小さな征服者 続
「いらっしゃイ。お二人ですネ。お好きな席にどうゾ」
すわ罠が張られているのかと勇んで入店したはいいものの、丁寧に案内を受ける。
座った瞬間にイベント戦闘でも始まるかもしれないも気がしつつ、ひとまず座ることにする。ゲームなら何が起こるかは分からなくともとりあえず流れに乗っていたら進行するだろう。
「プレイヤーが積極的に発言するのは好ましくとも、シナリオ崩壊は身内ノリで納めておくべきかって言われると難しいところよな」
「……? あ、前に話してたTRPGの話? 好きだよね。私もやりたい、できるかな」
あのトカゲ頭は初心者の参入を喜ばしいとしつつもあまり好んではいないからどうかな……。好きなやつは勝手に育つ持論があるから、最初から人を頼るやつはアクションが遅いと考えてる節がある。
布教ってのは適当に百人に声かけして一人でも行動すれば成功だって、長い目を持つ必要があるだろう。とは思うものの、実際に週に掛け持ちで卓をしているようなガチ勢に言っても、釈迦に説法なのは間違いない。
その辺、忍者と話してみて反応を見てみたい。TRPGのあるべき形ってみんなで物語をつくることなんじゃねえのって思うんだが、つまり最初の導入部分はプレイヤー側が話してみても面白いと思うんだよ。制限時間3分くらいで。
そうしたらお互いの主人公感みたいなのが捕まるんじゃないのかって話。ビルドとかの話し合いで終わっちゃうことが、ゲームシステムを楽しんでいる勢力としては楽しいんだろうけど、ちょっと寂しいと思う。
「出来るとも。最初が少しややっこいから、やってみて覚えると早かぞ」
「一冊だけ買ってみてはいるんだけど、文章長くない? 覚えきれないんだけど」
「火力をどれだけ伸ばせるかを最初に見ておけ。レベルやステータスで上がるなら早いけど、武器強化や攻撃回数が鍵になる場合もある」
「レベル上げて強い武器に買い替えたらいいんじゃないの?」
「ドラクエ方式な。あれはあれで強い武器探せて嫌いじゃない」
「ブーメランがおすすめだよ。レベル上げがめっちゃ楽になった!」
「あれで一人旅できるとはなぁ。ギガデイン覚えたらもうこれ一本でいけるだろってくらい、全体攻撃の強さを思い知ったわ」
「状態異常で袋叩きなんだけどね。回復職とはいわずとも、道具が使える仲間のありがたみが分かる……」
「お客さマ、ご注文はお決まりになりましたカ?」
「コーヒーのホットを一つ」
「私はクリームソーダでオネガイシマス」
まんま喫茶店の注文だが、あるのだから仕方ない。
というか、クリームソーダとか提供してるんだここ。
まさかスライムのドロップ品が材料だったりしないだろうな……ぷるぷる。僕は悪いスライムじゃないよ。かわいいスライムならしょうがない。
ちなみにVRだから味覚も備えてる。VRすげえ。なんで歯の当たり判定とかつけようと思ったの、食べ物の分割ポリゴンに命かけてんの。口の中だから見えない仕様になっているのかと思いきや、普通に食べカスが落ちたりするからな。一定時間が経つと消えていた。
注文を確認して厨房へと移動した店主の方から硬いものが触れ合う音が漏れる。
「喫茶店とか慣れないなぁ。あんまり行ったことない」
「そういうもんか? あーでも、出費が気になるといえばそうか。ルノアも節約がどうのこうのでいけないとか話してたな」
「え、そんなお金ないの? あの人」
「純後衛は特別、キャラ作成が面倒なんだとよ。あの長耳は片っ端から魔術と奇跡を覚えるつもりだからなおさら」
サブイベで手に入る魔術は当然として、基本魔術の研究だってスタートダッシュとしてはそれなりにお高い。
コスト魔術はそのまま瞬間火力に繋がるが、しかし集中力の効率で見るとDPSはそこまで変わらなかったりする。
コジロウとしては重力弾が好みだろうか。後衛で撃ってくれると目標がルノアへと引き寄せられるために、追撃性能が高いのが良い。
こないだは切り結んでる間に引き寄せた結果、先にルノアを始末されたから、そこだけ注意したい。
「たしかに。私にしたって触媒と武器を強化してるから気づいたらお金がないのはよくあるなぁ」
「金策効率は戦士よりは良いから、奴のそれはもう性分よ」
「そうじゃなくても喫茶店て外から入りにくい場所にあるからさぁ。ちょっと勇気がいるよね」
「わかる。でも好奇心が刺激されたりするんだよな。スタバに慣れると、朝にいるのは大体爺さんか婆さんなのにな」
「コジロウ、朝にスタバとかいくの? なんか意外」
「俺だってそういう憧れに惹かれるときはある。飯も食おうと思うと千円超えんだぞ。コンビニで三百円くらい肉まんと合わせて買った方が安くねってなるんだ」
「せ、せこい……」
スタバはまだ珈琲単体なら三百五十円くらいですむものの、コメダはワンコインなんだからすげえよな。もっといえば、朝に行くならモーニングが付くからコメダの方がおすすめだ。
ゆで卵を食ってる時間って、ジャッキーにだけはなれないって思うよな。外国の生卵ってそもそも消毒してんの? みたいな疑問もある。
「ご注文のコーヒート、クリームソーダでございまス。ごゆっくりどうゾ」
喫茶店談義に花を咲かせていると、小鬼の店主がテーブルに注文した飲み物を並べた。
冷たいと温かいが共存しているテーブルを見て、この幽霊娘ならフラペチーノを平気な顔で頼めるんだろうなとコジロウは思う。
アイスとしてみると普通に量が多いから腹を壊すんだよね。なんで冬になると当たり前の顔で苺のシェイクを出してるのかがもうわからない。
「お腹弱くない? ちびまる子ちゃんにいたよね、いつもお腹壊してる子」
「繊細なんだよ俺ぁよぉ〜! っ!?」
「あれ、どうしたのコジロッ……!」
「……ぁ、まひらッ!(麻痺だっ!)」
一服盛られたらしい。なんて店だよ。こんどトカゲ頭にも招待することを誓った。幽霊娘への報復も忘れない。いい加減決着つけてやるよ目の前をちょろちょろしくさってよぉ!
話していることでぎりぎり保たれていたコジロウの眠気は、行動不能の状態異常を受けたことで急増する。コジロウは寝た。すやぁ。
「えっ、へふいもあうの!?(眠りもあるの!?)」
おそらくイベント。助け合える仲間を連れても、共倒れでは意味がない。
状態異常の全体攻撃は強すぎるだろうと、メアリーは思いを馳せた。耐性装備はだいじ。




