クローバー畑
体育館の裏に、クローバー畑があった。自生した雑草かと思ったら、「クローバー畑」と書かれた小さな看板がクローバーの中から頭を覗かせていて、しかも丹精込めて水をやっている男がいたのだ。
「育ててるの?」
怖いもの知らずな僕は、彼に声をかけた。振り向いた男が頷く。
「そう。君も欲しかったらあげるよ」
変わった顔立ちの男だった。
ニッと笑った口元はちょっと前歯が長くて、目は離れ気味で、顔の端の方についている。
僕は彼の隣にしゃがんだ。
「これだけたくさんあったら、四葉が見つかるかもね」
「四葉かあ。たしかに珍しいな。三葉もいいと思うけど」
「ああ、幸せを見つけた四葉より、幸せを探す三葉が好きって人、いるよね」
格好つけてみたけれど、男はきょとんとしていた。それからくすっと吹き出す。
「いや、もちろん四葉、好きだよ。ただ、どっちかっていうと、葉っぱの大きさ重視なんだ」
「ふうん。幸せの大きさ、的な?」
「そうだね、食べるところは多いにこしたことはないから」
「え?」
なんだか、噛み合っていない気がする。
「食べる前提?」
看板をもう一度見た。クローバーで隠れていた部分が少し見えている。
そこには、「クローバー畑“食用”」の文字。
*
そんな妙な夢を見た次の日。
体育館裏に行ってみたら、クローバー畑なんかなくて、代わりに飼育小屋のウサギのお墓があった。飼育係に聞いてみたら、昨日、ウサギのピョン太が亡くなったと言っていた。
シロツメクサが大好物だったそうだ。




