スキルセットⅡ @閑話
どのようなスキル構築にしていくかにしても、そう悩むことはない。
どこまで安全を確保しながら、ダメージソースを確保するかが問題だ。
一つの技に拘って火力を上げる、一撃必殺のスタイルなんかもあるという。小回りこそ効かないので、肝心の技の自由度は縛られる。主に役割を特化させたい、パーティー用の構成だろう。
「《居合斬り》の拘りは結構好きだよ、カッコいいじゃん」
「まあなぁ。ほぼ即死。後隙がある分、刀で一撃決めるなら鉄板ではある」
対面でも強くて、横槍にも使える。コンボ技の隙潰し《朧二段》が使えないのが、拘りのちょっとした不便さというべきか。
紙耐久での《踏ん張り》にメタられる弱さがある。
コジロウとて浪漫は嫌いではない。《秘剣・燕返し》などの回避不能の即死技なんかにも好感が持てる。ただ、火力でのゴリ押しが強いかと問われると、首を縦には振れない。
「補助前提の動きってのが気に食わないんだ。忍者の《撒菱》前提では連携必須だし、固定のフレンドを今から探すのもなぁ。ソロ最強」
「俺の手足となればいいのに」
「殺すぞ蜥蜴が」
「やるか人間」
柄頭でゴスゴス殴る。尻尾でビタンビタン殴られる。
重なった知らない人がフォローに入った。
「尻尾切りはごめんでござる」
「この街には竜人差別主義が溢れている」
嘆き悲しむ変則耐久型の明日はどっちだ。マイオナはシネッ。
知らない人とのトークが弾む、よくわかっている人だった。
「名をなのれい」
「拙者、ジョウと申す」
長物ではない。脇差を腰に刺した黒装束。探していた忍者そのものであった。
続いて隣の知らない人へと視線を向けると、もういなくなっていた。
「あ、彼は帰りました」
「そうか……」
若干申し訳なさそうな忍者、ジョウは空気の読める男だった。
その後、特に理由はなく三人で狩へと出かけることになる。
「この辺りさぁ、シナリオが欲しいと思うのよ。もう少し叙情的にしたくない? でもロールプレイはいらないって人も結構いるんだよな」
「TRPG勢の悩みじゃねえか。……でも必殺技とかは叫びてぇ」
「よきでござる。ハンドアウトとかあると没入感あるでござるよ。大事なのは秘密にござる」
「「ま、マダミス勢だ……」」
秘密も含めて、自らを語りたいという欲求はある。全員が正直なゲームよりも、状況が複雑になる人狼ゲームが流行する一端がそこにあった。
文芸によくあるミスリードというやつだ。犯人以外も隠し事があると、注目が殺人の方法から動機へと移ろいやすくなる。
「やはり死因を明確にして、誰が殺害可能位置にいたかを絞り込むべきだと思うよ」
「システムと勝利条件だけ見るプレイヤーはこれだから性質が悪い。もっと製作者の意図を汲むべきだと思う」
「まあ、人それぞれではござらんか? 楽しければ一番でござるよ」
議論は踊る。誰が犯人かが明確でない時は、誘導されている事実に目を向けるべきだ。明かされるべき決定的な証拠が隠されている。
侍が刀を抜く。魔術師が本を開き、忍者が印を構える。
「助太刀いたす」
「ご助力に感謝。さぁ観念せよ邪法のトカゲ頭よ。どうせ召喚のための生贄とかが動機だろうがよぉ!!」
「は、犯人は俺ではない……」
一刀両断(誤チェストにごわす)。鱗に覆われた太い首が綺麗に切断される。刀は押し切るのではない、引くのだ。
コジロウは一つ理解を得る。刀を握り込む手の形。外から見るに変化は少ないが、より深く、刀が揺れないように親指の根本との間の空間を潰すように。
刀の震えが一つ減った。それは動きの抑制でありながら、無駄をなくす効率的な構えへと昇華された瞬間である。
回転に対して垂直ではない、斜めに刃を差し入れることで傷口を開いていくイメージ。故に刀のリーチはそれほど長くはない。手の延長にあるのだから。
先で弾くのではない。根本近く、手を動かして引き切っている。
死戦を超えた経験が糧となる。本来の間合いとはまた違った、必殺の間合い。それに伴い生まれる牽制の間合い。
力を加えた攻撃ほど隙が大きい物はない。隙を作り出した果てに詰めを産んだ。
会心の一撃を放つとともに、侍もまた地面へと倒れる。
息吹は発生していない。ギョロリと目を動かして下手人を捕らえる。
最後に立っていたのは黒装束の男。毒が塗られていたであろう脇差を舐めて、自らも地に伏した。
「さすがニンジャ、(意地)汚い……」
三人を看取った神官が告げる。
「茶番のためだけに私を呼ぶのは、これっきりにしてほしいですわね」
次は四人用のシナリオでマダミスをやろう。三人では、やはり少ない。