真面目男と正直女
「北川くん。この前の返事、まだ?」
げ。南沢さんだ。
「まだだ。考え中だ」
南沢さんは苦手だ。なぜならば、俺に告白をしたからだ。
いきなり好きだと言われたところで、事態を予測していなかった俺はその場で送球に計算できず、返事を先伸ばした次第だ。
「いかに丁重かつ正確に南沢さんを傷心させずに交際をお断りするか、考え中だ」
「ああ、振る気なのね。考えなくても今ので充分に伝わった」
南沢さんは苦笑いした。傷心させずに、というのは不可能だ。それは薄々感づいてはいた。
「南沢さん。君は、恋愛に何を見ている?」
「ん?」
南沢さんが首を傾げた。俺は分かり易く噛み砕いた説明を加えようと試みた。
「俺は高校生だ」
「知ってるよ。私も高校生だよ。奇遇だね、運命だね」
「世の女性は男性の価値を経済力、社会的地位、更には容姿なんかで総合判断していると思うし、後の子孫のことを考えればその判断材料は生物として正しいと思う」
「んー」
「高校生である俺は経済力も社会的地位も安定しておらず、また俺の容姿が特別優れているのでもない。取り柄は、強いていうなれば若さだけだ。そんなオスとしての価値の低い俺を捕まえて交際を申請するなど、南沢さんは恋愛という不安定な概念にどんな期待を持っている?」
そうだ。そもそもそれが理解できなかったから、彼女との交際を断るのである。
「現段階で今後どういう家庭を築くか将来像が明確でない俺に、なぜ興味を持つ?」
「北川くんは難しいこと考えてるね」
南沢さんは俺の言いたいことが半分も理解できていなさそうな、陽気な笑顔を浮かべた。
「堅物で真面目すぎで、小難しい言い回ししてるけど、要するに私を傷つけないようにしようとしてたり、私の将来を考えてくれてたってことだよね」
南沢さんの上靴が、つん、と爪先で床を蹴る。
「そういうね、優しいところが、人間的に好きなの」
……よく分からない。
「将来性とかお金とか、そういうことじゃなくて。単純に北川くんが好きだからだよ」
南沢さんは、バカだ。バカ正直だ。
彼女の言葉はストレートだ。淀みがなくて、ド直球。普通なら言葉に出すのを戸惑うようなことを、平気で言う。
考えても考えても、脳細胞の無駄でしかないこともある。
何も考えていなさそうな彼女の言葉が、こんなに真っ直ぐ頭に入る。飾り気の何もない、シンプルな言葉なのに。だからこそだろうか。
解せない。だが心地よい。
「それなら俺の持つ人間的魅力を最大限に引き出しつつ南沢さんの期待に添えるよう鋭意努力し、勉学や社会生活に支障をきたさない程度になら交際に異論はない……」
もにょもにょと口の中で言葉を選びながらこたえるも、南沢さんの脳みそにはいまいち届かないようだ。
「ん? ん? どういうこと?分かり易く言って?」
「だ、だから」
ド直球にはド直球しかないのだろうか。
「よろしくお願いいたします……」
「うん、それが聞きたかった」
にこり。南沢さんは満足気に相好を崩した。




