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凛アフター  作者: つんやん
1/1

「史上最低な1日だわ」


 凛ちゃんは頭を抱えていた。

 目の前には木・木・木。3つ合わせて森。

 俺は絶望というなの絶壁を見つめていた。


 「あんたに言われたくないわよ!」


 心は読まないでよ。

 ここまでの経緯を説明していきたい。

 恒例行事の一環でお姉さまとハイキングコースを登頂するのである。

 断固拒否した。

 楓お姉さまに土下座もしたさ。


「あなたの安い土下座でもないことにはならないわよ」


「そこをなんとか……」


「無理ね。自家用車で通学している子。寮生活している子たちの体力づくりの一環ですもの」


 確かに、量から5分歩くだけで学院に到着するし、自家用車の子は歩くことはほとんどない。

 しかし!

 学院が山の中腹にある。

 だが、公園であったり住宅などあったりするので田舎だけど、それほど木々が生い茂っているわけではない。

 それも学院までで、そこを越えると山。

 ハイキングコースがあってある程度の舗装がなされているけど、アスファルトではなく土を固めただけの道しかない。

 インドア派の俺は部屋でゆったりと雛の淹れてくれるコーヒーを飲み、小説を片手に優雅な時間を過ごすのが好きなのだ。

 世界は理不尽だ……。

 ここに勇者など存在しない。

 なぜなら雨天中止なのに快晴なのだから!

 頭を抱えた凛ちゃんが目の前に居て、雛はお姉さまと手を繋いで先に行ってしまった。

 あれ? お姉様であるなぎさはというと……

 バカは風邪を引かないというけどあれは迷信だった。

 世紀の大発見! 学会に発表したらノーベル化学賞は間違いない。


「凛ちゃんが悪いんでしょ……」


 まぁ仕方ない。バカでも……。


「遠慮させて頂きます」


「1人で行けますので」


「でしたら、欠席で結構です」


 なぎさの看病のため部屋に来ていた凛ちゃんが出てきたところを中等部教員が引き止めいていたのだ。

 就寝時間も近づいていたため、楓お姉さまと雛と一緒に部屋を出たらばったりと鉢合わせ。

 他のお姉様や教師にまで喧嘩を売ってしまう始末。

 元々、気のキツイ性格は学院内でも有名だったから先生達も手を焼いていた。


「でしたら、私の妹である幸菜を同伴させます」


 たぶん全員が俺を見た。

 そんなことで見ないで。

 というか、なぜ俺なのか?


「結構です。生徒会長のお気に入りを奪ってしまのも迷惑でしょう」


「あぁ、なら中等部の福永教員長に頼むことになるわよ? 構わないのね」


 楓お姉さまの言葉に眉を少し吊り上げたのがわかった。


「その先生と何かあったの?」


 雛に耳打ちすると


「凛ちゃんのお母様のご友人なのです」


「だったら別にいいじゃないの?」


 お母さんのお友達なら世間話もしやすいと思うけど。


「とてもお厳しい先生で、凛ちゃんにを叱るのは福永先生だけなのですよ」


 あぁ、そういうことね。

 だけどなんで俺なんだ……。


「無理にとは言わないわ」


 歳の差というか身長差というか威厳の違いというか……。


「幸菜……明日は優しく指導してあげるわ……」


 だから、心を読まないでよ(泣)


「どうするの? 私の申し出を受けるの? 受けないの?」


 小悪魔的な笑みを浮かべる楓お姉さまだけど、目の前の小悪魔もギッと睨みつけて何も言い返してはこない。

 ここで申し出を受ければ言わずもがな。負けを認めるのと同等なので絶対に縦に振ることはしないだろう。

 俺の腕を掴んで瞳を潤ませる可愛い義妹(いもうと)の雛を見てしまっては男が廃る。

 まぁ今は女装してるから女の子なんだけどね。


「あぁ私……凛ちゃんと一緒にハイキングにイキタイナ」


 ………………

 ………………

 ………………

 沈黙………………長くない?

 これでも、少しは人気者の幸菜ちゃんなのですよ?

 バンドでボーカルも務めて、未来ちゃんの事件も解決して、なぎさのピンチも救ったこの幸菜様なんだけれど。


「凛ちゃんとハイキングにイキタイナ」


 はぁっと凛ちゃんがため息をついて肩を落とす。


「わかりました。立花様とペアを組みます」


 先生の前ではツンデレを発動しない。メモメモっと。

 勝ち誇った楓お姉さまはさぞご満悦なご様子に、雛は少し悲しそうな顔をする。

 握っていた手を離して、前からぎゅっと抱きついてくる義妹。


「えへへ。お姉さま成分を注入なのです」


 俺の雛の成分を注入しておくとする。

 心が癒されていき、明日の事なんてどうでも良くなってくる。

 成せばなる。

 嘘も方便。

 因果応報。

 渡る世間はお嬢様ばっかし……。


「では、明日の予定は幸菜が東条さんとペア・私は雛子とペアで参りますので」


 失礼いたします。

 頭を下げる楓お姉さま。

 振り向き様に俺のおでこにデコピンをかましてくる。


「鼻の下が伸びてるわよ」


 あまり痛くないデコピンに不意をつかれてしまう。

 お姉さまで俺とは出来も違えば生まれた家系も違う。

 背負ってきた重圧も違うからか普段はポーカーフェイスで生徒の模範として凛々しく孤高で完璧なお姉さまだけど、俺の前では可愛くて嫉妬深んだけど強くは言えない奥手な女の子。


「凛ちゃん。明日のお迎えよろしくね」


 俺はそう伝え、雛をお姫様抱っこする。

 抱きついて離れそうになかったし。


「あんたって鈍感なのか鋭いのかわかんないわね」


 呆れたようにいう凛ちゃん。

 特別なことは何もしてないけど?

 本物の幸菜も体調が優れない時はベッドまで運んでいたし。

 下を向けば天使の笑顔。

 前を向けば……あぁ……楓お姉さま……。

 明日は雷かハリケーンが吹きそうだ……。




 

 

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