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バケモノ aim for the KOUSHIEN!  作者: 日上東
壱 鬼、グランドで吼える
4/27

 オレはグランドに立つ、その巨大な姿をただ呆然と見上げるしかなかった。

 デカい、デカ過ぎる! 優にオレの倍はある。という事は、身長4メートル近いって事か? う、嘘だろう、ありえない!


「ヒッヒ、どうだ、デカいだろー? 俺がシベリヤの山の中から見つけてきたんだ。さぁ、挨拶するんだ、パテキシュスキー・スメヤガラ」

「グモーーーッ!」


 大きな叫び声が、地面を震わす。鼓膜もビリビリする。


「そういや、コイツ、言葉話せねーんだったわ。まー、言ってる事は多分わかると思うからよー、よろしく頼んだぜ」

「いや、ちょっと待って下さい、理事長。人の言葉も話せないヤツに、野球なんてできるんですか?」

「ま、無理でもやってもらわにーと、損しちまうわな」

「ただのデカイ置物にならないといいですねぇ」


 茶化し気味に一人の先輩が、その巨大な新入生の足を軽く蹴った。


「グアーーーーッ!」


 巨人は再び凄まじい声が上げると電柱並みに太い腕を振るい、その先輩はまるで漫画の様に外野フェンスまで吹っ飛ばされてしまった。


「あーーーっ、滑川ぁーー!」

「ヒッヒヒー、どうだ、スゲー力だろう? こいつは戦力になるぜ。ま、問題は野球のルールがわかるようになるかどーか、だがな」

「それ、自分たちが教えるんですか?」


 少し顔色を悪くしながら、バイスキャプテンの金髪先輩が理事長に尋ねる。


「当たりみーだ。チームメイトだろう。それと、コイツも寮に入るからな」

「えーっ、ちょっと、本気ですか? どこに寝せるつもりなんですか? こんなデカイやつ、入れる部屋なんてないですよ?」

「構わにーから、外に寝かしておけ。少々寒くても気にすんな。何せ、シベリヤの山にいたんだ」

「いや、し、しかし」

「いやー、今年の新入生は豊作だぜ? 鬼のツガいに狼男、じゃねぇ、狼女か。それとこの大巨人。どーだ、これで坑死園行けねーとは言わせねーぜ?」


 いや、何かオレまで鬼扱い? それに、こんな連中と一括りにされたくないんですけど?

 結局、理事長はやたらとご機嫌なまま、その巨人を残してさっさと帰ってしまった。


「まったく、理事長の怪物コレクションにも困ったもんだな。でも、キャプテンの事、あまり触れられないで助かった」


 金髪先輩は理事長の車を目で追いながら、溜息をついている。


「じゃあ一年生、とりあえず、俺たち上級生の名前を、まずは憶えてもらおうか。このチームのキャプテンは……、さっきそこに埋めた汚泥尿三だ。いいか? この事は、絶対に学校では口にするなよ。もちろん、理事長には絶対に口が裂けても知らぬ存ぜぬを通せ。おい、わかってるのか、鬼南!」

「わかっちょるってぇ」

「俺はバイスキャプテンのブライアン・グルアガ、アイルランドエルフの末裔だ。野球部寮の寮長も兼ねている。ちなみに野球部員はキャブテンを除いた九人全員寮暮らしで、一年も大牙と巨人の二人は入寮のようだな。文字通り、これからは寝食を共にするわけだ」


 バイスキャプテン、やっぱり外人なんだ。

 寮生活という事は、みんな地方出身なのか。甲子園常連校はどこもそんなものだろう。それにしても、部員がオレたちを入れて全員で十五人? やけに少なくないか?

 その上、キャプテンはさっき死体になってしまったし、一人は巨人に吹っ飛ばされて病院に直行してしまったし。

 

「俺は猿松飛比呂(さるまつとびひろ)、葛城出身の天狗や。呼び方は飛猿でええわ。俺のモットーは楽して楽しく。おもろければ、何でええんちゅーこっちゃ。ま、よろしゅー」


 例のヘラヘラした先輩は、ガムを噛みながら、相変わらず人を食った様な笑みを浮かべている。自らを天狗に例えるだけあって、鼻が異常に高い。


「僕は川原流(かわはらながれ)。牛久出身。ホントは野球なんて全然好きじゃねえんだよ。でも、あの理事長に強引に連れてこられてよ。帽子なんて被りたくないし、何より土の上で殺しあうなんて野蛮でねぇの。僕たち河童は平和的な種族なんだから。あーあ、早く川に帰りてぇな」


 何言ってるの、この人? しかも帽子を脱いだ頭には皿なんて乗っけている。まったくふざけている。しかも、このヤル気の無さ。こんな人が御出井学園にいるなんて、とオレは少し失望した。


「ワタシ、ジュエル・シュテシュテ、リバプールノマジョ。ワタシ、マホウデアイテコロスヨ。ヤキュウヨクワカラナイケド、アイテクルシメルマホウ、ワタシトクイネ」


 ま、魔女って言った? ていうか、普通に綺麗な外人の女の子なんだけど、この人も選手なの? しかし髪も紫に髪染めて、殺すとか魔法とか、わけわからない。

  

「俺は四代富士夫(しだいふじお)。一応、死ぬ気で野球に取り組んでる、死なないけど。とりあえず、野球は俺にとって生きる希望だからな、生きてもいないけど。ゾンビだけに」


 ……そ、そう、なのか。ウン、オレにも、ようやくわかってきたぞ。

 どうもこの野球部では、自己アピールに重きを置いている様だ。エルフ、天狗、河童、魔法使い、ゾンビ。それに鬼、巨人、狼女か。

 自らをその様な化物に例え、その化物が持つ能力みたいなもの、それを自らのプレイに盛り込みたい、そんな感じなのだろう。

 エルフの様に永遠に、天狗のような素早さを、鬼の様に無慈悲に、とか?

 ならばそうと早く言ってくれればいいのだ。そうすればオレだって、それくらいの機転、利かせられなくもないのに。


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