追放された姫、冒険者になる
「どうして、こんなことに……」
ペチカは炎に包まれる王宮を思い出して、涙を流していた。
ペチカ……本名ペチコート・スタッカートはスタッカート王国のお姫様である。ついさっきまでは。
巨大災害や疫病の発生、世界的な大不況。
それらに直面したスタッカート王は奮闘し、よく被害を抑えてはいたが、その裏で王の地位を狙う勢力が国民を扇動。
ついにはクーデターが発生し、ペチカたち王家は国を追われることとなった。
しかも運の悪いことに、逃げる途中で追手を撒くために家族と別れることになり、その後合流できないまま異国で一人ぼっちになってしまったのである。
「お父様、お母様、そしてお兄様も無事でいますように……」
ペチカは祈りを捧げ、涙を拭い顔をあげる。
「このままくよくよしていてもしょうがありません! まずは、これからどうするか決めないといけませんね!」
えいやっ、と無理矢理お腹に力を込めて、ペチカは歩きだした。
王宮から逃げ出す際にある程度のお金は持ってきたものの、これだけでは心もとない。
となれば、やはりどうにかしてお金を稼ぐ必要があった。
「お仕事を探すとなると……やっぱり、冒険者ギルドでしょうか」
きょろきょろと物珍しそうに辺りを眺めながら、ペチカは街を歩いていた。
全くの世間知らずというわけではないが、異国の街というのはペチカにとって過去に数える程しか訪れたことのない物である。
とはいえ、いつまでも街を物色していても仕方がない。ペチカはなるべく優しそうな顔をした青年に声をかけてみることにした。
「あの、すいません。私、冒険者ギルドに行きたいのですが、どちらにあるのか知っていますか?」
「おや、お嬢ちゃんも冒険者ギルドに用があるのかい? 君みたいな若い子が……お互い大変だねえ」
話を聞けば、青年も冒険者ギルドに用があるとのことだった。それどころか、この道を歩いている者の殆どが冒険者ギルドに向かっているのだとか。
ペチカは青年に着いていき、冒険者ギルドにたどり着いた。
「これは……ずいぶんと人が多いですね……」
入ったとたんペチカは顔をしかめた。冒険者ギルドの中は人、人、人。順番待ちの人々でごった返していたのだ。
「最近は不況だからね……仕方がないよ」
冒険者ギルド。
それは職業案内所である。
冒険者。
それは無職……フリーターである。
歴史的大不況の今、リストラ社員やあぶれた新卒などで冒険者ギルドは大忙しなのであった。
ここは悲しみを背負った人間たちの集まる場所なのである。
「ふぅ……ようやく順番がきました……」
行列に並ぶこと二時間。ようやくペチカは受付にたどり着いた。
正直もう疲れたし十分頑張ったから帰っていいんじゃないかという気分になっていたが、本番はこれからなのである。
「それではお名前をどうぞ」
「ペチコー……ペチカです」
流石に追われる身で本名はまずい、とペチカは愛称を名乗った。
「資格などはありますか?」
「ありません」
「それでは特技などは……」
「強いて言えばペットの世話でしょうか」
「自己PRなどは……」
「味だけでジュースの銘柄を当てられます」
受付の目がどんどん雲っていった。元お姫様のペチカには、こういう場で何を求められているのかわからないのだ。
「えーと……一応、ステータス検査もしておきますか?」
「あ、私それやったことなかったんですよ。お願いします」
ステータス検査。
ゲームのようにパッとレベルや魔力などが可視化されるわけではない。
握力計っぽいものとそれの魔力版を使った簡易検査である。
「ではいきますね」
本来なら片方ずつやるものをペチカは両方一度にやろうとしているが受付は止めようともしない。どうせ大したことないと高をくくっているからである。
「えいっ」
そして、機械は両方とも爆散した。
「えっ、えっ、えっ!? なんでですか!?」
困惑するペチカだが、周囲の困惑はペチカのそれとは違っていた。
「おい、見ろよ……あの子、二つ同時に破壊したぜ!?」
「あんな子供がフィジカル、魔力共にAランク級だっていうのか!?」
オーバーフローによる破壊。機械で測れる限界を大きく越えている時に起こる現象である。それはつまり、"規格外"の証。
「そんな馬鹿な、機械の故障です!」
ペチカはもう一セット機械を渡され、また二つとも破壊した。
「す、すいません。壊してしまって……」
一人涙目になっているペチカを他所に、周りは大型新人の誕生にざわついていた。
その後、ギルドの持つ大型測定器を用いて本格的な検査を行った結果、ペチカのステータスはこうなった。
レベル 9000
POW 6809
DEF 6672
MAT 6642
MDF 7027
SPD 6361
「うわああああ!!!! 勇者さまに匹敵するステータスだああああ!!!!」
ステータスを見たギルドの偉い人が腰を抜かした。だがそれも無理はない。
トップアスリートの平均ステータスが二千前後であることを考えると、まさに化物級のステータスであった。
ペチカは王族である。政略結婚により王族には伝説の勇者や賢者の血が流れている。そして王族には一流の教育が施される。
結果、知らず知らずの間に超人が誕生していたのである。
「ペチカくん、是非とも君にはその力を世のために活かして貰いたい。……このギルドの元でね!」
「は、……はい?」
そして、それからペチカは押しの強いギルドの偉い人に流されてギルド直属となり、各国の大物ですら手を焼く大事件に派遣されるS級冒険者の称号を手にすることになった。
そして、一年の時が流れた――。
ある日、新たな王が治めるペチコート王国を強大なモンスターが襲った。
モンスターは建物を押し潰し、人々を炎で焼き尽くしていく。
それを、一人の少女が眺めていた。この国の元王女、ペチカである。
モンスターを前に、ペチカは口を開く。
「いいですよペン太郎!そのまま愚民どもを皆殺しにしてください!」
他の連載もありますが急に書きたくなって始めました。
不定期更新です。それでもよければブクマと評価お願いします。