二人の存在理由の推理
二人の存在理由の推理 2021 8 19
霊安室で眠る君を見ていた。
堅い鉄製のベッドに寝かされた君は僕らを取り巻く空気とは裏腹にあたたかく、安らかな表情をしていた。
やっぱり君は綺麗だね。
彼女の頬を指でなぞり、色を失ったくちびるに触れる。
彼女は時々僕に言うんだ「私を殺して」って。何が彼女にそう言わせているのか、何をもって言っているのかは知らない、分からない。
だから僕はいつも彼女を抱きしめた。人の感情は柔いものだと知っているから。すると彼女は決まって「ありがと」と囁いた。
「海に行こう」
あの日、君を殺した日、僕らは海に行った。君の突拍子のない考えに振り回されるのは疲れるけどイヤじゃない。
「海へいこう」
夜の海風はねっとり肌にまとわりつくようで気持ちが悪かった。
周りには何もなく隣にいる彼女だけが確認できる。二人海辺に立っていた。
「ねぇ 私さ時々思うんだ」
彼に問いかける。「私たちって一緒にいないんじゃないかって」
「そうだね」
私は分かっている。私たちが一緒になることはできないんだって。一ミリだって君と違うのなら。
私と一緒になれるのは私自身で、彼と一緒になれるのも彼自身。私が彼自身にはなり得ない。
それでも私は彼を望んでここにいた。そして彼と手を重ねる。
死の了承なんて海に来た時点で完了していた。君の手を強く握り風に向かって歩き出す。
でもね。「僕らは一緒にいることを望んでいる。それに僕は自分とは別に君を必要といている。」だから……
歩く速さは変わらない。僕は彼女に歩みをまかせる。
「しってた」 「そっか」
手が海に浸かって君のぬくもりが感じられなくなっても、海の中で何にも見えなくなっても僕は君を求め続けたい。そう思った。
君はあの暗い海で何を想ったのか。何も見えないあの世界で何を見ようとしたのか。
君は僕の手を放し、僕は生き残った。だから僕は君を殺したということで君を必要とし続ける。君のくちびるに少しの春を見た。