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トータル・ネットワーク  作者: 佐々木遥斗
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LINE39.0:Future

 今日の講義が終了した。大教室を出て大学構内の中庭に出ると、夕方の肌寒い風が頬に触れる。

 ここのところだいぶ気温が下がってきて、今日は久しぶりにクローゼットからひっぱり出したカーキ色のコートを着て大学に来ている。

 来年から教職課程を履修する予定なので、その手続きのため私は教務課へ向かう。もう進路決めてるの、早くない?と千夏は驚いていたが、まだ完全に決めたというわけではない。


 いつからか、もし誰かが「こういう道に進みたい」と思った時に、そのために必要なものや方法を一緒に考えて背中を押してあげるような存在になりたい、と思うようになった。

 それは先輩や上司であったり、親や兄弟姉妹といった家族であったり、或いは教師であったり。

 私の人生にそういう関わり方をしてくれた人はいなかったけれど、それは何も選んでこなかった自分にも責任があるのかもしれないとも思う。

 何不自由なく生活をさせてくれた両親には感謝しているが、道標が何もなければ人は迷ってしまうこともある。そんな中で自分の意思で何かを選択するという行動を取った今の自分は昔よりも少しだけ肯定できる気がした。


 帰りがけに今日明日の食材を買っていこうと考えるがこの辺りは繁華街で、自宅・大学間のルートにあるスーパーと言えば駅構内に併設されているややお高めの百貨店かコンビニ程度の広さの小さな店舗しかない。庶民的な値段で幅広い品揃えの店に行こうと思うと遠回りをするしかないのだった。

 少し離れたスーパーで夕食の食材を選びながらここのところ少し炭水化物を摂りすぎかな、などと考える。以前は食べることが特別好きではなかった。食事とは生命維持に必要な栄養素を摂るだけ、そんな風に考えていたのか私はただただ少食だった。


 大学に入ってから千夏をはじめとしたクラスやゼミの友達と食事をしたり、自炊で外食に負けないものを作ってやろう等と考えるようになってからは食事というものに向き合うようになった。そして最近はさらに一歩踏み込み、健康面を考えると栄養管理はある程度きちんとすべきだと思うようになったのだった。


 料理自体は好きなのだが、自分一人で食べるのはやはり寂しい。私は少し男性が苦手なので、周りの子がいつも話しているように彼氏が欲しいとはあまり思ったことはないが、食卓を囲める相手が欲しいなとはたまに思う。今度久々に実家に戻ったら両親に料理を作って出してみようか。


 ひとり暮らしでホームシックにでもなったのだろうか?

 あれほど実家から離れたくて仕方がなかったのに、こういう考えが浮かぶこと自体がとても不思議だ。

 料理の腕には多少自信があるが、私は両親の好きな献立さえ知らない。彼らは高くて美味しいものを食べ飽きているかもしれない。それでも何となく、私が料理をして家族で食卓を囲んだ時にふたりがどんな表情をするのかが目に浮かぶのだ。

 母はきっと「あら美味しいじゃない」とニコニコと答えてくれるだろう。父はいつもの仏頂面で特に何か言うでもなくご馳走様、と丁寧に挨拶をするだろう。そして食べ終わった彼らの顔を見て私もまた「ごちそうさま」と言う。

 良いとか悪いとかではなく、きっとそれが私の家族の自然な姿なのだろう。


 レジにカゴを置くと、何故か余計に食材を買っていることに気づく。この間もボーッと買い物をしていて同じミスをしていた。

 そんなに寂しいのか、私は……と自分に突っ込みながら食材を戻しに行こうかと考えるが、まぁいいか、と考え直す。千夏やゼミの友達に食べに来てもらってもいいし、近所にお裾分けしてもいい。


 今、きっと私は自由なのだ。責任を持って選択し、行動出来るということは素晴らしい。

 もちろん時には間違えることもあるだろう。だが私は誰かが間違えた時に立て直しが出来るよう助言できるような人になりたいと思う。

 そして私がミスをした時にも助けてくれる人がいれば、とも思う。それは彼氏なのかもしれないし、ひょっとしたら親や結婚相手、そして子供のような家族なのかもしれない。


 そう考えていると何故か笑みがこぼれレジのパートさんは怪訝な表情を浮かべていたが、私は何故か右下に視線を移すとふふ、ともう一度笑った。

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