戦後処理
【Monstella“コジロウ”が指導者を討伐した。
街は朱く染められた。復興にも多少の時間が必要となる。それでもPlayerは滅びることなく、次第にあるべき形を取り戻す。
新たな指導者を受け入れることとなる。それは新しい街づくりが始まる布石となる。
誰が呼んだか、Monstella。
ヒトデナシ共が世界を作り変えてゆく。栄枯盛衰の定めに従って、再び文明を発展させることへと従事する。
戦いの日々は、ひと時の平和を得るための手段に過ぎない。
成績発表。
一位”コジロウ”。討ち取った首“六十五”。
二位“ノア”。討ち取った首“五十八”。
三位“ヤニス”。討ち取った首“五十一”。
特別報酬として指導者討伐。】
戦終了を告げる全体通知。
コジロウも死なずにどうにか、最後まで遂げることができたことに、一つ息を吐く。
「ここ一時間でフレンドが増えたと思ったらば、ごっそり減ってやがる」
ゲームとして如何なものか。救済要素の一つでもあればまた変わってくるだろうが、そこは報告を待つ他にない。
報酬として得られた幾ばくかの金銭と武器。
多少困ることがなくなっただけで、元より小鬼を端から切って行くだけで、討伐報酬はそれなりに稼げていた。
あって困るものではない。使い道は既に思いついてもいる。
それより注目したのは武具だ。選択肢を提示されたので選んだのは“弓”だ。
最後には刀を取ったが、キル数を稼ぐのに弓は重宝した。
長い射程と大きなダメージ。キルパクするのにこれほど便利な武器も少ない。
相応に技量こそ求められるが、何を選ぼうとも勝手に到達するのだから、今に悩む必要はない。
「よぉ。生き残ったかよ親分」
屈強な肉体に、ぶら下げた斧。特徴的なのは目まで覆った尖頭の兜。
海賊だ。口髭を蓄えた男は最初の小鬼襲撃で討ち取った戦士か。
良い勘をしていると思ったが、戦働きで三位まで活躍を残した。
コジロウの最後の突撃では細かいカバーまでこなし、見た目とは裏腹に細かく器用に動く男だったと記憶している。
コジロウが握る長弓に目を向けた。それは一度も取り出したことのない、背丈とほぼ変わらぬほどの大きさを持つ強弓。
英雄の武具“射殺す百頭”。戦技は《怪物の毒矢》。
怪物の毒は怪物を殺す。一定時間の回復封じと、毒の状態異常付加。
毒矢の使用は効果を高める。
クールタイムは一時間。戦技のコスパで見ると非常に悪いが、元の性能が相当高い。
「よお付き合うてくれた。お互い死にぞこなったみたいだが、初の指導者殺しまで出来て俺ぁ満足だ」
「おつおつ。良い弓じゃねえか。俺も今回は稼がせてもらったし、お互い様ってやつだ」
堀の深い悪人顔が満足そうに笑う。この海賊も上位に掲載された以上、報酬は受け取ったのだろう。
装備変更でヤニスの鎖帷子が、筋肉に沿うような黄金の鎧が着用される。
「どうよ、これで俺も聖戦士ってとこか」
「どうみても魔王とかそっち側じゃねえか」
「がはは、これもまあ消息不明するまでの一張羅ってやつよ」
「次があるのかね」
「今度は防衛側での勝利をしてみたいところだな」
試行錯誤。環境が固まり切ってない中での突発的な、初見殺しに近い勝ち方。
裏切りも出るであろう中で、最前戦ほど死にやすく、同じくらい稼ぎやすいのだろう。
弓手として一般兵に潜り込むのも悪くない。その時を考えて、なんとなしに弓を引いてみるーー。
「ん、あれ」
「どうした?」
「いやこれ、硬いな……」
鉄で出来ているのかってくらいに動かないにびくともしない。
射形が悪いのかと思って元の長弓を引くが、次は問題なく引くことが出来た。(もっともゲームであるのでシステムから補助を受けてはいる。)
「……はずれ引いた?」
「なんつうか、ご愁傷様だな。条件があるのかもしれねぇ」
「スキル枠消費すんのか。《重装》に近い感じかね」
「《弓術》が足りねえのかもな。俺も全身鎧を選んだと思うとおっかねえ話だ」
バーチャル配信者で、斬罵刀を持とうとして扱えなかった切り抜きもあった。それに近い現象が起きていると分析する。
せっかく死ぬ思いで手に入れたものではあるが、使用までのコストがやたらと掛かるのには心が削がれるか。
気の毒そうに眉を顰めて海賊は侍の表情を確認するが、特に気落ちした様子はなくて心の内で安堵する。
「ちょうどいい目標っちゃ目標か。フレンド登録もしたし、手伝えることがあったらいつでも呼んでくれ」
今日は寝ると付け加えて、ヤニスはログアウトした。
一人になってコジロウも疲労をようやく意識する。短いようで、長い時間を過ごした。
刀に鎧に、手に入れたいものは尽きない。しかしまずは、目の前の武具を使えるようになることが目標か。
指導者討伐の特別報酬は、後日に渡される形になるとのことで、流石に休憩しようとログアウトを選んだ。
ヘッドギアをつけたまま寝ることも出来るが、起きた時に軽度の頭痛がする。
頭の中に電波が通る感覚は気のせいかもしれないが、どうにも落ち着かない。
情報酔いに近い気持ち悪さがあった。