小鬼狩り
全ては白痴の夢の中。
いずれ終わりが確定した世界で、神秘は溢れる。
故に奇跡が生まれ、魔術が区分された。
人のための物語のとして生まれた聖なる奇跡と、研究として自然を解析し再現した魔術。
別物として扱われている二つでありながら、研究領域として天体観測を共有している。
曰く、『地が回る』か『天が回るか』。
星の巡り、円環をなしとげているのがどちらなのかの命題は、奇跡を扱うものにとって否応なく関心を寄せる。
場所によっては、奇跡と呼ばれる魔術も存在するのだから、近しいことは確かだろう。
竜人と耳長の友人達が議論していたのを只の人間、侍は思い出す。
どうでもよいことだ。
刀を振るえば、怪物は死ぬ。奇跡でも魔術でも、やることに違いはない。
小鬼が周囲を撹乱する。
森の中だろうと、獣や小鬼が歩けば道となる。
目に見える景色が違う。蜘蛛は人間の高さなど考慮せずに巣を張り巡らせる。故に枝を使った確認は森を歩くなかで必須となる。
気分は少年探検隊。
「一体ずつだ」
人も小鬼も、戦い方はそう変わらない。有利となるのは視覚と手数、射程といったところ。
投石の集中砲火。向かえば逃げられ、最悪は潜んだ小鬼に足を取られる。
踏み潰すより早くに、足を短剣で滅多刺し。
よくもまあ数の利をここまで再現したものだ。未来に生きてやがる。
NPCの戦闘は極めてシンプル。発生の早さと火力推しだ。
まずは動くこと。包囲されるより先にするべきだった。索敵ようの道具を連れてくればよかった。
反省は後に、手遅れでも動かぬまま死ぬのは論外。勝ち筋を下がり、負け筋を逸らせ。
向かう先、木の裏に気をつけて刀を突き入れて確認。即進軍。
包囲を突っ切る。背を向けた先より、こちらに向けて動きが激しくなる。
『KKKKKKIIIIIILLLLLIIIINNNNNNGGGG!!!!!』
心臓が跳ねる。嬲り殺しを狙うか。それもいいだろう。
「猿共が」
真っ直ぐ逃げるのは悪手。横にずれる。木々に回るように、隠れるように盾とする。
撫で斬りもよい。膾もよい。
間合いは常態より短い。一方で、相手の間合いからは遠ざかっている。
戦況は不利だが、コジロウの胸は高鳴っている。冒険であり、斬り合いである。
所詮は雑魚の群れであるにも関わらず。雑魚の群れでこのゲームは普通に死ぬ。
体力はレベルが上がろうとも一定。ジャイアントキリングは当然起こる。
持久力が底をつけば足が留まる。それは小鬼たちとて同じこと。
時折ペースを落として追いつかれれば、話はもう少しだけ簡単になる。
小鬼の間合い。剣士の恥を誘い、振り下ろそうと手を挙げる瞬間ーー……。
反転。払われる武器が振り下ろす手前より、手元に向けて刀を押し込み『弾く』(パリィ)。
別個体の小鬼より振るわれる刃先が身体を貫く。一方でコジロウの体力は減少を表示しない。
致命攻撃が行われれば、完了までのコンマ数秒に無敵の猶予を得る。
一匹の絶命を確認。仲間が殺されたことで脅威レベルが再び上がる、身を引いていく。
「逃げるならそれも良し。来るもの拒まずだ」
振り返るものもいる。直線に逃げる事は悪手だとコジロウは知っている。
弓を違えてなんなくで狙いをつけてある。追撃の矢が逃げた小鬼を貫いた。