第一次、閉幕
「なぁ、本当に来ると思うかね」
「いうてこんだけ人がいるんだから、どうにでもなるだろうしな。俺ならログアウト安定だが」
はじまりの街は人で埋め尽くされる。
平時であれば重ならない仕様となっていたが、緊急通知より戦闘地域となったのか、人の多さを肌で感じることとなった。
活気が溢れると言わんばかり、まるで祭りだと人混みに耐性がない忍者はため息を吐いた。
「奇縁でござるなぁ」
緊急通知よりフレンド欄を確認すると、名前を朱く染め上げた、かの侍の足跡は小鬼の巣穴より先が途絶えていた。
全滅したなら通知が欲しいものだが、人の喧騒以外で戦闘音のようなものはなく、不気味なほどに静まり返っていると言って良い。
竜人と長耳は同じくして侍の下へと向かったことは確認しており、未だに名前が変調していないことから察することはできる。
なんだかんだと喧嘩する様子を眺めていたが、現実からのフレンドであるならば連絡手段は別であるだろう。
忍者より侍へと個人通話をかけることは叶わない。一応は運営側で、人間側のスパイを抑制する公平さを意味しているのだろう。
暗殺の意味するところはここが厄介だ。身内としての協力が入れば、防衛は非常に困難になる。
しかし咎めるには証拠も出し難く、ここに関してはゲーマーとしての矜持をいかに信じるかにかかっている。
その点、あの侍はどうだろう。出会って日が浅く、結果によっては付き合いを考え直せばよい。
ただ、もしそういった裏道でもなく達成できたのであれば、忍者は侍へと感情として、一つ尊敬の念を持つことになるだろうと期待していた。
さて、船頭がいないこと。というより、存在できないことが厄介だ。
なんとなく門の周りや裏道の警戒は人が集まって出来ているものの、組織だって誰かの指示が通るようなことはない。
街中を人の声が埋め尽くす。”赤い”目をしていると噂が立っているが、種族によって、もっといえば仮想体によっては紛らわしくも存在している。
赤い目を持った彼らは、自らは潔白ですよと、集まって大人しく観戦に徹していた。
忍者は見届ける気持ちもあり、戦功を得る半分に、街の指導者のすぐ隣より警戒を強める。
黒装束である忍者だが、剥き出しの目は反射することなく、我慢強く侵入経路のクリアリングに徹している。
「き、来たぞ!!」
異常事態発生。攻め時か。痺れを切らすには十分な時間が発生している。
Playerの流れが海へと向かう。動かずに門番として徹するものが残る。
小舟数隻が街へと近づいてくる。目は朱く光っているのを遠目でも確認できた。
射程外だ。これ以上近づくのは難しい。
牽制として弓矢と魔術が同じ方向へと飛び続ける。ちょっとした花火のような感覚で放つものもいた。
「ーー陽動だ!! 北門からも敵影あり!!」
「南門、同じく!! こっちは近づいてくる!! 数秒後に接敵、戦闘を開始する!!」
誰に伝えるでもない報告が相次いだ。予想通り。Mostella側の人数もそれなりに稼いでいるようだ。
もう少し速攻で来るなら物量作戦も通じるだろう。なにPlayerからすれば、敵がすぐ隣へと転移するようなもの。
忍者の周囲ではすでに金属音が鳴り響いてる。ついで朱い目がちろちろと周囲を囲い始めた。
(取り囲まれるのは辛いな……いや、そうか)
忍者の周囲にまでついに矢が届いた。ようやく見えた。最初に考えておくべきだった、転移の可能性。
忍者がMostella側からの攻撃で倒れた瞬間に、指導者まで数歩で詰めることができる。
(序盤こそ有利であれど、街中へと侵入を許した時点で大きく不利を取るのはPlayer側だ!)
さすが忍者汚いと言われるであろう。MVPの確信が取れた。裏切りの準備に切り替える。
烏合の衆では無理だ。寧ろ門は最終防衛ラインと言える。Playerはーー街の外を警備で固めることを優先すべきだった。
既に遠距離の雨が降り注ぎ、街中では既に白兵戦まで突入されている。詰みだ。こうなればログアウトするか、戦うかの二択を取らざるを得ない。
「でもこれよぉ、不公平じゃねえかって思うんだよなぁ」
喧騒から悲鳴へと変化する人の声に混じり、朱い目に燃えるような朱い手をした侍が、忍者の眼前へと躍り出た。
「マダミスの件もあって、一勝一敗というところでござる。まあ、MVPの座は譲らぬが」
流れ矢が忍者の頭を、胸を、身体中を貫いて、ハリネズミへと変貌させる。
忍者の目が朱く燃え上がった。指導者NPCの男は私兵であるNPCに守られながら、悪夢を見るかの表情を浮かべた。
「御命、ちょうだい致す」
忍者が脇差を抜き放ち、刃が強襲するーーより前に、忍者を再び矢が刺し穿つ。
「復活が手損だわな。漁夫は俺たちも面白くないんだよ」
忍者、消息不明。裏切り者にはお似合いの末路だと、蝙蝠野郎が得する未来は潰された。
「てか、今俺を殺そうとした人もいたよね。怖いわーこれだから魔族共は信用できねぇ」
追撃の矢雨。
回避移動で兵士の守りを抜けて盾にすることで、最後の防衛NPCの討伐と同時に、指導者の首を跳ね上がる。
致命攻撃。それと同時に非戦闘地域となり、侍を狙う矢が当たるも、体力が減ることなく平然と立ち続けた。
消息不明多数、Mostella側の勝利として、首位としてコジロウの名が飾られた。