12 おうちデート
もうじき7時半。
ご飯は炊けたし、味噌汁もできた。サラダも。
ハンバーグは、タネを作って冷蔵庫に入れてある。
結局、タマネギのみじん切りを少し入れるだけにした。パテの中央に氷を入れるとふっくら焼き上がるらしいけど、それだとあらかじめ準備するのは難しいから。
あと、ノンアルコールの赤ワインも用意した。
さすがに高校生にお酒勧めるわけにはいかないし、とはいえジュースじゃ甘ったるいし。この赤ワインは、一旦ワインとして作った後でアルコールを除去しているんだって。どういうやり方したらそんなことができるのかわからないけど、実際、味はワインそのものだし、アルコール分は0.01%以下。科学ってすごい。
これがノンアルコールのビールだと、ビールの味じゃないものね。
なんかドキドキしてきた。
ちゃんと掃除したし、大丈夫だよね。学校関係のものは目に付くところにないよね?
ピンポーン
来た! ここのマンションは、安いだけにセキュリティはそんなに厳しくなくて、エントランスにインターホンとかはない。普通に部屋の前まで来て、ドア脇のインターホンを押す仕組みだ。インターホンを押すと、部屋のモニターに相手の顔が写るようになっていて、応対ボタンを押すことで外に声が届く。
「は~~い」
「えっと、美弥子さん?」
「うん、今開けるね!」
恐る恐るって感じで名乗った──ああ、名乗ってなかった──雄樹くんを迎え入れる。
「いらっしゃい。疲れたでしょう?」
同じ建物なのに、Tシャツの上に綿のシャツを羽織ってデニムのパンツって、ちょっとしたデートにでも行くみたいな──うん、デート、かも。おうちデートだよね。気合い、入れてきてくれたんだね。
あれ? 雄樹くん、様子が変?
「どうかした? ほら、入って入って」
促したら、なんか再起動したみたい。再起動なんて、ロボットか何かみたいだけど、本当にロボットがフリーズしたみたいだったんだもの。
「えっと、お邪魔します?」
「なんで疑問形?」
「や、なんか、もしかしていないんじゃないかとか、不安だったから」
「呼んどいていないとか、ないでしょ~」
変な雄樹くん。
「あ、いや、そだよな。俺達、付き合ってんだもんな」
「そうだよぉ♪」
笑いながら、リビングに案内する。といっても、レイアウト全く同じなんだから、案内なんて必要ないんだけどね。
「ホントに同じなんだな」
雄樹くんも同じこと思ったみたい。
「そうだよぉ。同じ部屋番号だからね。
もっとも、6階より上は家族用で、広さも間取りも違うみたいだけど」
「そうなの?」
「あたしも見たわけじゃないから、不動産屋から聞いただけなんだけどね」
脇を通り抜けた雄樹くんからは、シャンプーの匂いがした。
冷たい麦茶を出して、さて、焼きますか!
「じゃあ、ハンバーグ焼くから、ちょっと待っててね」
雄樹くんの分はちょっと大きめにしてある。2個ずつなら、フライパンで一度に焼けるし。
ソースは、フライパンに残った油にケチャップととんかつソースを入れて作る。ウスターソース使ってバターや砂糖を入れるレシピもあるけど、バター入れるとくどくなるから、それはしなかった。砂糖の代わりにとんかつソースにして甘さを加える。
焼き始める前に、味噌汁も温め始める。
冷やしておいたサラダをテーブルに出して。
ハンバーグを裏返したタイミングで、温まった味噌汁をよそって、ご飯もよそって。
フライパンの隅にニンジンをちょっと転がして温める。
コーンを載せたお皿にニンジンを載せ、焼き上がったハンバーグを移し、ソースを作って掛ける。
「は~い、お待たせ~。
メニュー、ちょっとさみしくてゴメンね」
お皿を雄樹くんの前とあたしの前に置いて、いただきますする。
自分のハンバーグを少し割ってみる。うん、透明な肉汁が垂れてくる。ちゃんと火は通ってるね。雄樹くんのも、面積は大きくしてあるけど厚みは同じにつくってあるから、大丈夫なはず。まぁ、縮むからどうしても少し厚くはなってるけどさ。
一口食べてみる。うん、上出来。これよこれ、この肉汁。
あたし的には、これ以上ないくらいの成功。
雄樹くんに目を向けると、ちょうどハンバーグを口に放り込んだところだった。
ハンバーグの削れ方を見ると、一口目じゃなさそう。ご飯も相当量減ってる。これは、気に入ってくれたと思っていいかな。
「どう?」
それでも少し不安だから、訊いてみる。
雄樹くんはピタリと止まって
「あ、ごめん、つい夢中で。
すっげえうまい。この前の生姜焼きもうまかったけど、美弥子さん、料理上手いんだな」
と褒めてくれた。よかった~。
「よかったぁ。男の子だし、ハンバーグなら好きかな、なんて思ったんだよね」
「なんだろ、うちの親が作るのよりうまいよ」
「ん~、もしかしたら、つなぎ入れてないからかも」
「つなぎ?」
「一般的には、パン粉とか牛乳とか入れるのよ。これは、肉とタマネギだけだから」
「うちのもタマネギ入ってたけど、なんか違う」
「それは、多分、生のまま入れてるからだと思う。普通は炒めたタマネギを冷まして入れるの」
「へえ、そうなんだ。色々あるんだな」
「好みの部分が大きいと思うよ。
肉100%が好きって人もいるけど、あれは固くなりやすくてねぇ」
なんか、あれこれしゃべりながら食べた。ご飯の方は、2合が空になった。やっぱり育ち盛りだねぇ。もっと炊けばよかったかな。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。よかった。美味しそうに食べてくれて」
やっぱり緊張するからね。口に合うかどうか。
「ホント、美弥子さんって料理上手だな」
「ありがと。一応、大学時代から一人暮らししてるからね。その割には、あんまりレパートリーないんだけど」
基本、テキトーだからね。牛肉とタマネギ炒めて胡椒と醤油で味付けとか。
「肉じゃがとかで胃袋掴むのがいいのかなとか思ったりもしたんだけどね、ああいうお袋の味系って、家によってだいぶ味付け違うから」
「そうなの?」
「うん、豚肉か牛肉か、から始まるからね。
ちなみに、トマト系の味付けもあるよ」
「トマト!? それって肉じゃがなのか!?」
あ~、驚いてるねぇ。わかるわかる。
「じゃあさ、肉じゃがの定義ってなぁに?」
「え? うーん…」
腕組みして首傾げて。もう、かわいいなぁ。
「あんまりはっきりした定義がないんだよ。
最低限、肉とジャガイモは必要だろうけどね。
だから、今日は避けたの。
煮物は、家庭の味の影響が強いから、すりあわせながら作ろうね。まだまだ先は長いからさ」
「すりあわせってなに?」
「意見の妥協点を探す作業、かな。
うちはこういう味付けだった、とかそういう話をしながら作ろうってこと。
来週も来てくれるでしょ? 何かリクエストある?」
「え~っと…」
なんて話をして、今日のおうちデートは終わった。




