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ラプラスの死神  作者: 山吹いなり
1/10

第1話「闇に潜みし影を喰らう」

 今の日常が、永遠に、途切れることなく続くとは限らない。

 何事にも始まりがあり、それと同時に必ず終わりもある。

 何でもなかったものは、ある日突然、何の前触れもなく───その姿を消す。


 某月某日12時56分。東京都、□□銀行△△支店。

 銀行に覆面を被った男5人が押し入り、拳銃を客や行員に突き付ける。

「今すぐ入り口のシャッターを降ろせ!そうしたら、ありったけの金を此処に詰めろ!」

 男の荒々しい声が店内に響く。女性行員が小刻みに頷くと、擦れるような音を立ててシャッターが降り始める。他の強盗犯は店内の客を集めて床に座らせる。

「いいか?お前らを人質にして、サツに車と身代金を出させる。少しでも余計なことしたら命は無いと思えよ?」

 女性行員が強盗犯がカウンターに置いた鞄に現金を詰め始めようとしたその時、店内にATMの操作音が響き渡る。その場にいる全員の視線が音のした方へ向けられる。其処には、黒外套を羽織った一人の男が、ゆっくりとした手付きでATMを操作し続けている。

「おい!」

 強盗犯の一人が男に近寄り、拳銃を向ける。

「いつまで弄ってんだ、早く座れ!」

「すぐ終わる。少し待ってろ」

 男は落ち着いた、感情の籠もっていない口調でそう言う。強盗犯は舌打ちをすると、男の後頭部に拳銃を突き立てる。

「お前状況わかってんのか!?死にたく無けりゃ言うこと聞け!」

「分かったから、もう少し待て」

「チッ!」

 苛立ちが限界を迎えた強盗犯は乱暴に拳銃の引き金を引く。バンッ!と銃声が店内に鋭く響く。

「舐めやがって、この糞ガ……───」

 その強盗犯の言葉が途中で途切れる。次の瞬間、女性の悲鳴が店内に響き渡る。

 男を撃った強盗犯の胸部を、白くて鋭い棘の様な物が貫いていた。その棘は血で濡れ、床には血飛沫が飛び散っている。

 棘は水中を漂う油のように消滅し、強盗犯の身体は糸が切れた様に床に崩れ落ちる。

 黒外套の男の指が再びATMの画面に触れる。ATMが音を立て始め、紙幣取り出し口が開く。男は其処から取り出した紙幣を茶封筒の中に落とし込み、外套のポケットに入れて振り返る。

「それで、何の用だ?」

 目の前で起きていることを理解しきれていない強盗犯達は、思わず一歩後退る。男は死体の横に転がる拳銃を拳銃を拾い上げると、じっと観察する。

「テ、テメェ!一体今、何しやがった!?」

 ずっと口をパクパクさせていた強盗犯の一人が、言葉をつっかえさせながら叫ぶ。だか、男はそれに答えることなく、静かに言葉を発した。

「お前達、これは何処で手に入れた?」

「なっ……こっちが聞いてんだろ!答えやがれ!」

「答える理由がない。それで、これは何処で、手に入れた?」

「う……」

 強盗犯は男の得体の知れない迫力に圧倒され、言葉を出せなくなる。

「……まあいい」

 男の影から黒い霧が立ち込め始め、やがて霧は男の肩ほどの高さまでになる。

「礼を言う。おかげで、探す手間が省けた」


 13時16分。東京都、□□銀行△△支店。

「何だ、これは……」

 現場に到着した警察官達は、その光景に言葉を失った。

 強盗犯と思われる人物が、全員血を流して倒れていた。ある者は胸部を貫かれ、またある者は首の骨を折られていた。

「一体此処で何が起きたのか、説明していただけますか?」

 警察官が店内にいた女性に尋ねると、女性は声を震わせながら答える。

「ば、化け物が……その人達を、次々と……!」


 13時6分。東京都内の路地。

 黒外套を羽織った青年が右手でスマホを素早く操作し、耳元へと運ぶ。左手では、拳銃の安全装置を指で上げたり下げたりしている。

「……影山です。今さっき現金をおろせましたので、今から戻ります。それと、収穫もありまして……はい、一緒に持っていきます。……はい。では、失礼します」

 青年───影山啓介(かげやまけいすけ)はスマホを耳元から離すと、画面を消して外套のポケットに突っ込む。拳銃の安全装置を上げてスライド部分を握り、路地の奥へと歩き始めた。


 ◇ ◇ ◇


 東京都、高層ビル最上階の一室。

「うーむ……」

 黒を基調としたシックな部屋で、デスクに座った細身の男───樋口浩太郎(ひぐちこうたろう)が顎に手を当てて唸る。視線は斜め45度に天井を向いている。

 その向かい側、少し離れた所にはスーツを着た男───宝条海斗(ほうじょうかいと)が立っている。

「遅いねぇ……。宝条君はどうしてだと思う?」

「さぁ……ATMの操作に手間取ってるんじゃないんすか?機械音痴だし」

「でもスマホ使えるよ?彼」

「そりゃあ……スマホくらいは流石に」

(前に一ノ瀬が夜通しで教えたんだし)

 宝条は当時のことを思い出し、ため息を漏らす。

 すると、扉が4回ノックされる。

「失礼します」

 扉が開くと、影山が部屋の中に入ってくる。

「おい、おせぇぞ影山」

「悪かった」

「絶対思ってねぇだろ」

 影山は宝条の横を通り過ぎ、樋口のデスク前で立ち止まると、外套のポケットから茶封筒を取り出してデスクに置く。

「言われた通り、5万おろしてきました」

「ありがとう。これでようやく欲しかった空気洗浄機が買える。最近部屋の空気が重い感じがしててねぇ。いやぁ、良かった良かった」

 樋口は嬉々として茶封筒を手に取ると、そそくさと紙幣を取り出し、デスクの引き出しから取り出した財布にしまう。

「それと───これを」

 続けて影山は外套の左ポケットから拳銃を取り出し、デスクの上に置く。

「おや、何処で拾ってきたんだい?」

「銀行で遭遇した強盗犯達が所持していました。他にもありましたが、これ以外は全て破壊してきました」

「そうか。因みにだが……皆殺し?」

「はい」

「んーそうだよねぇ……。とりあえずそれは橘君の所に持って行って、彼女に調べてもらうことにしよう。現場の後処理は警察の方に任せて……うん。じゃ、下がっていいよ。あ、宝条君の隣にね」

 拳銃を外套のポケットにしまった影山は宝条の隣まで移動し、横に並ぶ。

「さて、二人とも揃ったところで、早速本題に移ろう」

 樋口は腕を組んで背筋を伸ばす。

「実はね、最近私達の名を使って都内各所で爆破予告を行っている者がいる。話によると、爆破予告は毎週水曜日の15時丁度に警察宛に届くらしい。しかも、いずれも我々に少なからず影響のある場所ばかりだ。共通しているのは“どの場所も予告15分前に爆弾を仕掛けている”こと。そのせいでこちらも物流が滞ってしまっているところもあるし、何より我々のせいにされるのは気に入らない」

「つまり、仕事の内容は害虫の駆除ということですか?」

「その通り。奴がこれまでの規則通りに動くのであれば、今日の15時に警察に予告が入り、その15分前に爆弾を仕掛けるために現地に赴く筈。事態がこれ以上悪くなる前に対処してもらいたい。頼めるかな?」

 影山と宝条は静かにアイコンタクトを取り、再び前を向く。

「問題ありません」

「俺も行けます」

 二人の返事を聞いた樋口はにっこりと笑顔を浮かべる。

「流石。さっき宝条君に渡した封筒に資料が入っているから、後で確認してくれたまえ。そこに、次の予想地点が記されている」

「了解」

 影山はそう答えるなり、後ろを向き扉に向かう。それを追うように宝条も部屋を後にする。

 部屋から出ると、宝条は腰に引っ掛けていた黒い中折れ帽を手に取り、頭に被る。

「影山、移動手段は?」

「海斗の運転」

「だと思った」

 二人はエレベーターに乗って地下駐車場まで降りると、そこに止めてある宝条の車に乗り込む。

「……海斗」

「あ?」

 助手席に座った影山はポケットから取り出した手袋をはめながら言葉を続ける。

「帽子、前後逆だぞ」

「……今直そうと思ってたんだよ」

 宝条は帽子を被り直すと、ハンドルを握りアクセルを踏み込んだ。


◇ ◇ ◇


 車を走らせること数十分。宝条は車を道脇に路駐させる。最近出来たばかりの屋外テラスと飲食店があり、人で賑わっている。

「それでどうするよ。相手に顔割られてたら面倒だぞ」

 影山は腕時計で時間を確認する。14時40分。爆弾が設置されるであろう時間まで、あと5分。

「此処に居ても意味がない」

「あ、おい!」

 影山は車を降りると、慌てて宝条も車を降りる。

「俺はテラスを見る。海斗は……」

「その周りだろ。ちゃちゃっと見てくるわ」

 そう言って宝条はテラスの外周に向かって走っていった。

「……」

 影山はテラスへと歩き始める。階段を一段上がってテラスに登り、ゴミ箱の裏や花壇の草陰などを確認しながら、周辺を歩き回る。だが、均一に並べられた机に座った民間人が食事や会話を楽しんでいるだけで、怪しい人影は見当たらない。

 テラスを一周し、元居た場所に戻ると、

「影山!」

 丁度外周を見終わった宝条と合流する。

「一通り目通してきたけど、これといったのも怪しい奴もいなかった」

「こっちもだ」

 影山がもう一度腕時計を見ると、針は14時47分を指していた。今まで通りなら、爆弾が設置される筈の時刻。それでも何も見つからなかったということがどういう意味を持つのか、二人には考えずとも分かることだった。

「……一度戻るぞ」

「おう」

 二人がその場を後にしようとしたその時、パーカーのフードを深く被った男が宝条にぶつかり、体をふらつかせる。

「おわっ」

「す、すみません」

 男は腕の中のボストンバックを抱え直し、速足でその場を離れようとする。

「待て」

 影山の言葉に、男は肩を震わせて立ち止まる。

「随分急いでいるようだが、何処に行く?」

「え、えと、銀行に振り込みをしに行こうと思って……」

「銀行なら道の向こう側だぞ」

「あ……」

「本当はあの人混みに用があるんじゃないのか?」

 影山に問い詰められ男は口を閉ざす。

「お前だな。ラプラスの名を使って予告を繰り返しているのは」

 影山は男に向かって一歩踏み出す。

「───そっ、それ以上近づくな!」

 男が後ろに下がりながら大声を出す。パーカーのチャックが勢いよく開かれ、その下があらわになる。

 腹部に黒い長方形の箱がテープでしっかりと巻かれていて、その箱一つ一つについたランプが赤く点滅している。男の汗ばんだ手には、スイッチのようなものが握られていた。

「俺はぁ!ラプラスのぉ!構成員だぁ───!!」

 腹の奥から吐き出された震えた声とともに、男の手の中で力強くスイッチが押し込まれようとする。

「ッ!おい馬鹿、止めろ!」

 目を見開いた宝条が男に走り寄ろうとするが、すぐに影山が腕を横に伸ばして止める。

 次の瞬間、男の腹部に巻かれた箱とボストンバックが同時に爆発し、空気を振動させる。あたりからは次々と悲鳴が上がり、一部パニック状態になる。

 影山は顔を覆っていた腕を下ろす。爆発した場所からは黒煙がのぼり、足場の木材は焼け焦げ、抉れている。宝条は、頭の中折れ帽を手で押さえたまま、唖然としている。

 何事かとあたりから民間人が続々集まってくる。

「今、“ラプラス”って言ってなかった?」

「ラプラスって確か、東京に拠点を置いているっていうマフィアだよな」

「自爆テロ?」

「おい、早く警察呼べ!」

「……」

 影山はただ黙ったまま、焼け焦げた木を見続けていた。焦げた臭いがあたりに漂っていた。


◇ ◇ ◇


「結局何がしたかったんだろうな、あいつは」

 ラプラスの管轄にある都内のビルに戻ってきた宝条は、普段から使っている部屋の椅子に座り足を延ばしていた。机を挟んで向かい側に座った影山は腕を組み黙り込んでいた。

「あれほど綿密に爆破予告を行ってきて、最後に自爆……。雑すぎる」

「まぁ、やけくそで自爆した感はあったけどな」

「予め爆弾を身体に巻いていたということは、最初から目的は自爆だったということになる」

「あー……じゃあ、あいつが自殺願望者で、最初から死ぬことが目的だったんじゃねぇの?あそこで自爆できればそれでよし。自爆まで持っていけなくてもラプラスに始末される。どのみち死ぬっていう目的は果たせるわけだし」

「……」

「ま、結果的に俺達の目的は達成したわけだし、良いだろ。これ以上こっちの損害はねぇんだし、結果オーライってことで」

「……そうだな」

 口ではそう言うが、影山は依然として納得のいっていない顔をしている。すると、

「先輩、宝条さん、コーヒー淹れましたよ」

 部屋に備え付けられた給湯室から一人の女性───一ノ瀬咲(いちのせさき)が珈琲の入ったカップを二つ、お盆に乗せて運んでくる。

「おう、サンキュー」

 宝条は一ノ瀬が机に置いたカップを手に取ると、珈琲を一口飲む。

「……ん、豆替えたのか?」

「あ、分かりますか?実は前から頑張って作ったんですよ」

「へぇ~、珈琲豆って家で作れるんだな」

「いえ、珈琲豆は使っていませんよ」

「あ?じゃあこれ何だよ?」

「珈琲ですよ。タンポポ珈琲」

「ぶッ!」

 一ノ瀬の口からさらっと発せられた単語に思わず噴き出した宝条は、カップを置いて噎せながら胸をドンドン叩く。

「おまっ、なんちゅうもん飲ませてんだよ!」

「宝条さん知らないんですか?タンポポ珈琲には腸内環境を整え、食後の血糖値上昇を穏やかにするイヌリン。筋肉や神経の機能を保持し、過剰なナトリウムと水分を尿として排出する利尿作用の働きがあって、むくみ改善に役立つカリウム。抗酸化作用により細胞の老化を防ぐビタミンC。それ以外にも鉄分やカルシウムなど、体に良いものが含まれているんですよ」

「鼻高々に説明しなくていいわ!大体、そのタンポポ何処で取ってきた!」

「家の近所の公園ですけど」

「んなとこに生えてるやつで作るんじゃねぇよ!」

「何でですか!根を奇麗に洗ったり、擂り潰してフライパンで焼いたりするの、結構大変だったんですよ?引き抜く時だって、根が地面に固く張っていて、根が千切れたりして上手く抜けなかったんですから!それを飲めないって言うんですか?」

「飲めるか!」

 ギャーギャー騒いでいるのを気にすることなく、影山は目の前に置かれた珈琲の液面をじっと見つめていた。

「根が、地面に固く張って……」

「おい影山!お前も何とか言ってやってくれよ!」

「……」

 影山はカップの取っ手を右手で掴み、口の中に珈琲を含む。ゆっくりと飲み込み、カップをソーサーの上に戻して立ち上がる。

「味は悪くないが、次は豆から淹れてくれ」

 そう言って影山は部屋のドアに向かって歩き出す。

「何処行くんだよ」

「用事を思い出した。お前も来い」

「は?いきなり何……おい、影山!」

 影山は宝条の質問を聞かずに部屋を出て行ってしまう。宝条は立ち上がると机に置いた中折れ帽をひったくり、駆け足で部屋を出ていく。

「……」

 部屋に一人残された一ノ瀬は、勝手に閉まったドアから机の上に残されたカップに視線を移す。数秒見つめた後、影山が口を付けたカップを手に取り、取っ手を左にして一口飲む。暫く口の中に残った珈琲の味を確かめてから、ぼそりと呟いた。

「美味しいと思うんだけどなぁ」


 ◇ ◇ ◇


 都内のとある廃ビル。日が少し傾き始め、空が仄かに赤みを帯び始めている時間。明かりのない、埃の薄く積もった部屋で一人、パソコンを操作している人影があった。画面の光に照らされた顔には薄く髭が生えており、メガネは画面が反射して映っている。

「……ようやくだ。ようやくこれで、私の悲願は……」

「ようやく、何だ?」

 不意にした声に男が振り向くと、部屋の入口の闇の中から影山が姿を現す。

「……どうして此処が分かった?」

「これでも幹部だ。情報を集めようと思えば、幾らでも手段はある」

 影山は外套のポケットからプラスチック片のようなものを取り出し、男に見えるように掲げる。

「それは……」

「今日、あのテラスで自爆した男の体に巻かれた爆弾に付いていた。発信機か何かだと思って、念の為回収しておいて良かった」

 影山はプラスチック片を床に捨てる。

「お前だと思っていた。元マフィア構成員、杉本圭一」

「……どうしてそう思ったんですか?」

「爆破予告地が何処もラプラスの物流に関係した場所である時点で、ラプラスに精通しているのは明らかだった。そして、あの爆弾には見覚えがあった」

「前に使ったことがあるから、と?」

「あぁ」

「それだけで、私だと分かったんですか?」

「それもあるが、少し違う。爆破予告を出している者が、ラプラスに対しての恨み、憎しみを動機としているとしたら、お前以外に心当たりがなかった」

「……流石影山さん、相変わらず切れ味のいい頭ですね。いやはや流石……」

 男は感心するように頭を振る。

「何が望みだ?」

「何が……?……そんなの、決まっているじゃないか……!」

 男の感情が徐々に高ぶっていく。その表情には、怒りの感情が籠っていた。

「復讐に決まっているだろう!影山啓介!2年前のあの日、お前に殺された、娘の為の!」

「……」

 当時の光景が影山の中で蘇る。暗闇に包まれた夜、焼け落ちた建物から登る黒煙、空中を漂う血の匂い。まるで目の前にその光景が広がっているような感覚に陥りそうなほど強く、鮮明に影山の脳に焼き付いている。

「……憎しみは一種の植物のようなものだ。一度根を張れば、根は複雑に絡み付き、深く伸びていく」

「あぁ、その通りだ。私はあれから、お前に復讐するためにラプラスに入り、多くの情報と技術を手に入れた。ずっと、復讐の為だけにこの2年間生きてきた。そして、ついに時は満ちた。お前が此処に来ることは想定済みだった」

 男はパソコンのエンターキーに手を添える。画面に表示されたウィンドウには「Ready to explode.」と表示されている。

「このビルには、この階以外にも爆弾を仕掛けてある。共に死にましょう───影山啓介!!」

 男は叫び、エンターキーに添えた指を押し込もうとした、その瞬間だった。

「死ぬなら一人で死ね」

 影山のいる暗闇から一本の白い棘が、凄まじい速度で触手のように男に向かって伸びていき、男の心臓と、男が手を添えていたパソコンを同時に貫く。鮮血がパソコンの割れた画面に飛び散る。

 棘が水中を漂う油のように消滅すると、男の体はパソコンの置かれた机に前のめりで倒れこみ、ズルズルと床に落ちていく。

 影山は外套のポケットからスマホを取り出し、宝条に電話を掛ける。

「海斗。用事が済んだ。今から戻る」

 影山は画面を消したスマホをポケットに戻すと、部屋を出て、闇の中に消えていった。


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