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Monstella Online(仮題)  作者: 豆乳ドーナッツ焼かれてる
15/20

人喰馬

「勇者様に褒賞を与えたく存じます」


 無垢な笑み(内心どう思っているかは知らんが)をコジロウへと向ける。


(よくもまあ抜け抜けと。心根が邪悪なのはこの姫様だろ)


 そもそも前任の指導者を殺したことが褒賞である背景が見えない。敵なのだろうか。


 転生限定であるが種族は増えた。

 それに伴って敵mobの怪物もまた増えた。


「人が怪物を孕むという見方もございますね」

「その場合は、姫さんも猫を被ってるってことになるわけだ」

「とりあえず腹は真っ黒だろ」


 プレイヤーが目の前で殺されたことに対しての反応が薄いのはゲームシステムからくるものか、はたして。

 少なくともお付きの爺さんは反応していた。

 騎士団長ということで、物腰の割に能力値は英雄(プレイヤー)でも侮れない。


 となると、生粋のサイコパスか、愉悦部員といったところか。


「移住者だって考察もあったな。結局のところ英雄(プレイヤー)は流れ者ってわけだ」

「家とか持ち合わせてないしな。その辺のアップデートをお待ちしておりますってか」

「案外、Playerが勝たないと発展しないままだったりしてね」

「もどかしい話には違いないけれど、こればかりは仕方ないかしら」


 わざわざ負けるというわけにも行かず。

 とはいえ一度の敗北は大きな経験となり、指導者(エウレア)への忠誠からか、わざわざ防衛を目的とした連合(ギルド)を組んだ者までいる始末。

 次はもう少し、骨のある戦いになるだろう。抜け道も警戒範囲となったので、いかに仲間を増やすかが肝要となるか。


「おっほん。勇者殿御一行、姫の御前であることを忘れぬように。礼儀には目を瞑るとしても、限度がありますぞ」

「いいのです。突然の就任は事実ですから。どのように思われようと否定しようがございません」


「ああ、いや。それに関してはこちらが悪い。すまなかった。代表として非礼を詫びよう」


 NPCと話すことほど虚無なこともない。

 ままごとに付き合うような気だるさから、刀に手が伸びそうになるのを、ルノアに肘打ちを打たれることでどうにか我慢する。


(てめぇのせいで俺は変態(ロリコン)扱いじゃボケェ)


 本音でいうとシナリオスキップしたい。

 しかしそうするとクエストの流れが分からず支障を来たすと、補佐として二人をつけられたのでそうもいかない。

 じれったい。全員殺せばすっきりするのに。


 コジロウとしては、とっとと褒賞とやらを貰って小鬼たちや新たに生まれた人魂なりを殺しに行きたかった。


 そんな想いを抱えながら、形としての言葉だけの謝罪ではあるものの、騎士団長も矛を収める。

 当の本人は最初から特に気にした様子も見せず、すんなりと受け入れた。


「ともかく、勇姿を称えた褒賞を受け取っていただかなくてはなりません。準備はよろしくて?」

「準備、というと」


 それは大層美しくしい、満面の笑みを浮かべて告げる。


「勇者様には試練が付き物ですから」


 そう言って連れてきたのは一頭の黒馬。立派な立髪で目が隠れているが、周囲に浮かぶ黒い人魂が瞳のようにこちらへと向けられていた。


 尋常の馬ではないと、一目で分かる。

 特徴的なのは見え隠れする歯列。

 見えぬはずの牙が見え隠れしていた。

 

「肉でも食うんか。けったいな歯並びをしおってからに」

「ええ、何人か世話係をいただかれちゃって」


 トカゲ頭は渋面をつくり、耳長は呆れ溜息を吐いた。


「あ、あの褒賞とは……褒賞ってなんだっけ」

「変なのが殺したから変な指導者がお越しになったのね」


 エウレアが合図を出すと、あれよあれよという間に簡易的な結界が貼られる。外には出さない仕組みが出来上がった挙句の一言。


「準備は……よろしいかしら?」

「好きに始めい。今更の話じゃ」


 見せしめ(負けイベ)ならそれも良し。

 見かけが強かろうことには見栄えが良くて大変結構。


 せいぜい足掻いて一花散らす。

 失うものは何もない。

 それならばいつも通りだ。


 いつも通り、怪物を殺す。


「そういう遊び方しか、俺は知らん」

「ふふ……やっぱり、素敵だわ」


 再びの合図。

 人喰馬が解き放たれる。


 周囲を見渡し、自由に動ける少しの範囲に、自らの脅威となるであろう存在(コジロウ)を警戒する。


【逃げ場はなく、無様に鎖を着けられて、挙句には周囲を二本脚の猿どもに囲まれている。


 自尊心は強く傷つけられている。だが、それ以上に目の前の敵が気にくわない。

 それ以外が有象無象(どうでもよく)となるほどだ。


 怪物が目の前を生きている。ナワバリを侵している。

 あの魔性と並んでーー生かしておかぬ。】


『HIHHHIIIIIIIIIIIIIIIIIIIINNNNNNNNN!!!』


 嘶き一つ。

 雷鳴が轟くかのごとく、地が震えた。


「元気なのはええ。なあ、お前さんよ。俺が憎いと言うのなら、俺を殺して見せるがええ」


 獣の臭いが充満する。目と鼻の先まで人喰馬が迫る。


 人と獣の違いなどただ一つ、道具を扱うか否か。

 間合いも何もない。それでいて自然のままに猛威を振るう。


 それでいて知能も高い。


 左右にステップを踏みながら、緩急をつけて突撃する様は、侍の距離感を幻惑する。


 飛び跳ねた身体が『伸びた』。侍の身体が空へと浮かされる。


 慣性を消した動きーーコジロウが得意とする歩法を、人喰馬も習得していた。


「なんだありゃ、すげえ馬力じゃねえか」

「わざと飛んでダメージを軽くしたか……なんつうか、小細工の多い侍だな」

「まあ……亡者(ゲーマー)だからね」


 滑るように、伸びるように移動するのは全て目の錯覚。動きの芯を捉えることは難しい。

 着地の瞬間には飛び跳ねることができる。

 そういうものだと侍は知っている。


 狙うのは空中に飛んだ瞬間。

 油断すると叩きつけを喰らうのは自分だ。


 背後からの後脚(キック)が封じられてるだけマシと見るか、回り込むことが悪手となることに舌打ちをするべきか。


 必要なのは側面を取ることであるセオリーを完全無視する挙動はしかし、お互い様だ。


(これだから巨体ってのは不便でならねえ。攻撃範囲の利点はあれど、こりゃ回避可能(ゲーム)だからな)


 決して単調ではない。

 スタンプ、蹴り上げ、飛び跳ね、体当たり、回転蹴り。


 移動がそのまま攻撃になることが動物型の最も厄介なところ。

 亜空間タックルでないことを幸運と思うかは、修羅場を潜り抜けた数の違いだろう。

 あれは初見殺しの覚えゲーだった。レトロゲームはバグがあるからこそ面白いとも言える。


 ひたすらに距離をキープ、詰める攻撃は避けるのループに入ってしまうことが残念でならない。


 避けたタイミングで袈裟斬りを入れるだけの簡単なお仕事ーーのはずもなく。


 蹄鉄防御判定(スーパーアーマー)からのスタンプ。


「ああ、攻撃判定を読んでるのか」


 受け流し。とはいえ何度もは無理だ。刀が折れる。

 武器の耐久度はユーザーの手間を増やすだけだとなぜ理解しないのか。


 攻撃が外れる、反撃が来るの予測が立てられた動きだ。

 間合いに入ると発生する予測行動(めたよみ)


「いまどき、小鬼でもやってくるぜ」


 古今東西、ゲームの終着点はジャンケンだ。

 狩人の掛け算でも、虫の王者でも王道の戦法となった。


 再びの攻防。足上げに側面から入り込み背後に飛び乗る。


「おお、よしよしよしよし。可愛くはないですねー。ブサイク筋肉達磨がよぉ」


 耐久勝負(ロデオ)だ。

 暴れる手合いで一番嫌いになるのは、動きが不規則になるところ。


 左腕で体勢を維持しながら、右手で脇差を抜いて差し込む。

 出血(ブラッド ロスト)


 浮き上がる手前で軽く跳ねて、衝撃を流す。思いの外高く上がったので、そのまま反転して着地に成功。

 そのまま慣性を曲げて走り込む。


 今度は余計な寄り道をしない、最短で駆け抜け反転、低空での反転切り上げに繋げて、着地から足元までの四連撃、払い上げ。

 一定時間の間での連撃に脚が浮いた。

 『浮かせすぎた』、後ろに転がる寸前のふらついた半身上げ。


 体制崩(スタン)し。ただしこちらも息切れが近い。


 脇差は中途半端に抜けたのか、勝手に傷口より滑り落ちた。

 疲れを払う首の振りで血が空へと舞い散る。


 それだけの前隙を消費した《英雄の一撃》。


 構わずに構えて、踏み込んだ《強撃(スマッシュ)》を、太い首元ではなく、顎の下から差し込んで捻りこんで『落とす』。

 首の半分までの深傷から血が溢れ、舌が出たままに人喰馬の意識が、呼吸が荒くなる。


「すまんなぁ。苦しませて」


 上段から叩き押し込んで首の骨を『外す』。後は引き切って首を落とした。


 ーーその瞬間に馬が再生する。


「っ!? Monstellaだぁ!?」


 立ち上がらせない。首を締め落とす。

 強靭な脚を持とうとも、踏み締めることをそもそもさせない。

 体重をかけて地面に縫い付け固定する。


 人喰馬が食いしばる口から血の泡を吹き出し、それでもなお噛みついてくる。


「上等じゃボケがぁ!!!! 食い千切ってみせんかい!!」


 血に酔い狂っている。侍も馬も正気など、とうに捨てている。

 抵抗を無くさせてそのまま息を引き取り、『転生』した。


「!?!?!???」


「素晴らしいです勇者様、もう手を離してよろしいかと」


 涼しげに結界を解いて近づくエウレアに、侍は呆けた顔で力を抜いた。

 人喰馬も、立ち上がらないままに、一度首を上げて、首を垂れる。


「寝土下座とは新しい」

「てか、戦い方が泥臭すぎんだろ。締め落として」


 観客(ギャラリー)の言葉でようやく酔いが醒めた。

 降伏の意図を汲み取って、首を(なでる)く。


 褒賞と戦わされるなどと聞いたこともない。が、正しく所有物として認識されているようだ。


「……馬小屋を用意しねぇと駄目か」

「魔獣ではございますが、その分だけ馬力は確かかと。このような渡し方で恐縮にございます」


 説明も無しに殺した侍と、それで想定通りだった姫を見て長耳が推察を口にする。


「やはり指導者の思考は、前指導者討伐をこなした者に影響されてませんこと?」

「数をこなさないことには何とも言い難い。あれを殺すのは骨が折れそうだけどね」


「HAHA、トカゲの旦那よ。面白いことを口から滑らせるじゃねえか」

「あー、うん。良いことだよね。しばらくはPlayer側が有利に動けそうだ」


 騎乗を想定して、鞍も渡されるコジロウと、それを取り付けても文句を言わない人喰馬。

 仮に負けていたら、どうなっていたのかが気になる。しかし手に入ったものは有効に使いたい。


 移動手段の入手は、元より馬を借りることで出来たが、魔獣として生まれ変わった馬を従えるとは。


 いかにして遊ぶか、コジロウの思考は周囲の熱が上がると反して冷えていく。


「騎乗戦闘となると、頼もしいのは違いない」

「またのご活躍を、お祈りさせていただきますわね」

「知らん。好きにせい」


 勝手に勝つし、勝手に負けるだけだ。

 どうせなら、知らない強敵をまた引き連れてきて欲しいところだ。

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