フレンド
「やったなテメェ」
強面のトカゲ頭。にも関わらず、ローブで身体を覆い隠し、袖より見える手首は細い。
周囲よりも大柄な寸尺。全身を覆う鱗。捕食者でありながら理知的な瞳。
竜人。それも魔術師とは珍しい。
目深に被ったフードから除く眼は爛々と光り、興奮を示している。
優秀な感情表現だ。本当に怒っているようにも見える。
「なんじゃあ! トカゲが人間の言葉を喋るなよ!」
臆することなく、コジロウは挑発で返した。
石造りの街中。多種多様な種族と素性に紛れる朱い武将鎧。
文明が違うことが一目で見てとれる。しかし目立つことなく、街中の一人。プレイヤーとして堂々と背筋を伸ばす。
少なくとも、目の前の友人よりは幾分か目立たないはずだろう。
さまざまな素性の坩堝となった《はじまりの街》でも、彼の姿は珍しい。
「仮想世界だからこそ、自分の分身として世界を巡りたいじゃねえか」
ありえない世界で生きる自分を夢想する。それも一つの楽しみ方だ。
「仮想世界だからこそ、普段と違う姿となって遊びたいだろう」
平行線。それぞれの正しさを胸に抱えている。
侍は鯉口を鳴らし、竜人は口端から息吹が漏れる。
お互いの間合いを見極め、踏み込みを入れーー……。
「街中で暴れるのは、おやめになって」
鈴が転がるような声にぴたりと止められる。
大きな声ではないが、かき消されることなくはっきりと耳に届いた。
声の主の方向へと首を回してなお見えず。視線を落としてようやく姿を確認できた。
金髪碧眼の少女。竜人と同じくローブ姿でありながら、白地を中心に金糸で紡がれた、仕立ての良い身なりをして、首からは聖印を下げていた。
「ルノア、君もか」
嘆かわしいとトカゲ頭が首を振る。それもそのはず。フードを外した彼女には、種族の特徴とする長い耳が伸びていた。
「ソーマさん。流石にトカゲ頭で回るのは、目立ってしょうがないと思うの」
失礼、と自らが清楚であるかのように付け足す言葉に、コジロウは耐えられずに吹き出した。
じろりと目で不満を伝えられ、言い訳を述べる。
「随分はっきり言うもんだから。お嬢様剥がれてんぞ」
「ふ、ふん。お黙りなさいな」
言い争いの隣、事前アンケートで少数派(2%)だった男は、それでも仲間達ならと信じて普通に裏切られた。
「こいつら頭おかしいよ〜」
「「お前が言うな」」