人権武器【斧】
斧。
言わずと知れた最強武器である。
武器に魔力を込める関係上、刃先は持ち手から近い方が強い、というのがこの世界の常識かつ事実。
その条件を満たした上で、モンスターの分厚い皮膚を貫くため"叩き切る"という動作が行える斧が近接戦闘における装備のスタンダードである。人権武器と言ってもいい。
「斧がずいぶんと刃溢れしてしまいましたね……倉庫に新しいのを取りにいきますか」
ペチカは斧をゴミ箱に捨てて、旅団【ポテトティー】の倉庫に足を踏み入れた。
倉庫の中には斧、斧、斧。斧が積み重なってできた山が倉庫を丸々埋め尽くしている。
この斧の山、いったいどこから出てきたのであろうか。その答えは、一年ほど前にさかのぼる。
「斧の買い占め、ですか? どうしてです?」
まだ純粋な頃のペチカが質問した。旅団員たちが提案したことの意図に、当事新米冒険者だったペチカは気づけなかったのだ。
「説明するんぬ。近接戦闘には斧が最強。ペチカもそれは知っているんぬ?」
「はい、先輩たちに薦められましたから」
「なら話は早いんぬ。今、冒険者が増えたことで武器の需要はかつてないほど高まっているんぬ。ということは、斧は仕入れた分だけ売れる、そんな状況なんぬ」
副団長が猫の手を器用に使い黒板に図を描きながら説明している。肉球だ、肉球でチョークを持っているんだ。
「そこで我々【ポテトティー】は市場の斧を買い占めるんぬ。するとどうぬ? これから初めて冒険者となるのに人権武器が売り切れという状況が多発するんぬ。そこで我々が出ていって斧を高値で売り付けるんぬ」
ぬーぬっぬ!と副団長が悪い顔で笑う。他の団員も揃って悪い顔で笑っている。どいつもこいつも腐ってやがる!
「よーし行くんぬお前たち! 国中の斧を買い占めるんぬー!」
「うおおおー!!!!」
その結果がこの斧の山である。
首尾よく斧を買い占めることには成功した。そこまではよかった。
だが大手武器メーカーのボッタクリン商会はこれを受け、直ちに斧を量産。
【ポテトティー】は更なる買い占めを行うも、所詮一旅団では大手の力には及ばず、ただ在庫の山を重ねるだけという結果に終わった。
「これを売り払えば、復讐の資金にはなるでしょうか……でもこれだけの数、よっぽどの安売りか強力なエンチャントをしない限りは売れないでしょうし……」
何か役立てる方法はないか、とペチカは頭を悩ませるが、一向にアイデアは浮かばない。
「おや……ペチカさんじゃあ、ないですか……」
「あ、団長。こんにちはです」
袋いっぱいの餡子菓子を運びながら近くを通りがかった団長に、ペチカはぺこりと頭を下げる。
このまま一人で悩んでいてもしょうがないと思い、ちょうどいいからと団長に意見を求めることにした。
「団長、この大量の斧、売るとしたらどうすればいいですかね? 市販品だからそのままじゃ売れませんし……」
「そう、ですね……とりあえず、おひとつどうぞ……」
「あ。ありがとうございます」
ペチカは餡子菓子を受け取り、薦められるままに頬張った。
「で、斧ですか……いっそのこと、バッドステータスでも付けたら……いいんじゃ、ないでしょうか……ネタ装備、みたいな……」
「バッドステータス……。……! そうですね! それもいいかもしれません! ありがとうございました団長!」
団長の言葉を受けて、ペチカは何かをひらめいて立ち上がり、大量の斧を抱えて自室へ戻っていった。
「安いよ安いよ! エンチャント付きの装備が大安売り! これは買わないと損だよー!」
翌日。ペチカはスタッカート王国の広場にて、小さな露店を開いていた。置かれた立て看板には"ワケあり品の大放出!"とある。
商品はもちろん斧。倉庫にあった斧の一部を加工して、こうして販売しようというわけだ。
「へぇ、斧の安売りかい。ずいぶんと安いが……訳ありっていうのはどういうことだい」
「よくぞ聞いてくれました! お客さん、エンチャントって知ってますか?」
「ああ、高レベルの魔法使いが道具に能力を付与して強化するあれだろ?」
「その通りです。でもエンチャントっていうのはですね、必ずしもいい能力が付くものじゃない。いくつも能力を付けていると必ず悪い能力が付いてしまいます。そこで」
ペチカは大量の斧を広げて、説明を続ける。
「このように大量に同じものを用意して、その中で一番いいものを使うようにするんです。トップクラスの冒険者ほど、基準は厳しくなります。そして、これらはその余りというわけです」
「なるほどねえ、余りものかあ……」
「余りと言っても厳しい審査に漏れただけ。普段使いなら間違いなく有用と言っていい逸品です。どうです、おひとつ?」
気づけば、そこそこの人数が集まって来ている。表情からして印象も良さそうだ。これなら、一人が買った瞬間飛ぶように売れる。
「よう、誰も買わないんなら俺が買わせてもらうぜ」
「あっありがとうございま――」
名乗りをあげた客の顔を見た瞬間、ペチカの顔が凍りつく。それは見知った有名人の顔だ。
「全部、買わせてもらうぜ。いいだろう?」
旅団【天梅屋】のメンバー。こういった露店などから安く買い取り、別口でより高い値段で売り付ける。いわゆる転売を生業にしている連中である。
「……お引き取り下さい」
ペチカは拒絶した。【天梅屋】に一度目を付けられたら最後、骨までしゃぶられることで有名だ。そうして初心者救済を掲げた善良な露店商がいくつも潰されたのだ。
「おっと、いいのかい? 俺たちを敵に回して。やろうと思えば営業妨害なんて、合法的な手段でいくらでも出来るんだぜ? お前だけじゃなく、【ポテトティー】全員相手くらいなら簡単だ」
「……ちっ。好きなだけ持っていっていいですよ……」
「へへ。毎度あり……」
結局ペチカは折れて、全ての斧を買っていかれてしまった。
「くそっ、あれを作るのは大変だったのに……これでまたスタッカート王国への復讐は失敗です……」
後日。【天梅屋】旅団ショップ前。
ペチカは、旅団仲間の青髪エルフ、ルーイと友にここに来ていた。
「ねえペチカ、面白いものが見られるって本当?」
「はい。復讐を邪魔されたんです。せめてあいつらが酷い目にあうところを見ないといけません」
そして数分後、旅団ショップが開店し、人が集まりだす。
「今日の目玉商品は、エンチャント付きの斧だよ! 買った買ったー!」
客たちが次々と斧を手にしていく。そして。
「うぐるるるあーっ!!!」
「うりいいいいーっ!!!」
客たちは暴徒と化して、旅団ショップを襲いだした。
「うわ、何あれ?」
「あの斧には全て【狂化】の能力をエンチャントしてあるんです。本来ならスタッカート王国民どもに大暴れしてもらう予定だったんですけど」
「結果がこれかあ……」
その日、【天梅屋】の旅団ショップは壊滅したという。
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