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君だけだったんだ

「遠野くんて幽霊が見えるの?」

 最悪だ。小学校進学とともに口外するのをやめていたのに。全員下校したと思って高を括っていたのが間違いだった。放課後に現れた霊と世間話をしていたところを、忘れ物を取りに来た怜子ちゃんに見られてしまった。

 彼女はしつこくまとわりついて、僕の帰り道にまでくっついてきた。

「見えてるんだよね?」

「見えないよ」

 霊が見えることは誰にも言ってはいけない。それは幼稚園の頃に学習した。

 友達に言えばバカにされるか泣かれるし、大人に言えば信じてもらえないし挙句の果てには嘘をつくなと怒られる。

 だから誰にも言ってはいけないのだ。

 そんな僕の考えを露知らず、怜子ちゃんは浅はかに追いかけてくる。

「本当の本当に? それじゃ遠野くんは、ひとりぼっちの教室でひとり言を言う変な子なのね?」

 そう思われるのも心外である。これ以上、誤魔化しても無駄そうだ。

「誰にも言うなよ」

「見えてるんだ!」

 怜子ちゃんの声が弾んだ。

「すごい。ねえ、霊を降ろしたりもできるの?」

 これは、バカにされるパターンだ。僕は彼女の質問を無視してあしらった。

「すごくないよ。霊なんか見えてもろくなことない。死んだ奴なんかどうでもいいし、見えることがばれたらそうやってバカにされるし、悲しいだけだよ」

「バカになんかしてないよ!」

 怜子ちゃんが僕のランドセルにしがみついた。

「私のママ、事故で早くに死んじゃったから。幽霊でもいいから会いたかったの」

「あっ……」

 知らなかった。まずいことを言った。僕は慌てて振り向く。

「ごめん」

「ううん。私も誰にも言ってなかったから、知らなくて当然だよ」

 ランドセルにしがみついている怜子ちゃんは、怒るでも泣き出すでもなく、ふんわりと笑っていた。その笑顔を見ていると余計に申し訳なくなる。

「僕……霊が見えるってだけで、降霊とか、そういうのができるわけじゃないんだ。怜子ちゃんのお母さんを呼ぶことはできない……」

「そっか」

 怜子ちゃんが少しだけ残念そうな顔をした。

「でも多分傍にいるんだと思うから。いつか姿を現すと思うよ」

「本当の本当に?」

「うん、いつか」

「そっか」

 また、怜子ちゃんに笑顔が戻った。

「それじゃ、ママが来たときすぐに分かるように、なるべく遠野くんと一緒にいないとね」


 霊が見えるって、もしかして、悲しいだけじゃないのかな。

 彼女の笑顔で、初めてそんなふうに思った。

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