11 何を作ったらいいだろう
う~ん、何作ろう…。
この1週間、手が空くとそんなことばかり考えてた。
手料理なんて言うと“おふくろの味”系の煮物とかってイメージだけど、案外地雷だったりするんだよね。
煮物の類は、地方により家庭により出汁から違うから。
おいなりさんとか、関東と関西で全く違うなんてのは有名だし、お雑煮も地方ごとに違うっていうし。
各家庭レベルでの違いも結構あぶないのよね。
玉子焼きなんて、地味に地雷なんだから。
甘めが好き、しょっぱめが好き、味付けも砂糖だったり味醂だったりで千差万別。
それこそ、玉子焼きなんて、幼稚園や小学校時代のお弁当に入ってる定番だから、思い出と味が直結してる。
お母さんの思い出の味に打ち勝つには、ある程度一緒に過ごしてすり合わせていく必要がある。
今すぐ結婚する気かってセルフツッコミ入れたくなるけど、付き合い始めだからこそ、そこは気を付けないと。
思い出したくもないけど、前カレと最初にケンカしたのは、玉子焼きの甘さが足りないって話だったもの。
どっか行く時にお弁当作る話になって、焦げちゃうくらい砂糖たっぷりの玉子焼きをリクエストされて…あたしは、ところどころ真っ黒な玉子焼きは許せなかった。
今にして思えば、そういう小さなすれ違いを重ねて別れちゃったんだよね。
あんな奴に未練なんかこれっぽっちもないけど、雄樹くんとそんなすれ違いはゴメンだ。
好みが分かれやすいメニューは避けて、でも胃袋掴めるようなもの…。自分で言っててキツいけど、なにがいいかなぁ。
若いし、ガッツリした系のものなら、多分間違いないと思うんだ。この前のレストランでも、普通に食べてたし。
ステーキ…だと芸がないし、ハンバーグ? でも、ハンバーグも結構家庭によって違うんだよね。
冷凍食品とかばっかり食べてるんなら、どんな作り方でもとりあえず問題はないだろうけど、家庭で作るようだと、つなぎとか色々だし。
いっそ肉100%で作ろうか。でも、あれ、固くなりやすいんだよなぁ。やたらしまっちゃうから。
あたしとしては、つなぎ入れない方が好きなんだけど。うちの実家の作り方でいこうかなぁ。
タマネギのみじん切りだけ入れるんだけど、父さんはあの食感が好きだって言ってたっけ。でも、父さんと雄樹くんじゃ、好み違うだろうしなぁ。
あ~、雄樹くん、きっと牛乳飲む人だよね。運動部だし。そうすると、牛乳とパン粉、入れた方がいいかなぁ。あたし、牛乳嫌いなんだけど。中学卒業してから、牛乳飲んだことないもんね。料理とかに使うなら別だけど。
ま、いいや。考えてるだけだと、一向に進まないし。もう当日だもんね。
メインはハンバーグ。ソースは、ケチャップとソースで作るいつものやつでいいかな。あたしのハンバーグ、市販のデミグラスソース合わないのよね。
ハンバーグの付け合わせだと、コーンとニンジン? マッシュポテトを添えるパターンもあったかな。サイドはどうしよ? この前はポテトサラダだったから、同じのはダメだよね。
オーソドックスにコールスローと市販のドレッシングでいいかな。
あと、お味噌汁。この前はわかめと豆腐だったから、今日はキャベツかもやしとうすあげで。うすあげは、油抜きした方が無難だね。コールスローでキャベツ使うから、その一部を味噌汁に入れようか。生とは食感変わるし。
よし、方針が決まったし、買い物に行こう! ついでに、あたしの1週間分の食材も買っておかないと。
普段だと、主に土日に1週間分の食事の作り置きをするんだけど、今日は雄樹くんのためだけに使いたい。決して献立考えてたら時間がなくなったわけじゃない。それは雄樹くんのために使った時間だ!
自分でもよくわかる。あたしは今、めちゃめちゃ浮かれてる。4年ぶりの恋に。自分の生徒に。
でも、同時に、あたしが担任の京香苗だってことを隠し通さなきゃいけないことも重々わかってる。それが枷になって、ハイになってるんだろうね。
あたしは、恋に人生を懸けられない。仕事を失うことを恐れてる。でも、だからといって、この恋が偽物ってわけでもない。
あたしが求めるのは、自立した1人の女として雄樹くんと共に歩む人生。
結婚し、子供を産んでという過程で教師を辞めることになるならそれでもいいけど、火遊び扱いされて仕事を失うのはごめんだってだけ。
今だけよ。来年、雄樹くんの担任でなくなれば、雄樹くんが18歳になれば、再来年雄樹くんが卒業すれば。
そのたびにステージが変わる。少しずつ、2人のあり方も変わる。そうやって、一歩ずつ進んでいけばいい。
あたしは、雄樹くんの傍にいたい。




