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バケモノ aim for the KOUSHIEN!  作者: 日上東
壱 鬼、グランドで吼える
6/27

 オレは部活の帰り道、すっかり意気消沈していた。

 今まで必死で頑張り手にした野球の名門高校での生活。それが野球とは名ばかりの意味のわからない練習。最後までボールにすら触らせてもらえず、ずっと格闘技の真似事をやっていただけだった。挙句に初日から突然人殺し?の片棒を担がされるとは、酷いにも程がある。バケモノ扱いまでされて。

 やっぱり変だ。今さらだけど、絶対に何か変だ。


「なぁ、ウチの野球部って何か変だよな?」

「ほぅかのぉ。ウチは普通じゃ、思うがのぉ」


 帰り道が同じ方向なのか、コウカは肩を並べ歩いている。同意を求めてみても、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。


「それに相手チームが殴ってくるとか、そういうイメージトレーニングも大事だと思うけど、防御の練習? そんなもの、いる? 野球だぜ? なんで野球がそんな危険なものになっているんだよ?」

「どがーしたんじゃ、雷児? アンタのほうがえーっとおかしいわ。野球ちゅーたら、そがーなもんじゃろ。油断したら命も危い、それが野球じゃろうが?」

「マ、マジで言ってるの?」

「まぁーええわ。家着いたし。ここじゃろ、雷児ん家?」

「あ、うん、そうだけど」


 いつの間にか家に着いていた。しかし、この子、何でオレの家知ってるんだ?

 まだ色々とコウカに言いたい事はあったが、オレは「じゃぁまた明日」と、とりあえずサヨラナを告げると、家のドアを開き母さんに声を掛けた。


「ただいま」


 母さんは朝が早い分、オレが帰る頃には帰宅している。オレに出来立ての暖かい晩御飯を食べさせたいからと、パートのシフトを早い時間にしているからだ。

 いつもオレが帰ると、決まって玄関先まで顔を出す。案の定「おかえりー」と声を出しながら、廊下の奥の台所から母さんが出てきた。


「えーーっ?」


 オレは母さんが、まるでコウカのような角を頭に付けているのにギョッとした。


「ど、どうしたの、その角?」

「角? それより、野球部どうだった?」

「あ、いや、うん。どうもこうもないよ。聞いてくれよ、それがさぁ」

「あらぁー、一緒だったのね。もう雷児、ちゃんと言わないとダメじゃない。久しぶりね、煌火ちゃん! さぁ上がってちょうだい」

「お邪魔します」


 驚いた事に、コウカはいつの間にか玄関に入っていて、母さんはまるでコウカを昔から知っているかの様に、家へ上げようとしている。


「え、ちょ、ちょっと? かあさん、この子知ってるの?」

「何言ってるの、一昨日あなたに話したじゃない。鬼南煌火ちゃん、あなたの許嫁よ」

「い、許嫁―ぇ? 聞いてないよ、オレ!」


 突然の母さんのセリフに、オレはただただ驚いた。


「あれ、そうだったかしら? でも、もう仲良くなっていたのなら良かったわ。これからうちで一緒に暮らすわけだし」

「い、一緒に暮らす?」

「そうよ。あれ、この事も話したハズだけど?」


 ちょっと待ってくれ、何か、全然頭がついていってない。俺とコウカが許嫁で、これから一緒に暮らすだと? しかも、オレだけがそれを全く知らなかったようで……。


「煌火ちゃんの荷物、お部屋に入れてあるからね」

「ありがとうございます。これからよろしゅお願いします」

「いいわよ、堅苦しい挨拶は。でも、これからよろしくね。あと、雷児を末永くよろしくお願いね」

「部屋は、雷児と一緒……じゃろうか?」

「あら、一緒がよかったかしら? でも、まだ高校生で子供でも出来たら大変だと思って、別々の部屋用意したんだけど」

「ウチ、子供はぶち好きじゃけぇ、一緒でもええです」


 おいおい、オレをさておき、なんていう会話をしているんだ?


「イヤイヤイヤ、待ってって、おかしいでしょ? 突然同じ部屋で暮らすだなんて」

「そんなに照れなくてもいいのに。まぁ、最初のうちは野球の事もあるし、とりあえず別々の部屋にしましょうか。いい、煌火ちゃん?」

「あ、はい」


 本当にコウカはうちで同居する様だ。

 しかし、許嫁だなんて話は初めて聞くし、今までコウカの事なんて、これっぽっちも聞いたことがない。オレはいつの間にか、オレの知っている世界から離れ、まるで別の世界に迷いこんでしまったかの様だ。

 ここにいるオレはオレであってオレでない、そんな世界。それって、巷でいう所の異世界ってやつじゃないのか?

 オレはもしやと思い、慌てて洗面所に駆け込んだ。


 そして、見てしまった。オレの頭にもある、青く光る二本の異様な角を。


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