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アナロジー
夢中になれるものがあると頭が晴れる、と、そいつは言った。国語力に欠ける彼にしては、まずまずの隠喩だ。
私の頭はいつも曇りのち雨、または雨のち曇りだったのに、そいつがそう言って以来雨は減った気がする。そのうち雲の隙間から光が差し込み、暖かな春が訪れ、また雨が続き、やがては真夏日のようなあつさに焦がれた。
「どうしてくれるのよ。気温の変化に体がついていけないじゃない」
「暑いのは俺のせいじゃない」
やはり国語力の足りないこいつには、私の言った意味が分からないようだった。外気の話じゃないのよ、バカ。
かなり遠回りな言い方だから仕方ないかもしれないけれど、これ、あんたが使った表現と同じなのよ。
髪が汗でべったりと顔にはりつく。暑い、熱い。
それでもそいつは気温なんて感じないかのような涼しい顔をしていた。
「秋になるの待てばいいだろ」
ため息まじりにそいつは言った。
「ずいぶん気長な意見ね」
なるほど、涼風が吹くようになったら、きっと少しは落ち着ける。
その前に多分くるであろう猛暑日を覚悟した。