霊感少年
「なあ遠野。隣のクラスに転校生の山本っているだろ」
放課後の教室で、河村が僕に言った。
「あいつ、霊が見えるんだってさ」
「あー……」
適当に喉を鳴らすと、河村はニヤッとにやけた。
「だせえよな。中学生にもなってまだそんな嘘で注目されると思ってんだ」
河村の言うとおり、隣のクラスの転校生は随分浮いた存在のようだ。
自称、霊感少年。
漫画の読みすぎで現実と区別がつかなくなっているのでは、と噂されている。
「その山本がさ、今まさに隣の教室でひとりで補習してるんだよ。先生も今どっか行ったみたいだしさ……」
河村がちらと壁を一瞥した。
「ちょっとからかってやろうぜ」
「バカ、やめとけよ」
「いいじゃん、どうせ浮いてるんだし」
そういう問題じゃないだろ。と、思うのだが、こうなった彼はいうことをきかない。
「まず遠野が、『助けて山本! 俺、取り憑かれてる!』ってあいつのところに飛び込むんだ。俺も『お祓いしてやって』って芝居打つから」
「はあ」
「そしたら山本の奴、恐らく同志を見つけたと思って喜ぶだろうから、まただせえこと言ってくれると思うわけよ」
まあ、調子に乗ってお祓いの素振りとか始めたら、たしかに面白いけどさ。
「でも、本当に見えてるんだとしたら、どうする?」
一応聞いてみる。河村は眉を顰めた。
「遠野までそんなん信じてんのか。霊なんているわけないんだから、見えるはずないだろ」
「ああ、うん。そっか」
山本が本物の霊感少年ではないことを祈るしかない。
作戦を決めた河村は、早速実行に移した。俺を引き連れて隣のクラスに向かい、山本が机に向かっているその教室に俺を押し込む。突然現れた俺たちを見て、山本は目を丸くした。
「あー、えっと、山本。俺、隣のクラスの遠野」
とりあえず、自己紹介をする。
「お前、霊が見えるんだって? 俺、取り憑かれてるみたいなんだけど」
河村に用意された台詞を言ってみる。山本は目をぱちぱちさせた。
「取り憑かれてる?」
「うん。お祓いとか、できるのか?」
「ええ? 取り憑かれてる?」
山本は目を細めた。
「取り憑かれてないよ。そいつ、君の後ろに立ってるだけだから」
ああ、やっぱり。
こいつ、本当に見えるんだ。
「その地縛霊、自分が死んでることに気がついてないみたいだけど」
「うん。河村って名前なんだ」
「へえ。霊なんかと友達なの? 遠野くんて変わってるな」
「うん。放課後だけ出てきて、俺に絡んでくるんだ」
本当に見えているのだとしたら、俺の霊感までばれてしまう。ひけらかすとからかわれるから、誰にも知られたくないのに。
「え、俺って死んでるの?」
河村にも、自覚させたくなかったのに。
「ごめんな河村」
「ううん、俺の方こそごめんな、遠野」
河村は顔を伏せた。
「何も知らずに友達面して」
「友達面じゃないよ、友達だよ」
その日を境に、俺の目に河村は見えなくなった。
山本にも見えないらしい。
そしてその日を境に、俺は山本と友誼を結んで、山本はなぜか急に、苛められなくなった。




