魔女の箱庭②
私の家の隣には、魔女が住んでいる。彼女が引っ越してきて、数日が経った。
お母さんにアネモネを誰から貰ったのか聞かれて、本当のことを話したら、叱られた。
「関わっちゃだめだと言ったでしょ」
「でも、日本人の魔女なんて珍しいよね」
私がめげずにそう言うと、お母さんは肩を竦めた。
「日本人じゃないわよ。似てるけど、あれは外国の人」
魔女に、咲いたアネモネを見せに行きたいけれど、お母さんにばれたら叱られる。お母さんの目を盗みながら、部屋の窓から魔女の家の様子を見た。魔女は何のお仕事をしているのか、いるときといないときは曜日で定まっているわけではないようだった。
ある水曜日。魔女が庭にいて、お母さんが買い物に行った、絶好のチャンスが訪れた。
「こんにちは! 見て、咲いたよ」
うちの庭から、塀を挟んで向こうにいる魔女に手を振った。アネモネの植木鉢を掲げると、魔女は嬉しそうに笑った。
「素敵な白が咲いたですね。枯れちゃってもそのままにしててください。ウソツキにならなければ、来年も咲くです」
こちらに歩み寄ってきて、白い花をツンと指で撫でた。
「ありがとう。大事にするね」
「でも美咲、どうして平日のお昼に、家にいるのですか?」
魔女が首を傾げた。ぎくりと、植木鉢を持つ私の手に、力が入った。魔女は意地悪でもなんでもなく、素直に不思議そうに問うてくる。
「学校は、行かないですか」
魔女のくせに。なんでそんなこと、聞いてくるのよ。
「……行きたくないから」
「行きたくないと、行かなくていいんですか」
「ほんとは行かなきゃ、だめだけど」
「でも美咲が行きたくないのには理由あるですね?」
魔女が塀に腕を置く。優しい目で私を見つめてくれている。どんなに本当のことを言っても、受け止めてくれるような瞳だった。
「……一週間くらい、行ってないの」
掃除をさぼったクラスメイトを一丁前に叱った。それが反感を買って、私へのちょっとした「苛めまがい」が始まった。それが二週間ほど前。
仮病を使って休んだのが、一週間前。
そのまま何となく学校へ行きにくくて、今に至る。
「不登校、って奴になっちゃうかな」
こんなこと、魔女に相談しても仕方ないのだけれど。バカだ、私。帰ろう。踵を返そうとしたときだった。
「美咲」
魔女の声が、私の背中を引き止める。振り向くと、紫色のまん丸の花を手に持って微笑んでいた。
「この花をあげます。アリウムといいます。ネギの友達」
私の胸に、そっと鉢を寄せた。
「掃除をさぼってはだめ。そう言った美咲は正しいです。だから、悲しみに負けてはだめです、美咲の悲しみは無限ではない」
まん丸の花が、私を見上げている。それがなんだか、健気に、私を慰めてくれているように見えて。
「……ありがとう」
翌日、私は思い切って登校した。
クラスメイトから好奇の目に晒された。
でも。
「ごめん、美咲」
私が来なくなって、焦っていたのかもしれない。主犯格だったクラスの中心のあの子が、私に頭を下げた。
アリウムの香りが、窓風に乗ってきた気がした。




