀の一振りが空を切る。

「リーダー!私に構うな!」

 伏見がそう叫ぶと、北作の動きが一瞬止まる。

「優しいんだね」

 北作の目の前に迫った佐藤が口を開く。太刀の炎が激しく燃え上がる。佐藤と北作の周囲の温度が上昇し、宙を舞う花弁の様に足元で火花が散る。

「”緋岸花(ひがんばな)”!」

 佐藤が出せる限界の速さの一閃が北作の胴体に直撃する。その時、固い感触と共に甲高い音が響く。

(何だ?今の……)

 次の瞬間、巨大な金属の拳が佐藤を真横から捉え、殴り飛ばす。太刀が手から離れ、床を勢いよく転がってから止まる。床に転がった太刀の炎が小さくなり、跡形もなく燃え尽きる。伏見に太刀を振り下ろそうとしていた佐藤の姿も炎となって消える。伏見は全身から力が抜けたように座り込むと、大きく息を吐き出す。

 北作はコートの下のシャツを右手で持ち上げると、太刀が直撃した腹部からはみ出した金属が赤くなっていた。熱が引いていくと、身体の中へと引っ込んでいく。

「あの短時間で俺の能力の弱点を見抜くなんて……」

 そう言うと、北作は安堵の溜め息をついた。


 ◇ ◇ ◇


「誰だお前」

 12時23分。東京大劇場11階。逢沢が警戒しながら問い掛ける。

「北作虎徹。君の敵だ」

 北作は落ち着いた口調でそう答える。

「この子、君の仲間だろ?出血は多くないから、すぐに手当てすれば十分間に合う」

 北作の腕の中の佐藤は気を失って動かない。

「そうか。じゃあ、やるか?」

 逢沢は手に持った右腕を床に置くと、左腕を前にして構える。北作は溜め息をつきながら瓦礫の傍らに佐藤を降ろす。

「やらない方が良いと思うけどな」

 次の瞬間、逢沢が力強く床を蹴り飛ばす。打ち出された拳は金属の壁に衝突し、火花を散らす。

「なっ……!」

 逢沢の僅かな硬直を、金属の壁が形状を変えて襲う。逢沢の装甲の表面が抉り取られる。逢沢は素早く後退し、金属の壁の側面に回り込む。

 逢沢の拳と蹴りが、即座に現れる金属の壁と激しくぶつかり合う。逢沢が放った回し蹴りが金属に阻まれると、北作が逢沢を蹴り飛ばす。受け身を取りながら、片腕で何とか起き上がる。

「さっきの奴より骨があるな」

 逢沢が強がるように笑い飛ばす。

「そうか」

 北作は目の前に漂う金属を脇にどかしながら言葉を続ける。

「此れでも一応、幹部なんでね」

「か……!?」

 反射的に逢沢は一歩後退る。

(てことは此奴、死神と同格!)

 北作が逢沢に掌を向ける。逢沢の背後で瓦礫が持ち上がる。

「それじゃあ、手短に済ませよう」

 瓦礫の中から飛び出した鉄骨が逢沢に真っ直ぐ向かっていく。逢沢が伏せて躱すと、鉄骨は北作の真横でピタリと止まる。北作へと走り出した逢沢は赤く光る拳を打ち出す。北作の周囲に漂う金属が広がり盾となり、二人の間を遮る。逢沢の拳は金属へ向かっていき、ぶつかる直前で方向を変え北作の足元を殴りつける。粉塵を巻き上げながら大穴が開き、二人を階下へ落とす。逢沢が空中で放った回し蹴りを、北作が腕で受け止める。蹴り飛ばされた北作は軽やかに着地すると、粉塵の中から飛んできた瓦礫を、上階を突き破って降ろした鉄骨で防ぐ。次の瞬間、砕けた瓦礫の陰から飛び出した逢沢は鉄骨を蹴りつけ歪ませる。北作がカウンターを放とうとすると、逢沢は鉄骨を真横から蹴り捨てる。ひしゃげた箇所から折れた鉄骨は、高速で回転しながら北作の顔面へ向かっていくと、目の前でピタリと止まる。逢沢は北作の周りに浮く金属を蹴り飛ばし、素早く距離をとる。

(金属操作能力か。それも、多分二種類あるな。形を変える金属はビクともしなかったけど、さっきの鉄骨はぶっ壊せた。どっかから引っ張ってきた金属は動かすしかできない感じだな。手数の多さでの蹂躙してくる死神とは真逆の、絶対的な防御力による持久戦。長引かせるのは不味い)

 逢沢は絶え間なく攻撃と回避を繰り返しながら金属の動きを観察する。フェイントから放たれた逢沢の攻撃を、北作は直接躱す。

(ただ、金属の防御は全自動(フルオート)で発動してるわけじゃなさそうだな。つまり、こっちが此奴の反応速度を超えれば―――)

 逢沢の身体の装甲の筋が赤く光り、さらにスピードが上がる。逢沢の攻撃が北作に直撃する。

(―――攻撃を当てられる!)

 北作は仰け反りながらも操った金属で反撃する。逢沢は眼前に迫った金属の柱に額を叩き付ける。額の傷から飛び出した血飛沫が北作の視界を奪う。

(視界は奪った!決まる!)

 逢沢は再び左拳に力を込めて構える。

「”ブラッディ”―――」

 赤く染まった拳が素早く放たれる。拳が北作に直撃しようとした、その時だった。

 金属に覆い尽くされた北作の右腕から、力任せに拳が放たれる。二人の拳がぶつかり合い、周囲の空気を振動させる。

(此奴、ヤマ勘で打ってきやがった!)

 拳同士が鬩ぎ合う。逢沢の拳の纏っていた光が弱まっていく。次の瞬間、押し負けた逢沢の拳が弾き返される。続けて放たれた拳が逢沢に直撃し、そのまま殴り飛ばす。転がる身体を止め、何とか体勢を整えた逢沢はすぐに立ち上がろうとするが、突如両足から力が抜け床に膝をつく。

(マズった……血が足りねぇ……)

 北作は金属が引っ込んだ手で目元の血を拭いながら口を開く。

「タフネス。だが、もう限界だろ」

「……舐めんな……や……」

 逢沢は震える足を無理やり動かそうとするが、霞んだ視界が歪み始める。やがて視界が真っ暗になり、倒れ込んだ。


 ◇ ◇ ◇


 12時35分。東京大劇場外。

 待機していた伏見が足音に気付き顔を上げると、佐藤と逢沢を抱えた北作が建物から出てくる。

「待たせたな。凪はどうだ?」

「ちゃんと回収してきたよ」

 そう言うと、伏見は足元に転がした凪を指で指す。

「それより、何でそいつら連れてきたの?」

 北作は佐藤と逢沢を安全な場所に降ろすと、手に持っていた逢沢の右腕を傍に置く。

「今回の仕事は注目を集めること。殺すことは含まれていない」

「敵を助ける理由になってないでしょ」

「俺達の敵は腐った悪党だ。彼らは違う」

「そういう問題ちゃうやろ」

「兎に角、俺達の仕事は終わり。予定より少し早いが、離脱するぞ」

 北作はそう言いながら伏見の頭をポンと叩く。

「……分かったよ」

 伏見は少し照れながらも、北作の後を追うように歩き始めた。


 ◇ ◇ ◇


 佐藤美琴。能力名『気炎万丈』

 燃え盛る太刀を召喚する。


 伏見すばる。能力名『後ノ正面』

 バッグなど物を収納することが出来る物体に一時的に命を宿らせる。過度な使用で一時的に能力が使用できなくなる。


 北作虎徹。能力名『堅城鉄壁』

 周囲のあらゆる金属を操る。取り込んだ金属は互いに混ぜ合わせられ、硬度と融点が上がる。

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