謙虚なコックさん
ただ真面目に、料理を作る。それが、コックさんの仕事。
材料を切ったり、フライパンで炒めたりと忙しい。注文が入る。十三時二十分。この時間に、この注文をするお客さんはきっと、こういう人だ。そんな、うっすらとした幻に頭をちょっとだけ、触れてコックさんは注文の料理を作っていく。マラソンに近いはず。料理は景色だ。コックさんはそんな想像で、疲れている身体を動かし続けた。
たまに、こんなことを言う人もいる。「そんな幻から逃げて、自由になりたいと思わないの?」
コックさんはその時、これ言うのちょっと恥ずかしいなといった反応になるが言う。
「自由だから、料理を作るんだよ。料理を作ると、その分、何倍も自由になれるのさ。だから、むしろ料理を作らせてくれて、本当に有難いって感謝しているんだよ」
それを聞いた人は、いい贈り物を貰ったような顔になって、笑った。
終
プロだ。