模擬戦 @閑話
修練場はあれど、そこで学ぶは個人の技のみ。
外壁部で模擬戦が行われるのは、次のMostella進行に対する備えか。
集団での勝負。
なんでもありから始めると、動きが分散して訓練にならず。
五人隊、二十人隊、六十人隊。
少しずつ規模を増やしながら、それぞれ前衛後衛に別れた舞台での交戦が行われている。
基本は負け抜け。
とはいえ腕に差があり過ぎても問題ということで、3回勝てば抜ける、という慣習が出来つつあった。
当然、コジロウも参加している。
竜人と長耳、鬼と化した忍者と、その辺にいた幽霊の呪術師を入れた闇鍋部隊だ。
「前衛一人だよ、私前衛じゃないよ」
「その辺りは任せておけば問題ありませんわよ」
侍が前衛。
忍者、呪術師が中衛。
竜人、長耳が後衛の、やや射程の長い編成となった。
「崩れれば弱いけど、崩れないから」
練習相手は、剣士三人、神官と弓手と対照的とまではいかずとも、前線の負担が増える編成。
怯まず答えるのは竜人の魔術師。地面より湧き出すのは骸となった小鬼共。
「誰かさんが殺し回るから、素材の入手には困らなくて楽だね」
「あまり褒めんじゃねえよ。虐殺すんぞ」
「消息不明したいならいつでも相手になってやるさ」
「味方でござるよ御両人。拙者も混ぜなされ」
開始と同時に三人が飛び出す。
出遅れたのは呪術師だが、とくに連携を決めていた訳ではないので誰が責めるでもない。
数合わせの時点でえらいと、侍からは舐められていた。
「ま、まてー!」
横槍くらいならメアリでも入れることが出来る。
走り出そうとした襟をルノアに掴まれて首が締まった。
相性最悪の相手が二人は味方にいることが居心地悪い。
とくに幽霊は回復で負傷を負う。あまり近づいての同士討ちは避けたい。
「ぐえー! な、なにすんだこら〜!」
「すみません、邪魔でしたので」
率直に切り捨てた言葉で、欠片程度の集めた勇気に日々が入る。
初めての参加ということもあって、なんとなく見知った侍がいたチームに参加したはいいものの、どこまで手を出していいかの勝手が分からない。
「で、でも、三人で飛び出してるのは人数不利だから、行くならみんなで……じゃないの?」
「ええ、正解ですわ。でもあなたまで一緒に飛び出すと支援が飛ばせませんの」
声は柔らかく、一手か二手はこの会話で遅れている。
ルノアとしても、どこまで教えるべきかは悩ませられることだ。
初心者には好きなようにやらせてみることが鉄則でありつつも、悲しいかな、無駄に仲間が強いせいか挑んでくる部隊も腕に覚えがある者ばかり。
敵側の大将から英雄まで、コジロウが活躍し過ぎた結果である。
「《速度向上》! 《防御向上》! これから教えますので、死んだらあなた達のせいですからね!」
「任せい、教える間に全員殺しちゃる」
「そりゃ難しいでこざる……拙者じゃなければ」
「時間稼ぎは問題ないよー」
先人を切って飛び出したのは侍。先制で仕掛けられるのは慣れっこで、弓手の先、矢の方向を右に歩いて、左にずらす。
「え、避けれるのあれ? すげー」
「補足すると、狙いをつける瞬間が一番避けやすいですわよ。右に振るなら左に良ければ、狙いがつくのは僅かな時間ですから」
「?? よく分からない」
「物理でいう相対速度ですわね。止まった状態では右に五の動きでも、左に五だけ狙いをつけてる時には体感が十まで上がる……言うは易しですけれどね」
それでも当てれるのは、最初から動きを読んでいる一点狙い。
ただし今回に至っては、そもそも当たることが目的ではない。
脚を止められた侍へと迫る鞭。それも二刀流となると、相当な火力と間合いを持つ。
防御不可の一撃を、侍は引いて避ける。
右からは盾を持った剣士が近づいてくるのを小鬼の剣士が盾にした魔術師が牽制する。
左の敵に向かい合うは忍者。手裏剣を牽制としてじりじりに距離を詰める。
乱戦状態。このまま弓で狙うのは、余程の自信があるか、ゲームじゃないと出来ない。
とはいえ定石としては空いた神官を狙うが次善策。
追加で無理に抜けてくるならば、そいつに射かけて脚を止める。逃げるでも変わらず。
厄介なのは幽霊の少女だが、生憎と初心者研修を行う最中である。
「中衛の役割はご存知かしら?」
「ええと、横から差し込む?」
「概ね正解です。邪魔とトドメ役、どちらかですわね。言わば短い弓使いのようなものです」
「私もえっと、ルノアさんを守ってればいい?」
多分上手い人ならもう少し前に行くんだろうとは、メアリなんとなく思う。
それこそ魔術師で前に出る酔狂な竜人もいるのだから、その考えは間違っていない、けれど。
どことなく整列した動きであることは見て取れる。
あれをやれと言われれば、今のメアリには難しい。
弓の射線には入らない様にしながら、補助と回復に専念する神官が続ける。
「大事なのは視線の向き。常に相手全員を見れる視野角と位置取りを気をつければ、自分のいる場所が何となく分かる……のは難しいかも」
早口に捲し立てたせいか、口調は先ほどまでより砕けてしまった。
あるいはそちらが素の姿なのだろう。
「この二つで結構。あとはどれだけ変な動きだとしても、精一杯やって身体で覚える! で、よろしくってよ」
「ふへへ、付け加えるのちょっと面白い」
「もう!」
どこへなりとでも行けと幽霊娘が背中を押される。
視線の向き。侍はこちらを一瞥もくれない。
中心は神官と、弓手か。
前衛と撃ち合いながら、顔を向けているのは後衛という、器用な戦い方をやってのける。
細かい部分は見て対処というより流れで覚えているといった風だ。
ジョウはそんな侍と小鬼を盾に、陰に回る様にして奇襲を仕掛けたら牽制したりと細かく動く。
ソーマは侍に横槍を入れようとする場所に毒息吹を吐いて小鬼で妨害する。
その間に侍が滑り込ませる様に、刃を首筋へと入れて、押しながら引き切った。
動きを再現させた状態で必殺の間合いをつくった、というのは理解できた。
細かい技術は分からない。
ただ鞭を振るうより先に刀が敵に吸い込まれていくように、メアリの目は認識した。
(なんだろ。勝つのが分かるように見えた)
理由も原理も不明であるが、メアリには別の強みがある。
浮かせた短剣が回り込む様に敵の剣士を狙う。
死霊術師のトカゲ頭が興味深そうに幽霊娘を眺めた。品定めというような目に、やる気で返す。
正面からの背後狙い。それは相手も警戒せざるを得ないが、すでに侍が迫っている。
鍔迫り合いが始まる、もはや体当たりの勢いを反射的に受け止めることは必至。
後ろに下がるも横にずれるも、後続の二刀目に阻害される。
デバフを受けて、挟み込まれて貫かれる。
最後の盾持ちは毒息吹でじわじわと死ぬことになるのは、人数十分と見た侍が小鬼を盾に後衛に突っ込んで、勝負ありとなった。




