10 再会と告白(SIDE:雄樹)
毎日部活で、それなりに疲れて帰ってくる。
正直、スーパーに買い物に行くのも面倒だ。
美弥子さんを探すどころじゃない。いや、スーパーでキョロキョロするくらいはしてるけど。
レギュラーには入れなかったけど、ベンチ入りはできたからそれなりに責任があるし、ここでいいとこ見せられなきゃ、次はユニフォームもらえなくなるんだから、頑張んねえと。
そんなわけで、帰ってくる頃には、階段昇んのも億劫になってる。
たかが2階だけど、ちょっとズルしてエレベーター使ってる。冷蔵庫の中身次第じゃ、もう一回出ることになるしな。
帰りにどっかで食って帰ってくるって手もあるけど、それじゃ金が掛かるし、練習で汗臭くなってるしな。
重い足を動かしてたら、俺の部屋の前に誰か立ってるのが見えた。
誰か…ってか、美弥子さんじゃねえか!?
「あ…お、おかえり…なさい…」
「え…美弥子さん…」
「あの…久しぶり。この前は、いなくなっちゃってごめんなさい。
その…あなたに会いたくて、待ってたの」
「なんで…ここに…」
向こうから来てくれた!
両手になんか荷物持ってるけど、もしかして何か持ってきてくれたんかな。
晩メシ作ってくれるって、マジかよ。すげえ、カノジョっぽい!
なんか米とかといであるの持ってきてたり、すっげえ用意がいい。
先にシャワーって、これはあれか? 「お背中流します」とかって、後で来てくれんのか?
なんか、巽先輩のカノジョがんなことしたって言ってたよな。
しばらく待ってたけど、来ない。じっと待ってると寒いし、シャワー浴びながら待ってようかな。
…来ない。
「お~い、雄樹く~ん、シャワー終わったら焼き始めるよ~」
「お、おう、今、出るから!」
えええ!? ホントにメシ作ってただけかよ!
「この前はごめんね。あたし、起きた時、ちょっと混乱しちゃって、外出ちゃったの。
冷静になって戻って来たんだけど、雄樹くん出掛けちゃってたみたいで」
「あ~、俺、昼過ぎまで寝てたんだ」
とりあえず俺は遊ばれたわけじゃないらしい。
いや、これも含めてからかってるだけって可能性もあるから、まだ安心はできねえけど。
でも、やっぱそんなことする人には見えねえよな。
「高校生はね、生徒って言うの。学生ってほんとは大学生だけを指すのよ。まぁ、高校生だとそんなこと意識しないもんねぇ。
高2ってことは、まだ16だよね。
あたし、25なんだけど…」
え、高校生って学生って言わねえの?
「22くらいだと思ってた」
「大学出たらもう22だよぉ。あたし、社会人だって言ったじゃん。…あの、9歳上の女って、雄樹くん的にどう?」
そっか、美弥子さん、大卒で25なのか。そんなに年上には見えねえな。
「あたしね、雄樹くんが好きよ。
この3週間、ずっと忘れられなかったの。
不安だったの。こんなおばさん、相手にされなかったらって。
よかった。あたしと、付き合って、ください」
「美弥子さんは、おばさんなんかじゃないからな。
俺、来月には17になるから、そしたら8歳しか違わない」
年の差とか、関係ねえよ。
俺のカノジョになって」
「うん。大好き」
やった! 美弥子さん、俺のこと好きだって!
抱きしめたら、すっげえいい匂いがした。
連絡先も教えてくれた。
パインは使い方よくわかんないらしい。画面を見たら、スーパーだのガソリンスタンドだのばっかで、友達は1人もいなかった。
そっか、俺、特別なんだ。俺のカノジョなんだ!
「いい旦那さんになれそうだね」
旦那さんって…! えっと、俺とって思っていいんだよな?
美弥子さん、ちゃんと本気なんだよな?
じゃあ、どこに住んでっかも教えてくれるよな。
「どこに住んでるか、聞いてもいい?」
「実はね、そこ、なんだ」
天井を指さした。
なんだよ、それ。からかってんのか? それとも…教えたくないってことかよ。
「美弥子さん、ここの天井裏に住んでるとか言わないよね」
「あたしをなんだと思ってんのよ。ここの真上、306に住んでんのよ」
「え、マジで!?」
「うん、マジ。
あたしがこの前焦ったのも、その辺絡んでてさ。自分の部屋と構造同じなのに、明らかに自分の部屋じゃないんだもの」
あ、だから混乱したって話になんのか。じゃあ、ホントに上の部屋に住んでんのか。
「ねえ、今度、俺、遊びに行ってもいい?」
「当たり前じゃない。彼氏でしょ? 今度は、あたしん家でご飯食べよっか」
「いいの?」
「もちろん。やっぱ、よそのキッチンは勝手が違うからね。自分とこなら、どこに何置いてるか、何があって何がないかわかるから、やりやすいの」
よかった。行ってもいいんだ。
「あ~、そうかもな」
「いつがいいかなぁ。平日は、あたしも結構残業あるから」
「仕事って何やってんの?」
「一応、公務員だよ」
「市役所とか?」
「似たようなもん」
「公務員って残業とかあるんだ?」
「そりゃあるよ。残業はなるべくするな、なんて言われるけど、終わらなきゃ残らざるを得ないことも多いよ」
公務員も残業ってあるのか。
たしかに、市役所も県庁も、夜になっても窓明るい部屋いっぱいあるもんなあ。
「当たり前じゃない。彼氏でしょ?」
ホントに行ってもいいのか、念を押したら、何言ってんのって感じで返ってきた言葉。なんか、やっと安心できた気がする。
俺って、疑り深いのかもな。




