真剣勝負 @閑話
レベル上げを図る上で、最も効率の良い宝箱とは小鬼でも盗賊NPCでもなく、英雄だ。
消息不明となり、鬼武者として転生した侍は生粋の対人特化であり、辻斬りを続けて経験値を稼いでいる。
死体漁りは最低限に。
優先は使い道に困らない金銭。時々強化された武器防具が見つかれば幸運と割り切った。
(こう言っちゃなんだが、消息不明して良かったまであるな)
種族としての鬼が癖がなく強い。
筋力も体力も持久力も、人間より初期値が高い。
その分だけ知力と信仰と集中力が低くあるものの、近接特化としては寧ろ王道といって差し支えない。
何より種族固有特性が、対人にやたらと噛み合っている。
《鬼面爀人》は咆哮を上げれば相手の攻撃力を十秒間だけ落とす単純な効果をしている。
その場で脚が止まってしまうデメリットかあるものの、攻撃に繋げることが出来る上で、怯み無効の隠し効果まである。
脳筋最強。
《斧術+9》《二刀流+8》《剛腕+8》《飛翔攻撃+5》《攻撃+8》。
脳筋二段。並の盾防御を崩壊させ、踏ん張り対策で二刀流からの同時攻撃。
剛腕は二刀流で分散される攻撃の補正を軽減する効果を持つ。
その分だけ隙が大きいので、奇襲に失敗すると一気にピンチに陥るが、まあ最悪逃げればよく、近接が相手なら基本的に負けることはない。
魔術師を狙った時が厄介だった。短剣使いと思って殴ってみたら空を切ったから時。
お互いに微妙な空気に包まれたが、その後にすげえガンメタなスキル構成だったことを思い知らされた。
(物理無効など、どうしろっつうんだって話よ。聖剣とか聖属性強化武器か、聖水をぶっ掛けた武器で戦うとか、面倒な種族も追加されたもんだ)
初見殺しはお互い様ではあるものの、自らが嵌るとやるせない思いをさせられる。
その点、生者共は楽で良い。
ある程度の種は割れてるし、王道に攻撃能力が強化されているものの、防御能力はそれほど高くない。
亡者との違いはその辺だろうと当たりを付けた。
対策さえされてしまえばそれまでだが、逆に言えば対策は必須なくらいに強い。
ハメ性能が高いのだ。
今日の獲物を品定め、人間の侍を見つけて口角を上げる。
レベルに合わせてチャンネルが変化するこの世界では、初心者狩りは行い難い。
とはいえ、良心が痛むので都合はよい。
さらに言ってしまえば極端な格上とも出会い難い良システムだと考える。
この辺りの調整が出来るくらいにメモリ容量が多くなっているんだから、良い時代だと鬼武者は心中で頷きながら奇襲をかける。
難しくはない。突っ込んで殴る、それだけの簡単なお仕事だ。
タイミングは小鬼へのトドメを刺す瞬間ーー。
ーーしかし、侍は避けた。
(反応がやたらいいな、耳で距離が分かるタイプと見た)
構え合う。お互いに見知らぬ顔立ち。
鬼武者の顔を見て、少し目を大きくするが、構えに隙は見せずにこちらとの距離を保っている。
「なんだてめぇこら。けったいな面ばしやがって」
「ああ? ……色男だろうがよ〜」
「がはは、違いねぇ」
互いに詰める。この瞬間が必殺の間合い。
『SSSSCCCCCCAAAAARRRRRYYYYY!!』
「っさいのおっっ!!! じゃかましゃぁ!!!」
《強攻撃》の大振り、ダメージ覚悟で突っ込んだが、空を切る。
続くもう片方の斧を横一閃の振り抜きで牽制、受け流しならそのまま踏み込んでぶちかます。
受け流さない、バックステップか。距離を取るなら仕切り直しーーいや、詰めてきた。
鬼武者からの追撃は悪手になる、スキルのクールタイムも入って引きながらの殴り得、それを読んだ仕切り直しを、さらに読んできた。
(こいつ相当に戦い慣れてやがる)
不利を取ると人は引く、その逆も然り。
瞬間の判断がいいのもあるが、動きを一連の流れとして効率化して反射している。
それにしたって切り返しが早すぎるのは、回避性能かと考えて心中で首を振る。
慣性を殺してるのは歩法によるもので、反対としては回避を選んでいないままに移動だけで攻撃を避けた、キャンセル移動。
「てめこら知ってやがったな!?」
「初見殺しなんぞすぐ広まるに決まっとろうが!!」
最初からここまでの流れが狙いか。威力を軽減された一撃が入る。浅い。命までは届かない。
切り替えそうと踏み込もうとして封じられた、続く連撃で前に進めない。
衝撃で後ろに下げられた。
間合いの外、硬直ーー仕切り直しだ。
侍はキャンセル移動でぐっと後ろに下がった、距離感を掴むことが難しい。
対処は出来る。強引だが、空中攻撃で牽制。
下がった、もう一回ーー追加攻撃で失敗を悟る。
空中での切り返し。
斧での重心から来る最適な間合いを潰して、範囲ギリギリの剣先で一方的な切り付けられ、体勢を崩す。
追撃、最速下段攻撃で強制的に浮かされた。
最後の択、ここを切り抜けなくては負け確定。
攻撃の速さが段違いに向こうが優先される、ならば防御姿勢で後隙を狩る。
目で捉えた攻撃は、突き攻撃ーーこれは隙が大きい、が防御貫通だ。
ガードが崩されて行動不能に陥って、負けが確定した。
盾を持ってたら防げた攻撃だが、そこはスキル構成の穴をつかれたと諦める。
「斧なぁ、トマホークなら厄介だったか」
「……あんた強えなぁ、名前教えてくんね」
「うーーーーーん、雑魚乙ーーーーーー!!」
「ぜってぇ殺すわ、覚悟しとけよ」
《強攻撃》を確定で決められて試合終了。
種族としてのゴリ押しを技術で詰返されたことに、すっきりしつつも人間性は最低だった。
それも鬼武者としては好感度が上がる要因だが、人間性を捨てた狂人の人間性を引き出せたと納得する。
本当に瀬戸際である。ドブカスのような人間性であることは否定しようもなかった。
(刀も良いもんだなぁ。判定はええし、効率は落ちるけど、この先考えたら持ち変えるのもありか)
環境は回る。強力な一撃は浪漫ではあるし、実践的であることは間違い。
それでも敗北の記憶から流派を変えることは、柔軟に適応できる思考の持ち主だという証明でもあった。
まずは歩法か。斧を持つにしても便利だろう。意識することから習得は始まっている。




