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3 逆ナンと失恋(SIDE:雄樹)

 声を掛けたのは、たまたまだった。

 親の急な転勤で一人暮らしになって1年、すっかり自炊にも慣れたけど、せっかく春休みだし、カレーでも大量に作って楽しようかと買い物に出たら、ナンパの現場にでくわした。

 商店街の交差点でナンパとか、センスないんじゃねえかって言いたい。

 たぶん大学生くらいのチャラい2人組が女の人に声掛けてる。無視されてんのに、ずっと話しかけてるような、イタい風景だった。

 あ~あ、よせばいいのに。

 女の人、どう見ても困ってんじゃん。

 とはいってもなあ。俺が止めに入んのも、なんか違うよな。

 …なんかプルプルしてるな。もしかして怖がってたり? そうすっと、無視すんのも後味悪いよな。

 あ。

 目が合っちまった。なんか気弱そうな感じ?

 しゃあねえなあ。


 「や、おひさ。この人達、誰? 知り合い?」


 知り合いが偶然見付けたみたいな感じで声掛ける。彼氏のフリとか無理だし、交差点で待ち合わせのフリすんのも無理あるし、こんなとこだろ。

 女の人は


 「あ、いいとこに! あの、あたし、この人に用あるから、じゃあね!」


なんて言いながら、こっちに来た。

 すいっと左腕に腕絡められて焦ったけど、成り行き上そうなんのかな。ナンパの2人組は不満そうだったけど俺の方がでかかったせいか、何も言わないでどっかに行った。

 腕を組まれたまましばらく歩いた後、女の人は腕を解いて笑った。


 「ありがとう、助かっちゃった♪ 学生さん?」


 「え? ええ、2年です」


 「そっかぁ。若いねぇ。

  ね、ご飯まだだよね?

  あたし、引っ越してきたばっかで、今日は疲れちゃってご飯作る気ないんだ。一緒に食べてくれない?

  助けてくれたお礼に、お姉さんが奢っちゃうからさ」


 俺の方が背が高いから、垂れ目気味の目が見上げてくる。

 大人なのに、妙に可愛い。


 「あ、でも、助けたったって、声掛けただけで…」


 「他の人は、みんな遠目で見てるだけで、誰も声も掛けてくれなかったもの。キミだけだよ、助けようとしてくれたのは。ね? ご飯付き合って?」


 うわ、なんてキラキラした目なんだ。

 こんな可愛い人に上目遣いでお願いされて断れる奴がいるだろうか、いやいない(反語)。


 「あ…じゃあ…」


 なんか緊張してきた。自慢じゃないが、彼女とかいたことないからな。


 「あたしね、パスタ食べたいなぁ、なんて思ってるんだけど、いいかな? あ、もちろんキミは肉でも魚でも好きなもの頼んでいいからね」


 なんていうか、見た目がホワホワしてる割には結構強引かも。

 お姉さんは、引っ越してきたばかりだっていいう割には迷いもなく店を選んで入っていった。って、俺も引っ張りこまれた。

 てっきりファミレスかなんかだと思ってたのに、なんか普通にレストランって感じのとこ。

 店員に案内されて席に着いたとこで訊いてみた。


 「ここ、調べてたの?」


 「ん~ん、全然」


 「じゃあ、なんでここ?」


 「なんとなく?」


 なんだろう、つかみどころのない人だ。


 「えっと、お姉さんってのも変なんだけど、なんて呼べばいいの?」


 「あぁ、みやこだよ」


 「美弥子さん?」


 「キミは?」


 「雄樹(ゆうき)


 「どんな字?」


 「雄々しいに、樹木の樹」


 「ああ、雄樹くんか」


なんて話してるうちにメニューが運ばれて来た。


 「雄樹くんも好きなの頼んでね。あたしは…ワタリガニのパスタに白、かな。ね、雄樹くんってイケるクチ?」


 美弥子さんは、さっさと自分のを決めて訊いてきた。いや、飲めるわけねぇじゃん。高2だっつったろ。


 「俺、未成年なんだけど」


って言ったら、今気が付いたみたいな顔して


 「あ、そっかぁ! 2年生だもんね。

  ん~、じゃあ、ボトルは飲みきれないかなぁ。グラスで色々飲むのもアリか」


なんて酒選んでた。

 メニュー見ると、一品2000円以上するもんばっかで、ちょっとつまる。さっき会ったばっかの人から、こんなん奢ってもらうのはなあ。


 「結構高いんだけど」


って言ったら、えって顔された。俺、変なこと言ってないよな。


 「あ~…。学生さんだと、そう見えるかぁ。

  あたし、一応社会人だからさ。1人で食べるのも味気ないし、助けてもらったお礼も兼ねてね。

  大丈夫、2人でフルコースとか言うとさすがに覚悟がいるけど、これくらい平気平気♪

  お酒駄目なら、ジュースとかもあるよ。オススメ訊いてみる?」


 気弱そうな見た目の割に、なんか押しが強いな。


 「ナンパされて震えてた人とは思えない…」


 思わず口に出したら、美弥子さんは、


 「震えてないよ。もうちょっとで爆発するとこだったんだよ。

  ケンカ騒ぎとかなって職場にバレるとヤバかったのよ。ホント、雄樹くんが追い払ってくれて助かっちゃった」


 「あのプルプルしてたの、震えてたんじゃなかったんだ」


 「違うよ。イライラしてたの。しつこいナンパって、嫌いなんだよね。あ、今はあたしが雄樹くんナンパしてる図かな、もしかして」


 ナンパって…。そりゃま、結構強引に誘われたけどさ。ナンパから助けたらナンパされた件について。



 なんだかんだで、ウン千円のハーフコースに生ジュースとか注文された。美弥子さんは、ピザとかも頼んで、上機嫌でマシンガントークを続けてた。ワインも何杯も飲んでた。

 多分、俺より5()上くらいだろうに、いつもこんな金の掛かる夕飯食ってんだろうか。


 「美弥子さんって、いっつもこんな金かけてメシ食ってんの?」


 訊いたら、笑われた。


 「まっさかぁ! 今日は特別よ。新しい街で最初の夜だもの。

  だいいち、1人の時はお酒なんかまず飲まないよ。今日はキミに会えた記念!」


 ウザ絡みしてこないだけで、親戚のオヤジ連中みたいだ。酔っ払いってみんなこうなんかな。




 美弥子さんは、20代で、転勤でこの近くに引っ越してきたんだそうだ。

 そんなに詳しいこと聞くつもりもないのに、勝手にベラベラしゃべった挙げ句、「女に年訊いちゃ駄目よぉ♪」とか「住所はねぇ、もっと仲良くなったら教えてあげる」とかごまかす。「別に訊きたくないけど」なんて言ってやったら、「えぇ~、知りたくないのぉ?」なんて言ってる。ほんと、酔っ払いだ。


 「いーからいーから」って先に店を出されて、美弥子さんが金払ってた。そりゃ、奢るって言われたけどさ。この1食で、俺の生活費の何日分だ?

 店を出てきた美弥子さんは、


 「わ~い、待っててくれたのね~」


なんて言って腕を組んできた。そりゃ待つだろ。奢ってもらっていつの間にか消えるとか、どんな悪党だよ。


 「ちょっと買い物してこ~」


とか言って、ぐんぐん引っ張られる。ちょっと、俺、女の人と腕組んで歩いたことなんてないんだけど。

 途中のコンビニ寄って、酒やら買って。俺は帰ろうとしたんだけど、店の前で待たされた。

 「え~、待っててくんないのぉ?」とか、だから上目遣いは反則だって。

 で、当たり前のように俺んちに上がり込んで酒飲んで。ポテチとかめっちゃ買ってたの、俺んちで食う気だったのかよ。

 ご丁寧に俺の分のコーラとか買ってっし。

 うっかり1人暮らしだって言っちまったのが悔やまれる。

 そのうち、


 「ね、雄樹くん、彼女いる? いないよね?」


なんて訊いてきた。顔近いって。なんで俺の袖つまみながら言うんだよ。だから、その目で見んなって。


 「いない…けど…」


 「あたしも…。ね…」


 だから近い! 近いってば!


 「美…!」


 ちょっ…今、キス…


 「雄樹くん…」


 その後、抱きつかれてやたらキスされて。あんな可愛い目して迫られたら、こばめるわけもなくて。

 気が付いたら、昼になってて、美弥子さんはいなくなってた。

 テーブルの上に、口が開いた箱と、ゴミ箱ん中に使用済みのやつがあった。本物見たのは初めてだけど。

 結局、名前しか聞けなかった。遊ばれたってことなんかな。俺、キスも初めてだったんだけどなあ。いいんかな、こんなんで。

 流されたとはいえ、ちょっといいかななんて思ったんだけどな。

 こういうの、めんどくさくなくてラッキーって思う奴もいるんだろうけどな。俺は、やっぱこういうのは、好きになった奴としたい。会ったばっかで、好きかどうかもわかんないけど、このまま会ったりしてたら、ちゃんと付き合えたかもしれないのに。

 なんで連絡先とか訊かなかったんだよ、俺。この辺に引っ越してきたったって、範囲広すぎだろ。

 せっかく彼女ができるかもとか思ったのに、どうやら始まる前に失恋したらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雄樹くん視点、戸惑いのある初々しい感じが良いですね!! 人柄も誠実そうで真面目な子だし、大人世界に生きてるみやこさんには逆にそのスレてない所が魅力的だったんでしょうね。 クラス担任とか、も…
[良い点] >いやいない(反語) いやんもう、完全に襲われてるやつ(笑)
[良い点] そうか、学生。 狭義には、高校生も含むと思っていましたが違うんですよね。 広義には含んでいるですけど。 大学生とか専門学校や院生などの、高校以上ですよね。 意味の違いによる、すれ違い。いい…
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