小さな征服者
騎馬と武器を得たものの、騎乗戦闘の経験がないことが一つ、もう一つはそもそも使えない装備ときたものだ。しばらくの活動方針は、騎乗先頭の練習を兼ねての経験値稼ぎとなった。
“射殺す百頭”に関しては、足りない要素が能力値かスキルかによって話が変わってくるので、ここに関しては試行錯誤を繰り返すしかない。
「弓とか手綱とか、ずいぶんと引くものが増えたね」
活動方針はともかくとして、侍は幽霊娘と共にお茶をすることになった。
コジロウとしても24時間ずっと戦闘をすることはしんどい、ということもなく望むところなのだが、それ以外の全てを切り捨てるつもりもない。
そもそも幽霊って飲食できるのかと思い、食べてるとこを見てたら面白そうだなという理由でついてきた。
なにやら面白いものが観れるとの誘い文句だが、幽霊の飲食よりもインパクトはあるものだろうか。
「刀だって押して斬るばかりじゃない。とは言っても、その辺はアシスト頼りだからな。できることはせいぜい動きと動きの間にできる隙を潰すくらいだ」
「動きの隙ねぇ。そんなこと考えながら闘うのなんて疲れない?」
「え? 全然? ……なんで?」
「あっはい。なんでもないです。エンジョイ勢でごめんなさい」
「はは、いや気にするなよ。ゲームってのは楽しんだもん勝ちだろ」
「ほんとぉ? 勝てなきゃエンジョイできないとか言い出さない?」
「いや、勝とうと漠然とした思いは大事だけど、実際は勝とうって言葉が頭にあると邪魔なんだよな」
「ひぇ」
「相手の動きを予備動作として見て、次の行動予約を頭の中で整理していると全然、勝ちたいなんて思ってられないっていうか……」
「長い長い! 私がわるかったよぉ! ていうかなんか目が虚なんですけど……ちゃんと寝てる?」
「寝たら感覚を忘れるんだよ。知識が増えても、感覚がズレると矯正するのが難しいんだ。一日の終わりって新しいこと覚えるタイミングだから、そのまま寝るの勿体無いよねって思う」
「は、廃人だ……」
「廃人じゃねーよ。こんなんは当たり前に、誰もがやってることぞ」
「私の知ってる当たり前と違いすぎる! この後は一回ちゃんと寝るんだよ?」
すぐに寝ろと言わないことにはひっかかりを覚えるが、すぐに忘却された。侍はひたすらに眠かった。
さんまさんが、眠くなるときは自分の活躍した記憶を思い出せって話していたことに近い。
特にVRのゲームなんかは、寝ても座ってもできるのだから、むしろ寝ている姿勢が起きている状態に近づいている。
ゲームを始めてからか、光があると妙に脳が覚醒して眠れなくなったのは、ちゃんと身体に悪い影響があると思う。
ゲーマーは適度な時間だけ遊べばいいと言い訳を並べても、自分に当てはめる気はさらさらにない。
意識が途絶えそうななかで目をギンギンにしながらやる徹夜ゲームが、世界で一番面白いと信じているし、48時間ゲームをしたあとに24時間睡眠して風呂入って飯食って散歩、毒抜きされた瞬間になにをしていたんだろうと虚無になる生き物だ。
ある程度、面白くないと思える作業をこなすくらいの方が長く続くのだから、ぶっ続けでやることは推奨しないものの、しかし日に日に衰えていくゲーム筋肉というか、ゲーム内での反射感覚を放置することもできない悲しい生き物へと変貌していくのだ。
自分は違うという顔をしている幽霊娘だが、ゴブリンを作業的に殺しているところを確認している。その時はすぐに離れたものの、勝利に対するエンジョイ勢へと一歩足を踏み入れていることに気付くのは、もう戻れないときだろう。
「まあ、段階ってのは必要だ。最初はみんな、自分は違うって認めないもんよ」
「一人で納得しながら話すの、友達失くすんだからね」
「なんじゃあそら、実体験か?」
「……うぐぅ」
図星なのかよとコジロウは思ったが、それ以上かける言葉も見つからなかった。
(そもそも、他に誘う友達もいないみたいだしなぁ。今どき珍しい。Discordの野良募集なんかに行けば、いくらでも友達なんて出来るだろうに)
今日はソーマもルノアもいないから、しかたなしにコジロウに声をかけたのかもしれない。
そこまでで考えを打ち切った。人には人のリアルがあって、自分から明かさない限り踏み込むのはマナー違反だ。
せいぜい、モチベーションを保って楽しくゲームを遊んでくれる人が、一人でも多くいてくれればそれでいい。
ゲーム友達以上を望むことはなく、むしろゲーム友達でなくなることの方が面白くない。
なにが楽しくてゲーム内の友達とリアルのことをやいやいと話さなくてはならないのか。
(そういうのは、現実で十分だ)
ゲーマーはゲームでのみ繋がっている。脆い絆であることには違いないが、しかし他では補えない関係であることは喜ばしい。
友達を好きなゲームに引っ張ってきても、ハマるかは人それぞれだし、それで関係が拗れることもある。
ソーマにしてもルノアにしてもゲームがきっかけで仲良くなったものだから、別の趣味やゲームにハマれば自然と離れていくのは変わらない。
(体験してみるまでは、受け入れられないもんだけどな)
「……それで、その件の店ってのはどのへんにあるんだ?」
「えとね、ここを右に曲がったところだね」
大通りからは少し外れている。メインストーリーに関わる大きな店や武具などの市場とは別で、プレイヤーのやっている店に近い立地だ。
言われた通りに角を曲がって観えた光景に、侍は目を見開いた。
石造りの店舗。洒落ているとは言い難く、ちょっとした食堂といった雰囲気はあるものの、これといった特徴があるわけでもない。
窓から見える、この食堂を営んでいる人物は、小柄な身体に清潔そうな白い調理服を纏っている。目が合うと、にこりと微笑んで会釈だけで済ませた。
インドカレー屋なら手招きでもしてきそうだと感じるし、日本人としては無視するとちょっと可哀想だなと思ってしまう。そんな異様さを思い出す程度に異質な存在が店を経営していた。
「小鬼じゃねぇか!?」
「すごいでしょー!」
むふんと胸を張る幽霊娘は、褒めろと言わんばかりのドヤ顔をした。




