イマジネーション男
「要するに貴様は、その制服を着ることで『お巡りさん』というイメージを他者に与え、そのイメージで貴様自身のイメージを守っているということだ」
警察官になって初めて職務質問をかけた。
相手の男が俺に熱く喋り出したのは、正直想定外であった。
「貴様は俺のこの所持品を見て、怪しいとイメージを持った。だから俺に職質をかけた、そうだな」
「はあ、そのとおりです」
まあ、スーパーの袋いっぱいに、女性用下着を詰めていればな。
「世の中って意外と意外性があるんだよ」
男は自分で言って真顔で頷いた。
「『※写真はイメージです』の写真が好印象だったから買う。企業や商品のイメージの芸能人が好きだから買う。イメージ。イメージイメージイメージ! 人間はイメージなんてそんな曖昧でふわふわしたものに突き動かされすぎだ、そう思わないか」
たしかに。たしかにそうだ。
「イメージと異なる場合もあるよな……」
「そうだろ、お巡りさん。話が分かるじゃねえか」
男がニッと笑った。
「先程も申し上げたが、貴様はお巡りさんというイメージを守ることでお巡りさんのイメージに守られている。しかしそこに意外性が発生したとすると、貴様が俺に話しかけた理由が変わる」
「というと?」
「もしかしたら、俺が調達したこの女性用下着を、ひとつ寄越せと言いに来たのかもしれない」
男が、がさっと袋を掲げる。俺は自身の顎に手を添えた。
「なるほど」
「そして、これをがめているように見える俺は、実はとても気前がよくて、どれでも好きなものを持っていけと差し出すかもしれない」
がさ。また袋が鳴る。男は袋を、俺の方に突き出してきた。俺は突き出された袋から仰け反る。
「それは俺を共犯にしようとしているのか?」
「俺にそういうイメージがあるのか」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて」
考えてみる。たしかに我々はイメージという名の固定概念にとらわれている。何事においてもそうだ。角度を変えて物を見る、そんな簡単なことを忘れていたのかもしれない。
「確認だが、お前は下着泥棒なんだよな。これはイメージじゃなくて、事実として」
「まあ、それはそうだな」
「分かった。続きは署で話そう」
愚かな男に教えてやるのはやめておいた。
イメージというのは、とらわれないように努力するものではない。
味方につけるものだ。




