表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/36

犬と兄ちゃん

 シロが死んだ。

 僕は呆然としていた。悲しいというより、呆然、と。

「死んじゃったな」

 感情が篭らない声で、兄ちゃんはそう言った。

 生まれたときからずっといて、いるのが当たり前になっていたシロを、幼い僕は永遠の命と錯覚していたのかもしれない。犬のシロが、人間のように息をひきとったことが、悲しい以上にとにかく衝撃的だった。

 特に兄ちゃんが、毎日世話をしてかわいがってた犬だった。

「犬でも死ぬことってあるんだな」

「犬だって生き物だからな」

 この頃、やっと事態が呑み込めた気がしてきた。兄ちゃんが目を瞑る。

「別れというのは、何にだって必ず来るものだ」

「そうかもしんないけどさ」

 徐々に、悲しいという感情が込み上げてきた。声が震えた。柄にもなく涙が目に留まる。兄ちゃんに気づかれたくなくて、僕は下を向いて誤魔化した。

 いや、すでに気づかれていたのかもしれないけれど。

 僕を宥めるでもなく、兄ちゃん自身が嘆くわけでもなく、兄ちゃんは言った。

「別れって美しいと思わないか?」

 必ず来るけれどそのふたりの間では一度しかない。

 泣けば帰ってくるわけではないことも承知しているのにどこかで期待する愚かで切なくて脆い感情。

「別れは美しい」

 美しい?

 僕は一刻もはやくこの気持ちから逃げ出したいというのに。

「兄ちゃん……あんた変だ」

「お前にはまだ難しかったかな」


 兄ちゃんが別れを美しいと表現した意味は、大人になった今でも分からない。

 ただ分かっていることは、兄ちゃんもきっと、僕にも誰にも見つからないように泣いたはずだってことだけだ。


 別れが美しいものだったのか、それとも兄ちゃんが本当に変だったのか……──。

 僕には分からないままだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ