第一次、Monstella
とにかくレベルが必要だ。
スキルセットの方針は決まった。竜人を断ってすぐ、奴はキレた。
タイマンをしばらく続ける内にルノアがログアウトしたことで終わりを告げる。
コジロウは割と負けた。そこそこ勝っていたのはソーマのスキルが未だ初期レベルから毛の生えたものだったからだ。それでも負け越した。
理由は明白だ。火力も手数も足りない。
ビルドは汎用型。若干火力に寄せている。
《刀術+3》《攻撃力+4》《戦技+2》《回避性能+2》《体力増加+5》。
固有で《英雄の一撃》ーー種族人間が固有で持つスキルで、あらかじめ設定した戦技の威力が上昇する。
武具の扱いこそ人間の特徴。
器用さは道具を製作するだけにあらず。武器を扱う技を相伝されゆく。争いを続ける中で洗練されていく技術こそが、他種族と渡り合うに必要とされた。
《无二打(二ノ太刀要らず)》との違いは他の戦技も出せる上で、火力が同じ程度まで上がることか。その分クールタイムがある程度。
同じく、《肉切骨断》は火力増強がありながら。体力が削れていくのでストーリー向きではないとコジロウは判断した。
戦技中心のスキル構成である。いずれは弓も使うつもりだが、使い分けるよりはまずは特化するべきと判断した。
弱点は二つ。
一つは、戦技の拘りこそ無いものの、決め技を見られては対策されやすいこと。これはPvEだと無視していい。
もう一つが、タメがある分の隙が大きいことにある。ストーリー攻略でどれほど足枷となるかは、小鬼戦だけでもそれなりに存在すると考える。
序盤はまあ、体力のゴリ押しで行けるだろう。おいおいの問題だろうから、詰まったら変更する程度に留めておいた。ここで悩んでも足は進まないからだ。
mobの怯み値なら、ジャンプ攻撃を中心にしてもよい。隙も少ない分、連打はしやすいだろう。
回避はいらないかもしれない。低体力に陥るなら《火事場の馬鹿力》との相性を考えて《踏ん張り》採用でもいいがーー。
巣穴より、小鬼が現れては切って捨てる。行動パターンは読み切ったので、作業と化しているが、定期的に攻撃のパターンを変えて試行錯誤を回している。
突きは後隙が大きい。ダッシュ攻撃は軽く溜めがある。移動なしだと隙が小さい。歩きは移動なしと同じ判定で動き出しが早い。空中攻撃は二連まで可能。反転攻撃が割と強い。登り切り上げが最も速いものの、後隙が大きい。
戦技は《強攻撃》。熟練度不足より《居合切り》も《秘剣・燕返し》も未修得ーーだが簡潔で使い勝手はそれなりにいい。
ほんの僅かな感覚の違い延々と小鬼を虐殺して確かめる。
VRゲームであるので、基本はマニュアルでの攻撃。任意で攻撃速度を下げることも出来るが、上限が設定されているようで、一定より速く振っても攻撃速度が変わらないことに気付いてしまった。
攻撃の判定がかなり細かいので、狙った技を出す練習が必要だと考えた。
極端な例では、切払い攻撃のつもりで突きが出ると、続けての攻撃までに隙が発生する。
コジロウも現実でまで剣を振るう趣味はない。楽しそうとは思いつつ、仮想で留めるくらいの憧れだ。
【小鬼1,000体の討伐が達成されました。称号“小鬼殺し”が与えられます。】
SEと共に称号が与えられる。初期の“流浪人”のままだったので、これ幸いと設定しておく。
「あ、いいなこれ。体感かなり変わる」
便利ではあるので、次いで持ち出したのが弓。同じくスキル構成の変更。変えるのが面倒だと考えていたら、スキル構成の保存が出来ることが素直にありがたい。
《弓術+2》《攻撃+5》《戦技+4》《回避性能+5》《体術+1》。
《体術》は消費持久力の減少。弓は引いてる間だけ持久力が回復しないので、持久力管理が最重要となる。
その分だけ離れることが出来るので、被ダメの減少から《体力増強》と入れ替えた。
こっちは狙いをつけることの難易度が上がる。基本は引いて撃つのみ。溜めの強弱で射程と威力が変わることが多少面倒か。
また、射出される矢が一本のみではない。体感は一本であるものの、撃ち続ける毎に本数が増えて、その分だけDPS(秒間ダメージ)が増加する。
「弓で近接戦も出来なくはないか」
連撃狙いなら短弓、溜めでの一撃狙いなら長弓というところ。短弓を使うメリットは隙が小さいこと。引き撃ちが厄介で、状態異常との相性がいい。
コジロウの好みとしては長弓ではあるものの、対人でいうなら短弓の方が相手にはしたくない。
どちらにせよ射程持ちは暗殺に限る。真面目に対面するのが馬鹿らしいのは、FPSで十分理解している。
弾道を安定させる。細かい打ち分けは感で覚える。まずは地面と平行に真っ直ぐ撃つ。
覚えたら足を動かしてエイムを調節する。歩き撃ちはエイム合わせではそれなりに重宝する。足を止めて撃つ旋回撃ちと、足を動かして当てる並列撃ちでは、頭の楽さが大きく変わる。
自らと標的の間合いが高速で入れ替わる戦闘においては特に便利だが、射線を隠したい時なんかにもコジロウは好んで使う。
“小鬼殺し”の称号効果もあって、一矢一殺となり、作業感が増えたが、精度が上がっていく楽しさを覚えて自然と口角が上がる。
【一定時間内に同一種族10,000体の討伐を達成しました。称号“虐殺者”が与えられます。】
「はは、このゲームおもしれー」
所詮は“はぐれ”だ。なんの誉にもならない。
【命の価値が薄くなり、殺害に楽しみを見出した。罪に対する良心の呵責なく、心の内側に潜む小さな怪物が肥大を始める。
血に濡れた朱い手で新たな獲物を求め続ける。
特殊イベント“Monstella”が発注されました。】
「……え、は?」
けたたましい緊急通知。侵食される自らの手の異形化に、一瞬頭が白くなる。
【誰が呼んだかMostella。もはや怪物との区別なく、人間性が薄れた同胞は一つの病を振り撒く獣へと堕ちた。
これよりMonstellaに殺されたPlayerは感染が起こります。感染したPlayerはMonstellaとなり、拡大の一途を辿るでしょう。
※Monstellaは敵mobより敵対認定を受けません。
※Monstellaは一時間で解除されます。
※Monstellaは街の施設利用が出来ません。
※Monstellaは街の指導者を討伐することが出来ます。
※Monstellaに街の指導者が討伐されると、街の税収と特別装備がMonstellaの上位から報酬として与えられます。
※Monstellaからの襲撃を防衛成功した場合、Playerは上位から報酬を与えられます。
※Monstellaした状態で戦闘不能となると“消息不明”となります。
それでは、がんばってください。】
向けられた応援はどちらに向けたものか。他人事な緊急通知が締め括られる。
同じく小鬼を狩りに来たであろうプレイヤーたちの視線が、一斉に異形と化したコジロウへと集中する。
哀れみの視線。消息不明の意味するところは重い。まして事前説明なしの事故のようなものである。
周囲の頭を過ったのは制限時間。すなわち、ログアウトしてしまえば旨味こそなくなるものの、罰則も避けられる。
一部のプレイヤーが動き出した。善意からの提案か、悪意からの奇襲か。
「ーーっぁ?」
その予備動作が実行されることなく、感染を決められる。
引き笑い。薄気味悪く。明確な悪意は、感染源より向けられた。
意味するのは“戦”の一文字である。
「ふ、くく……へは……っ」
コジロウが笑う。周囲も笑う。撃たれた人間でさえ例外なく口角を上げた。
「おい!!! お前らこれから、全員敵じゃぁ!!!」
「「「「よぉ吠えたわぁ!!!!!!!! なぁおい、お侍さんよぉ!!!」」」」
鬨の声。回線の合図。一人のトカゲ頭と長耳がフレンドリストの朱く染まった名前を見て、到着するころには舞台熱狂。
『首、置いてけやぁ〜!!!!!!』
「え、こわ……治安終わりすぎでしょ」
「仕方ありません。こいつら全員終わってますので……ゲーマーの習性です」