2 後悔
思い出した。
…あっちゃあ…。
あたし、思いっきり自分から求めてんじゃないのよ。なんで、起きた時にそれ忘れてるかなぁ。
夕べの…えっと、そう、雄樹くん! なんか、一緒にいて楽っていうか、傍にいてほしいって感じだったなぁ。
うん、お店出る頃には、なんかもっと一緒にいたいって思ってて。コンビニでチューハイと一緒にアレ買って。…自分でアレ買ったのって、初めてじゃない? 前は、元カレが用意してたもんね。
で、雄樹くんちに行きたいってねだって…。
うわ、あたしから誘ってんじゃん。雄樹くん、初めてだって…。生で見るの初めてって、つまりはそういうことだよね。
なんか、がむしゃらで、一所懸命って感じで、すっごく幸せだった。
なんで目が覚めた時に忘れて、っていうか逃げてきちゃったのよ…。
そのまま部屋にいたら、ちゃんとお付き合いできたかもしれなかったのに。
朝起きていなくなってたんじゃ、遊びだったみたいじゃない。絶対軽蔑されたよぉ。
どうしよう、今からもう一度顔出して、一緒に朝ご飯食べよう、とか言ってみる?
…ダメよ。どの面下げて戻るのよ。…でもでも、雄樹くんみたいな人、いないよ。
勢いだけじゃない、ちゃんと好きになって抱かれたんだもん。…だから、なんで逃げた、あたし!
落ち着こう。
雄樹くんは、大学2年で19歳。今年20歳。
あたしは、高校教師で、今年26。
6歳差かぁ。
雄樹くんが卒業する頃、あたしは28。ちゃんと付き合っていける?
さすがに、3年くらいは転勤ないと思うし、遠恋にはならないと思うけど。
…ご飯、食べなきゃ。
とにかく、材料買ってきて、雄樹くんち行こう。で、一緒に朝ご飯食べよう。
味噌汁作る鍋と、フライパン出せば目玉焼きくらいは作れる。
そろそろスーパー開くし、ちゃちゃっと買ってこよう。豆腐と卵くらいでいいか。
ご飯はスイッチ入れた。味噌汁も作った。あとは、フライパン持って雄樹くんちで作ろう。この部屋、まだ人呼べる状態じゃないし。
ピンポーン、ピンポーン
いない…かな? 10時、出掛けちゃってもおかしくない時間だもんね。すぐ来てたら、まだいてくれたのかな。
しょうがない。今日のところは、1人で食べて、部屋の片付けしようか。明日からは仕事あるし。
高校は、春休み中だけど、教師は新学期の準備とか色々ある。
おまけに、初めてクラスを持つことになった。
2年3組。国立理系のクラスだ。あたしは歴史だから、授業は文系理系問わないんだよね。
初めての担任とかって緊張感のお陰で、雄樹くんのことを忘れていられるのは、正直ありがたい。1人になると、自己嫌悪で頭かきむしりたくなるからね。
あたしは、基本、仕事モードとプライベートモードをきっちり分けることにしている。
なにせ、あたしからは知らない生徒でも、生徒の側は知っている。その両親だって、あたしの顔を知っている人は多いだろう。
言ってみれば、全校生徒+家族で、千人以上があたしを監視しているようなものだ。
あたしが仕事帰りに惣菜でも買おうものなら、「京先生、自炊はしないのかしら?」なんて噂になりかねない。
だから、仕事とプライベートはきっちり分ける。
仕事ではひっつめ髪と伊達眼鏡でアラサーっぽくヤボったくして、かっちりしたパンツスーツ。目元も化粧できつめに見せる。
プライベートでは、ふんわりとウェーブをかけて垂れ目を強調してゆるふわに。
化粧の仕方から変えてるから、家に帰ってすぐプライベートモードには切り替えられない。
いきおい、買い物は週末にまとめて、ということになる。
次の週末には、雄樹くんち訪ねてみようかな。
そんなことを考えているうちに新学期が始まった。
そして。
始業式で転入の挨拶をして、受け持ちのクラスの出席を取っている時。
雄樹くんを、見付けた。
うそ、雄樹くんが、あたしの生徒…!? え、だって、大学生って…。