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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。

TSして聖女になってしまった可哀想そうな少年のお話

        今度こそまともなTS物を書くんだよっ!
 
「うう、ちくしょぅ……」

 ミレー……陽だまりのような優しい少女。
 初恋だった。本気だったのだ。一目惚れだった。しかしそれ以上に彼女の内面に惹かれていったのだ。告白するつもりだった。いや告白しようとしたのだ。告白しかけたのかもしれない? 告白すればよかったよぅ!?

『モーリィ聞いて、私ね勇者さまに見出されて一緒に旅に行く事になったの!』
『まじで?』
『ええ、急だけどもう出発なの、モーリィも元気でね』
『まじですか?』
『実は勇者さまて、私に一目惚れしてどうしても一緒に来て欲しいて。うふふふ』
『まじなのかよぅ!?』

 つい数時間前の話である。
 モーリィは今絶賛売り出し中の勇者に、好きな女を横から奪われたのである。そして今、職場の先輩に当たる騎士ルドルフの家で飲んだくれていたのであった。

「しかし、ミレーがあの勇者にか……」
「うぅ、そうなんです。ちくしょうちくしょう」
「まあ、飲め、モーリィ」
「うううううぅぅぅ」

 ルドルフがコップに入れてくれたワインを一気飲みした。
 彼の細君であるターニャが追加の料理を持ってきてくれる。気立てが良く少しタレ目気味であるが中々の美人さんであった。面倒見の良い彼女には、普段から何かとお世話になっていて、モーリィは頭があがらない。

「大丈夫かい? モーリィ。しかしミレーが勇者とねぇ……わたし、てっきりアンタと一緒になるモノかと思っていたんだけどねぇ」
「うっーーー!」
「おいおい、ターニャ」
「あっ、ご、ごめんよ。モーリィ。わたし別にそんなつもりでは!?」

 モーリィは追加された料理を焼け食いした。
 何が悪かったのか、いつまでも告白できない優柔不断さがダメだったのか、それとも新規売り出し中の勇者がお買い得に見えたのか、自分の商品価値の説明と売込みが足りなかったのか。今となっては後悔先に立たずである。

「ちくしょおおおおおお。こんな悲しい思いをするんなら女なんていらない! 男になんて生まれてこなければよかったょぉぉぉ!!」

 振られた男は必ず同じ事を思う。
 ルドルフとターニャは二人して顔を見合わせた。流石に処置無しと思い最高の治療薬。つまり酒を好きなだけ飲ませてあげることにした。こういう場合は飲んで忘れるそれが一番なのだ。しかし、この後の事の出来事を知っていたなら。そんなに楽観的な考えは出来なかっただろう。知っていてもどうにもならなかったが。


 モーリィは田舎の村の出であった。
 そのまま辺鄙なその土地で一生を終えると思っていた。彼もその事についてはそれほど嫌でもなかったし納得もしていた。
 そんなモーリィの運命が変わったのは14歳の成人の儀式を受けてからである。儀式を受けた者はさまざまなクラスの恩恵を得ることが出来る。モーリィも両親と同じ農夫になると思っていた。しかし――

 クラス:???

 モーリィが得たのはそのような謎のクラスであった。
 実はこれは極稀にある事らしい。
 管理者と呼ばれる存在すらも認識していない、新しいクラスが出現すると、何らかの条件を満たすまでは、クラスの名称が???のままらしいのだ。
 モーリィは直ぐに王都まで連れていかれ、王宮にある宮廷魔導士の施設で様々なクラスの特性をみる試験を受けさせられた。
 その結果は特性的に白魔導士が一番近いとされ、クラスが発現するまでは、それなりの実務経験がつめる、この砦街で仕事を得ることとなったのだ。

 彼女ミレーとはそんな場所で出会った。もともと砦街では街ならともかく砦自体は女っ気が殆どなく、あっても女と呼ぶのが少々憚れる、何名かの女騎士ごりらか下働きのご年配のご婦人方である。ミレーはそんな場所に咲く一輪の花だった。

 同じ白魔導士系列。同じ職場。近い年齢という事もあってすぐ仲良くなった。
 周りの者達に、からかわれながらも、重度の脳筋だが基本的に気のいい騎士連中の声援をうけ、ささやかな愛を育んでいった。いったと思っていたのだ。

 その結果がこれである。もう一生女なんて好きになるものか! 

 そう思いながら、ルドルフの家でワインをしこたま飲んだモーリィは、砦の宿舎までフラフラに酔っぱらて戻って来たのである。


 朝起きた時は頭痛がして体が異様に重かった。
 背中まで伸ばした長い髪を後ろでまとめる。いい加減に切りたいのだが、この砦の責任者の騎士団長が凄まじい勢いで反対してくるのだ。彼は宮廷の貴婦人方と浮世名を流すほどの貴公子らしいのだが、騎士団長の自分に対しての態度で、実はそれは世間体を誤魔化すための偽装で、男色家ではないかと密かに疑っている。

 宿舎の部屋に汲み入れて置いた水桶で顔を洗う。水の上に映る歪んだ自分の顔を見てため息をついた。モーリィは母親似なのだ。

 彼の母親は昔から村どころか、その周辺一帯でも一番の才色兼備(現役維持)として有名であり、父と一緒になるまで結婚の申し出が後を絶たなかったらしい。辺鄙な田舎にいるのが勿体ないくらいの淑やかで美しい女性、それがモーリィの母親の評判であった。もっとも息子の彼にしてみれば、世の他の息子たちと一緒で、母は口煩いだけの唯のオバハンだった。

 そんな母親の容姿どころか、男としては小柄な体格までもを余すことなく受け継いだモーリィは、幼い頃から女と勘違いされて、数多くの悲劇を味わってきたのである。そのひとつが男達に言い寄られる事であった。勘違いならまだいい、実際に誤解が解けて親しくなった者も少なからずいる。
 危険なのはそれでもいいと言ってくる男達なのである。むしろそれがいいっ! と言われて襲われた時は、本気で自らの命を絶ちたい気分になった。

 余談だが、その時は近くで井戸端会議をしていた母とその友人のご婦人方が、殴る蹴る踏むの暴行を満遍なく加えて、助けてくれたので事無きを得たのだった。

 騎士団長にはそれらの連中と同じ臭いを感じるのだ。
 確かめたわけではないがヘタには聞けない。というか本人に確かめて本物だったら、騎士団長の性剣と性技で、モーリィのお尻が切り刻まれる可能性があるのだ。

 かなり寝過ごしてしまっていたらしい。
 夜番と朝番の勤務交代の笛の音を聞き、顔を真っ青にして食事も摂らず、慌てて砦のなかにある職場――治療部屋に向かった。

 短い距離だったが、なぜか微妙に走りづらかった。
 昨晩部屋に戻ってきてからそのまま寝てしまったので、服は昨日着ていた物と同じ筈なのだが、どうにも丈が合ってない感じがして着心地が悪い。裾周りや腰が少し緩く余っている。逆に胸やお尻がキツイのだ。それに股間が妙にスースーしている。微妙な勘違いと言えばそうだが何か体に違和感を感じる。

 職場についてから、ため息が漏れた。
 考えてみたら治療部屋勤めなのはモ-リィとミレーの二人だけなのだ。そして今日から彼女は居ない。つまり一人だから慌てる必要もなかった。それに例え遅れて来たとしても、優しいミレーはきっと笑って許してくれたであろう。思い出したら再び涙が溢れ出す。椅子に座り机に突っ伏しおいおいと泣いた。

「おーい、モーリィいるか? て、オイッどうしたよ!?」

 治療部屋に入ってきたのはトーマスであった。
 彼はルドルフと同じ騎士でモーリィの先輩でもあるのだが、頼れる兄貴分というよりは頼れる悪友といった男である。女顔という最高のネタ提供者であるモーリィを何かにつけてからかい遊ぶのだ。
 泣いてるモーリィを見て大方の事情は察していたのであろう。彼の肩に手を置くと優しく話しかけてきた。

「あーうん、なんだ。ミレーのやつは残念だったな。今は辛くても、またいい出会いが必ずあるさ」

 そういって不器用に慰めると肩をポンポンと叩いてくれた。
 いつもなら同僚の恋愛破局話でも、容赦なく笑うのに珍しく励ましてくれる。初恋敗れたモーリィに対しては、そういう状況じゃないと判断したのだろう。思いがけない優しさに感動し感謝した。モーリィは顔を上げ気を取り直すと、涙を拭き微笑みながらトーマスに向き合う。

「ありがとうございますトーマスさん。それで何の用事ですか?」

 涙の残る微笑み顔のモーリィを見て、トーマスは何故か暫らく呆然としていた。徐々に頬が赤くなっていくのは何だろう。ゴクリと喉を震わせたのは何だろうか。いつまでも何も言わないトーマスの様子を疑問に思い再び呼びかけた。

「あのトーマスさん?」
「あ……あぁ、わ、わるい。ちょいボーとしてた」
「は、はあ?」

 どうにも歯切れの悪い返答をする。トーマスは腕組みをし探るような真剣な眼差しで、モーリィの顔を様々な角度からジロジロと眺る。その様な行動を取られると、彼も自分の顔になにかあると、思わず手でペタペタと触って確認してしまう。

「あの、トーマスさん先程から何ですか?」
「いあ、本当にわるい……あぁ、今朝は合同訓練があるからさ、怪我人出た時の為に外の修練場で待機してくれるか?」
「ええ、分かりました。準備してから向かいますね」
「おぅ、まってるぞー」

 そう言ってトーマスは首を何度も傾げながら治療部屋を出て行った。
 扉をくぐる時に『先のモーリィは妙に色っぽいかったな』と呟いたが、その声は小さすぎて彼には聞こえなかった。


 簡単な処置用の道具を背負い袋につめ、折り畳み椅子と一緒に持ち野外修練場に向かった。かなりの大きさが取られているそこは、第一から第五まである騎士隊の合同での訓練や、馬術など練習にも使用される場所であった。

 今週は第二騎士隊は砦警備任務中で、周辺警戒任務についてる第四と街の治安維持専門の第五は除いて、第一と第三で訓練である。すこし離れた場所にいる騎士達の中に、第三騎士隊所属のルドルフやトーマスの二人がいた。こちらに気が付いたようなので彼等の元まで歩いて行った。

「おはようございます。ルドルフさん。昨日はご迷惑おかけしました」
「ああ、おはようモーリィ。昨夜の事は気にするな、もう大丈夫か?」

 ルドルフは真面目に頷くとモーリィに挨拶を返した。どちらかというと堅物な性格のルドルフだが、真逆の性格のトーマスとよく一緒にいる。幼馴染という事もあるのだろうが、公私に関わらず仲がいいのだ。ルドルフは顎に手を当てると、モーリィの事を暫らくじっと見ていた。それからトーマスの方に視線を向ける。彼はそれに対して、どうよ、という仕草をした。

「トーマスの言う通り、少し頬がふっくらとしているな。太ったのか?」
「え、ええっ?」

 ルドルフから突然意味の分からない事を聞かれて、モーリィは返答に困ってしまった。人は失恋や恋煩いで、太ったり痩せたりするという話は確かに聞いた事がある。だが、一日で明確に分かるような急激な変化はあるのだろうか?

「えっと……ルドルフさん?」
「ふむ、俺の勘違いかもしれん。済まないが気にしないでくれ」
「は、はい……?」

 そう言うと困惑するモーリィを置いて、二人して修練場の中に歩いていった。修練場の外にいた騎士達が全員ぞろぞろと集まってきてる。それ眺めていたら軽くお尻を叩かれた。見ると女騎士ごりら達が笑いながらモーリィに手を振り通り過ぎる。
 微笑み手を振り返したモーリィの口からは何故か深いため息が出た。


 訓練とはいえ、モーリィ自身にそれほどの仕事は無い。
 怪我人が出た時に治癒術を使う程度だが、元々この砦の騎士達は、頭まで筋肉で出来ている可哀想な連中である。魔獣ひしめく山奥に全裸で放置しても、野生化して生きていける脳筋達である。骨折程度なら何もしなくても勝手に治してしまう。というより彼等は怪我をした事にすら気がつかない、本当に可哀想な事に、怪我というモノを理解できるだけの知能がないのだ。

 馬鹿は風邪を引かないのと同じ理屈である。

 モーリィが仕事をするのは手足が千切れる、もしくはその一歩手前のような重度の怪我を負った場合だけである。流石にそこまでいくと彼等でも自然治癒は難しいらしい。そのため、ここ数年で凄惨なモノに対しての耐性はついてしまった。今では内臓が飛び出した程度の怪我では動じなくなっている。

 そのため暇を持て余し、折り畳み椅子に座り両手の平に顎を乗せ、騎士達の訓練を見学していたのだが、先程からやたらチラチラとした視線を感じる。視線の先を追うと騎士達がこちらを見ており、モーリィと顔が合うと慌ててその場から離れていくのだ。どの騎士達も頬を染めているのが不気味であった。

 騎士団長がアレである。ひょとしてその配下の騎士達にも、アレが移ってしまったのではないだろか? モーリィは自分の想像に身震いを覚えた。騎士達を薙ぎ倒す女騎士ごりら達だけが頼もしい同士だった。


 そうして午前いっぱいを使った訓練は怪我人(重傷者)もでずに終わりを迎え、昼食の時間となった。モーリィはルドルフとトーマスの二人と一緒に、厨房で食事を受け取りテーブルに着いた。今朝は食べていないでお腹が空いていたのだ。

 だがここで異常事態が発生した。最初は口いっぱいに頬張って食事をしていたのだが、半分ほど食べたところで、お腹が膨れて口の中に食事が入っていかなくなったのだ。いつもならこの程度の量では足りないくらいなのだが。
 そんなモーリィの様子に二人が気がついたのか、気遣ような視線を向けてきた。

「おいおい、大丈夫かモーリィ? 失恋がまだ堪えているのか?」
「トーマスの馬鹿が言う事はともかく、体調が悪いのかモーリィ?」
「わかりません、お腹にこれ以上は入りそうにないです……」

 モーリィが顔を伏せて悲しげに言う。その表情を見たトーマスは頬を染めゴクリと唾を飲み込み、ルドルフはそんなモーリィを見て僅かに眉間に皺を寄せる。
 モーリィは無言で料理の残った食器を持ち上げると配膳に戻す事にした。

 沈んだ気分のまま、モーリィは治療部屋に戻るため通路を歩いてた
 唐突にミレーの事を思い出して、ジクジクとした痛みが下腹部にはしる。
 そういえば今日は色々ゴタゴタしていて、手洗いにも行ってなかったな。モーリィは治療部屋に戻るのを止め手洗い所に向かう事にした。
 手洗いの個室に入るとズボンをやや苦労しながら下げる。そして下着から息子を取り出そうとしたら手ごたえがない事に気がつく。慌てて深く手を突っ込むと息子は不在で、何かつるつるした感覚と溝のようなものに指先が触れた。
 暫くしてから、モーリィは女のような甲高い悲鳴を上げて意識を失った。


 目を覚ましたら自室のベットの上だった。どうやら悪い夢を見ていたらしい。そう本当に悪い夢だ。ふっとモーリィは部屋に人の気配を感じた。ベットの横に置いた椅子に腰かけ、こちらを心配そうに窺う彼女はターニャだった。

「起きた? 大丈夫かいモーリィ?」
「あれ、何でターニャさんが?」
「モーリィ。アンタ何があったか、覚えてるかい?」
「…………あっ!?」

 何かに気がつき、モーリィは急に立ち上がった。途端に立ち眩みを覚えてベットから転がり落ちそうになる。それをターニャが慌てて後ろから手を回し支えた。
 その時モーリィは、自分の胸についてる何か大きな肉・・・・を彼女の指で掴まれるような感触を感じた。
 ターニャはそのまま優しくモーリィを誘導すると寝かせる。そしてモーリィの目蓋を自分の手の平で撫でるように覆った。

「ターニャさん?」
「モーリィ。まだ体が追いついてないみたいだから、もう少し休みなさい。話はまた起きてからしてあげるよ」
「…………はい」

 目蓋に乗せられた、ひんやりとした手の平があまりにも気持ちよくて、ターニャの言葉に素直に従い再び眠りについた。自分の身に起きた肝心な事も忘れて。



 そこは騎士団長の執務室であった。この砦街の司令塔ともいえる部屋であるが、モーリィ自身は出来るならば来たくはない場所である。理由は言わずとも知れているのだが、少なくとも一人で来るほど、命知らずで無ければ貞操観念も低くない。

「つまりモーリィ。それが君のクラスという事だよ」

 騎士団長の言葉がよく耳に入ってこなかった。
 倒れてから目を覚ましたのは三日後。そして再び眠りにつき次に目を覚ましたのが更に一日後だった。それから体がベットから起き上がれるようになるまで三日かかり、モーリィが倒れてから今日で八日目という計算だった。

 モーリィは対面のソファーに座る騎士団長を見た。
 筋肉質の大男だが美丈夫だった。様々な欠点を持つがそれ以上の長所を持つ男。それが騎士達の彼に対しての評価であった。国の重要拠点である砦街の責任をこの若さで受け持つのだ。有能であることはモーリィにも十分理解は出来た。
 騎士団長としては疑いのない実力をもち、尊敬に値する人物である。

 ただ、男色家の疑いがあり、それにモーリィが関わっていなければの話だ。

 いやだが待てよ、今の自分の状況を返る見るに、騎士団長が男色家のほうが良いのではないだろうか? モーリィは現実逃避気味にそのような事を考えていた。

「モーリィ? 聞いているか?」
「あ、は、はい」

 騎士団長の呼びかけにモーリィは我に返って返答した。
 思わず眉を顰めてしまった。予想以上に高い声が出たからだ。人の声というのは自分で思っているよりも高い声質なのだが、さっき出た声は明らかにそのような類のモノではなかった。単純明快に言うと。

「ふむ。モーリィ。だいぶ愛らしい声になったではないか?」
「…………」

 紛うことなき、うら若き乙女の声であった。

「そして愛らしさの中にも、濃艶であり清楚さをも同時に感じさせる、その可憐な姿と相まって、最高だモーリィ。実に素晴らしい完璧だ。スパスィーバ」

 そう言って勿体ぶった拍手。何ほざいてるんだこの騎士団長ばかだいひょうは、部屋にいた団長以外の全員がそう思った。頭が愉快な人を見るような冷めた視線を彼に向ける。

「まさに”聖女”として相応しい。そう思はないかお前たちも?」

 部屋が一瞬で沈黙に包まれる。モーリィの今まで???だった彼のクラスが発現したのである。条件を満たし発現してしまったのである。

 ――それが『聖女』であった。

 その部屋にいたモーリィと騎士団長以外の人物。ルドルフとトーマスそして付き添いで来たターニャの三人は、体を震わせて俯く聖女を心配げな様子で見た。


 それからのモーリィの生活は激変した。
 取りあえずは、本人の今までの役割も考慮して砦預りのままなのは安心した。
 そして次に宿舎を移動する事となった。男所帯ぶたのむれの中に聖女を住まわせておくことは、危険すぎて出来ないからだ。

 そう女なのである。つまりモーリィは、その女性的な容姿に相応しくなかった男という性から、その容姿に見合った女という性に変化してしまったのである。

 聖女というクラスである事は魔道具を使いすでに確認済みだ。
 男から女への性別変換についてだが、これはクラスを得る事によって引き起こった、肉体変化ではないかという説が今のところ有力である。この砦勤めの騎士達の頭のおかしな頑丈さもそれである。実際のところは騎士のクラスを得ている者は数人しかいないので、素で頑丈なだけかもしれない。

 だが女騎士達のクラスは全員が女騎士ごりらだ。

 流石に性別が変化するほどの肉体変化を起こしたのは前例がなく、近々。宮廷魔術師が聖女の能力含めた検査を兼ねて砦城まで訪問してくれるらしい。

 引っ越し先は同じ砦内の女騎士達の特別宿舎に決まった。
 これは元々は要人宿泊用施設で、偶に砦を訪問しにくる、やんごとなき王族のお姫さまなどが、わたくし前線の兵士達の生活にも理解がありますのよ贅沢はいいませんわよ? などと素晴らしく慈悲深い事を仰り、折角準備していた街の高級宿を蹴って、砦に宿泊しようとした為にわざわざ用意した物である。

 砦の宿舎に普通に泊めたのでは、騎士さる達が無礼を働く危険性があるのだ。

 実はこのような事を思いつきで仰る高貴な方々は多い、本当に迷惑だから余計な事は考えないで身の程をよく理解して発言していただきたい。
 実働部隊ではない女騎士達が砦にいるのも、そのような高貴な方々が来た時の護衛役でもあるからだ。どんなに頑張っても騎士達さるのむれでは女騎士ごりら達には勝てない。

 本当はルドルフの家に、ターニャが面倒を見る形で宿泊する案もあったのだが、そうすると夜間の緊急時に、治療術を持つ者が砦から居なくなるので却下された。

 女騎士たちの部屋に囲まれる配置の部屋を貰った。
 元の宿舎の部屋の二倍以上の広さには、流石に苦笑しかできなかったが、これでも特別宿舎の中では狭い方らしい。

 最初は、聖女と言う希少クラスの力とこれからの貢献などを考慮して、やんごとなきお方が泊まる部屋の一つを解放する筈だったのだが、あまりにも広すぎてモーリィ自身が断ったのだ。流石に手洗いだけでも、元の部屋と同じ大きさというのは恐怖しか感じなかった。

 暫らくの間、ターニャが一緒に生活してくれたのも有り難かった。ルドルフが騎士団長に直訴してくれたのだ。勿論、団長としてもお願いしたいところだったので喜んで許可をくれた。モーリィが今の体と生活に慣れるまで付き添ってくれた。

 正直なところ着替えなどで、モーリィの前でも平気で脱ぐターニャの裸を見る事に、その夫であるルドルフに元男としての後ろめたさを感じたが、二人ともモーリィに関しては、少し年の離れた弟としてみていた節があり、それが妹に変わったと思えば罪悪感も少しずつ薄れていった。

 特にターニャが、女性としての様々な事を教えてくれたのには助かった。男と女の生活習慣の違いから男には聞かせられない話、そしてモーリィにはまだ来てないが、月のものが来た時の処置の仕方などを、知識として得ることが出来た。

 女騎士達はそのような、女性らしい方面ではあまり役に立たなかった。流石は砦のおとこよりおんならしいと街で噂される方々は違う。

 そして女性が男性に対しての最低限持つべき警戒心だが、これが実はモーリィは普通に出来ていた。幼い頃より女と勘違いされ、誤解される事の多かった人生が役に立ったのである。男に対しての警戒心は下手な田舎娘よりも高かく、少なくとも幼女といい勝負の女騎士達よりは遥かに上であった。

 女性的な立ち回りや言葉使いに対しては、幾つか指摘されたがそれほどは矯正される事は無かった。元から攻撃的ではない落ち着いた物腰や、女性的な柔らかい喋り方をしていたのである。一人称を私にする程度で済んだ。

 モーリィ自身にも、女に――聖女になったことに対し悩み思う事は色々とあったが、それらを自らを省みず支えてくれる、ターニャやルドルフやトーマス。女騎士達といった周り者達。最低限でも彼等のその恩に報いるため、前向きに生きていけるように努力していったのであった。



 モーリィは油断をしていた。
 筋力全振りで幾ら知力の低い砦の騎士達とはいえ、元男に対して懸想するような常軌を逸する行動を取る者は、そうはいないだろうと甘く見ていたのである。

 仕事復帰の一日目に治療部屋は大勢の騎士達で混雑した。以前は閑古鳥だったのが信じられない有様である。
 何しろ骨折や内臓破損などの怪我をしても、大抵気合いで治す彼等には普通の治療というものは、まったく必要のない未知の世界の概念だったからであった。

 指を切った。擦り傷が出来た。虫に刺された。唾をつける以前にもうすでに治ってます。と言わなかった自制心を褒めてあげたい。
 お腹が痛い。頭が痛い。関節が痛い。毒液飲んで毒風呂入るような酷い状態でも、自然治癒で治りますよね貴方達、とは思いません。ええ、思いませんとも。
 愛が欲しい。君が欲しい。その見事な、たわわ揉んでもいいか? まったくもって意味がわからない、死んでくれませんか。いえ、むしろ死ねばいいのに。

 ちなみに最後の、たわわ発言はトーマスだった。その時には夫婦共々モーリィの兄(姉)馬鹿と化していたルドルフが速攻で沈めたのである。

 一日目がこのような有様だったので、不本意ながらも騎士団長に相談したところ。急遽、女騎士の護衛が常時交代で付く事となった。

  だが待ってほしい、彼等ばかにも言い分はあるのだ。

 モーリィが聖女となり、女の体に慣れるために砦の中をリハビリ散歩をしていた期間が暫らくあり、その時に見かけた騎士達は思ってしまった。

 ――え、誰だ。あの、今すぐにでも手を取り支えてあげなければ、倒れてしまいそうな美しく可憐な少女は、白銀色の輝く髪に澄んだ空色の瞳、儚げで美しい顔立ちに新雪のような汚れ一つない肌。背は女性としては少し高いが、あの抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な体にほっそりとした手足、その身にまとう雰囲気はどこまでも無垢で清楚。そして何より――何よりもだ、あの母性を感じさせる素晴らしく、柔らかそうな、柔らかそうで、柔らかいであろう、胸部装甲たわわっ!!

 見た目が極上の男のツボをつく深窓の令嬢のような少女が、自由がきかない体をおして、一生懸命リハビリ治療をしている光景を見たのである。

 彼等はまがりなりにも、弱者を守る騎士道精神を遵守する騎士しんしであり、そして悲しい事にどこまでも騎士さるであった。惚れてまうのは当然の結果じゃないか。

 ちなみにその時に行く者がいなかったのは、常に誰かしらの女騎士がモーリィの手を取りリハビリを支えていたからだ。騎士たちの目には女騎士ごりらが脳内映像から消去され映らなかったが、野性的な危険察知能力が働き逝かなかったのである。

 そしてモーリィの復帰一日目。
 騎士達にしてみればまさしく狩猟解禁日。結果は目に見えていたのである
 モーリィが騎士団長に懇願した次の日の二日目。女騎士達の尽力ぼうりょくのお陰で以前と同じような業務に戻る事が出来たのであった。



 モーリィは目の前の光景に、成人の儀式を受ける前日の事を思い出していた。
 彼はヨーサクという名前の幼馴染だった。成人の儀式を受けるために近くの街にいく荷馬車の中で、同年代の者達と話をしている時に彼はこう言ったのだ。

『俺には夢がある! 凄いクラスを得て英雄になったら、裸の女の子をベットの上に一列に並べて、後ろからお尻パンパンするんだっ!!』

 皆で大爆笑した。ヨーサクも別に本気で言てったわけでは無い多分。彼はそういうネタを挟んで、皆の笑いを誘うのが本当に上手い男だった。男の夢だよなーうんうん分かる分かると話が盛り上った。あの頃は本当に楽しかった懐かしい。

 なぜそのような事を思い出したかと言うと、砦の入口広場の床に設置された、野営で使用する大きな麻布の上には、何百人もの裸の男達が筋肉質な四角い尻を剥き出しにして、ずらりと一列に並べられてうんうん呻いて寝ていたからである。



 砦街の役割、正確には砦の役割というものがある。

 偶に襲撃に来た獣王国の獣王と、おっ。おめえらっ強いやつ(脳筋)ばっかいるなぁ。よしっ! オラといっちょやってみっか!! と仰る要望に対して、砦どころか国そして周辺諸国をも巻き込んだ、砦一武闘会を開催してみたり。
 この時は決勝戦で、獣王ごりら女騎士ごりらの数時間にも渡る殴り合いの末、女騎士が起死回生のボディからの八の字回転連撃を決め優勝する事ができた。

 偶に襲撃に来た魔の国の魔王と、フハハハッ! 我は魔王なり、人間共よ我が力の前に跪くがよいっ!! と仰る要望に対して魔王迎撃戦あそんであげたをこなしてみたり。
 この幼女まおうは、うわああんっ御婆ちゃんに言いつけてやるうぅっ!! と泣きながら帰っていったので、魔王ちゃん(仮)とか魔王ちゃん(笑)と呼称されている。

 アタシ参上!! と言ってやって来た、ほっかむりに作務衣姿の何だかやたらと美人な魔族の女性に、騎士達が全員ボコボコにされた上に、女騎士達の合体奥義トライアタックすらも弾き返され、お土産に魔の国が産地と思われる、果樹植物や大量の苔盆栽を渡される事は本来の役割ではない。

 ちなみに、この最初から最後までもがクライマックス状態だった魔族の女性は、魔王様(真)とか魔王様(恐)と呼称され、街でも一時期流行した苔盆栽はモーリィも治療部屋に置いて育てている心安らぐよね苔盆栽。

 その様な事は兎も角。砦の本来の役割とは周辺の魔獣討伐。
 正確には闇の森からあふれ出てくる魔獣を迎撃する事にある。

 闇の森とは人族達と魔族の境界線となっており。以前は比較的楽に行き来できたようだが、四百年程前に起きた、人魔大戦とよばれる人族と魔族の悲惨な戦争の後に、森が急激に伸び人族達と魔族の領域を完全に分断する事となったのである。

 問題はこの闇の森で、広大な森林には恐ろしい魔獣の群がひしめいているが、同時に数多くの貴重な資源や動植物を所有しており、それを得るため無謀な冒険者達が入り行方不明になる事が結構ある。自己責任なので勝手にしてくれが基本なのだが、偶にこの森の支配者である闇竜などを刺激し、酷い騒ぎになる事があるのだ。

 人間離れした砦の騎士達も、流石の闇竜相手ではかなり分が悪い。というか騎士達の重傷原因の殆どがこの闇竜達の仕業である。特にポチと呼ばれる片目の闇竜の強さが群を抜いて凶悪だった。下手な魔王ちゃん(笑)よりも強いくらいだ。

 そして今回おきた出来事は、諸外国と色々と問題を起こす事に関しては、安定した信頼と実績を持つ、神を祭る宗教国家の手の者によって起きた事件だった。

 彼等はよりにもよって闇竜達の卵を盗んだのだ。

 闇竜達の大暴走があり騎士団総出で出向いたところ。必死に逃げている怪しい集団を発見。追跡。拘束。尋問。卵発見。うぇまじかよっ! という流れであった。

 闇竜達にしてみたら人間達が盗んだのであって、私共とは違う国の者達が盗んだんです。僕たちは貴方達の良き隣人お友達です。ですので仲良くしましょうお願いします。などという言い訳は通じない。

 それでも大暴走する闇竜達を放置すれば、国が幾つ滅びるか分かったものではない。そこで正面から炎ブレスよけの大盾を持って、全員で説得交渉に向かったところ、野生の熊のように背後に潜んだ闇竜達に、炎ブレスを浴びせられたのである。全員がお尻を後ろに引いたへっぴり腰だったのがいけなかったのか、こんがりとお尻を重点的に焼かれてしまったのである。

 その後。炎のような色合いの髪と瞳を持つ、どこかで見た事あるような美人な魔族の女性に、なるほど貴様達は卵を取り戻して来てくれたようだな。良いだろう今回は貴様達に免じて引いてやろう。などという有り難い言葉をいただき、卵と卵を盗んだ者達の身柄と引き換えに、闇竜達は闇の森に帰って行ったのである。

 そのような事がおき、今現在。モーリィの目の前に大量の裸の騎士達が死屍累々と、お尻を丸出しにして寝ていたのであった。

 元男のモーリィとしては、男の裸を見ても別に何も感じないが、本物の女性なら思う事があるのだろうかと見回したら、騎士達を剥いてくれた砦街のご年配のご婦人方や女騎士達が、腕を組みゲフフグフフといった様子でニヤニヤニタニタと騎士達を眺めていた。どうやら本物の女性の方には需要があるようだ。

 モーリィはため息をつくと、並んでいる騎士達のお尻のひとつを軽くパンっと叩いた。すると酷かった火傷がみるみるうちに治癒されていった。

 本来治癒の術は、ごにょごにょと呪文を唱える必要があるのだが、聖女の能力だと対象を軽く触るだけで治癒させることが可能なのである。
 正直その時だけは、聖女になってよかったとモーリィは心の底から思った。これだけの数の男の尻を目の前にして、呪文を唱えながら治療していたら、確実に精神が病んでしまったはずだ。それ以前に魔力が持たないだろうが。

 なるべくお尻を見ないようにしながら次々とパンパンしていく。
 治していると、オゥフとかウッとかアフゥとか変な声上げるのは気持ち悪いので、止めていただけませんか本当に頼みますよと思いながら。

 ――ヨーサクお元気ですか? 私は元気です。あの頃の貴方の夢は裸の女の子を並べて、後ろからお尻をパンパンする事でしたね? 夢は叶いましたか無理ですよね? 実は今の私は貴方の夢を代理で叶えているところです。ただし目の前にいるのは女の子ではなく、むさ苦しい男達で、全裸にされた彼等のお尻を後ろからパンパンしております。不思議な事に涙が零れてきました。嬉し泣きというものでしょうか? ヨーサクもお体を大事にし日々を健やかにお過ごしください。かしこ。

 などと心を殺しながらモーリィは数百人以上の騎士達のお尻を治したのである。

 後日しばらくの間。治療した騎士達がモーリィと会うたびに、頬を染め俯きチラチラと上目使いで、雌の顔をして見てくるのがひどく苛立たしかった。



 そのように日々を過ごしていたある日。
 治療部屋に思いもしない人物が訪ねて来た。聖女になってから色々な出来事がありすぎて、思い出す事が少なくなっていた彼女である。

「モーリィ……お久しぶり」
「え……ミ、ミレー?」
「えへへ、戻ってきちゃた」
「戻って来たって……本当に久しぶり! また会えて嬉しいよ!!」

 それは勇者と一緒に旅に出たはずのミレー、そして恐らくモーリィが聖女と言うクラスを発現させる発端となった、失恋を教えてくれた少女だった。
 ひどく申し訳なさそうな後ろめたそうな顔をした彼女が、部屋の扉に手を当ててオドオドと中に入ってきたのだ。しかし、モーリィの顔いっぱいに笑顔にし再会を喜ぶ様子を見て、ミレーはホッとしたような安堵の表情を浮かべた。

 モーリィは所在なさげに立つミレーに取り敢えず椅子を勧めると、お茶を淹れてテーブルに自分と彼女の分を置いた。護衛の為に壁際の椅子で待機している女騎士の分も淹れてそれを手渡す。女騎士はサムズアップをしながら無言で受け取った。

 治療部屋に以前にはいなかった女騎士を、不思議そうに見るミレーにどう説明したものかと悩んだが、彼女の今までの話を先にしてもらう事にした。

「うん、勇者と一緒に旅してたんだけど、私以外にも数人の女の人が居てね」
「え……そ、それは」
「ああっ、別に彼女達とは仲悪くなかったわよ。むしろかなり仲良くなってね」
「へ、へぇ、そ、そうなんだ良かったね」

 案じるモーリィに対して、手を左右に振って明るい表情でそう語っていたミレーだったが突然眉を顰め。

「最低最悪なのはあの勇者よっ!」

 温厚な彼女にしては珍しい怒りの表情で吐き捨てるように言った。よく分からないがあまり穏やかな話ではないらしい。

「ちょと手ごわい魔獣を倒してね。街の人にも感謝されてね、まあ、それはいいのだけど、それでちょと祝宴しましょうかで宿に泊まったの」
「うん」
「勇者のやつが、夜になって部屋に入ってきて、いきなり女の人全員に服を脱ぐように言ってきたのっ!」
「え、えええぇぇぇ!」

 ミレーはその時のことを思い出したのか、拳を握りしめ怒りのあまりその場で足踏みしそうな勢いだった。

「俺の夢は裸の女を一列に並べて、後ろからお尻をパンパンする事なんだ。お前たちも俺に抱かれたかったんだろ。今まで我慢してたんだ。もう、いいだろう? とか、ほざきやがったのですよっ!!」
「…………最低最悪だね」

 怒りのあまりに言葉使いまでおかしくなっているミレー。それに対してつい最近の騎士達の悲劇と、どこかで聞いた事あるような男子共通の夢の話を思い出し、額に手を当てて何とも言えない悲痛な気持ちになるモーリィだった。

「えっと、それでどうしたの?」
「女の人全員でぼこぼこにしてから、もいでやったわっ!!」
「――――――」

 もいだ? もいだの? ナニをもいだの? モーリィは女になってから無くなってしまったはずの、息子的なナニかがヒュンとなった気がした。その後に少しだけ心が落ち着いたのか、ミレーはいつもの穏やかな表情で続きを語る。

「それでまあ、色々あってね。恥ずかしながらも戻ってきたの……騎士団長には話は一応通したんだけど、またここで働ける事になってね。そのさモーリィ。身勝手な話なんだけど、また、ここに居る事を……許してもらえるかな?」
「許すも何もないよ! ミレーがいいなら大歓迎さ! 本当に嬉しいよ!」
「っ! ありがとうっ……モーリィ」

 大喜びするモーリィの言葉に、涙ぐみながらも微笑むミレーだった。後ろで腕組みをして座っていた女騎士がうんうんと頷いていた。
 それに気がついたのか、ミレーが疑問に思っていたことを聞いてきた。

「あの、それで彼女は?」
「ああ、えっとね」

 どう言ったものか話の取っ掛かりがなく、女騎士を何となく二人で見ていたら、見られていた女騎士がおんな前の表情でサムズアップをした。それで何気なく勇気づけられたような気がして、この状況の全てを話すことにした。

「あのねミレー、その……クラスが判明したんだ。のね」
「え、本当っおめでとうモーリィ! 良かった。それで何のクラスだったの!?」

 無邪気に喜び、無邪気に質問してくるミレーにモーリィは語った。

「聖女……つまりは女になってしまったんだ」

 瞬間部屋の空気が凍り付いた。
 ミレーが小さく口を開けて、えっという表情をしていた。モーリィはその顔を見て、あぁ、もうっ、やっぱり可愛い子だなと現実逃避気味に思った。
 そんなミレーがいきなりモーリィの胸を両指で掴んだ。悲鳴を上げる彼女に構わず、壊れ物を扱うかのように繊細に優しく揉みだした。今まで感じた事のない不思議な感覚に、モーリィの口から変な声が思わず漏れてしまう。

「うん、違和感あったの、モーリィの声が何か高いし、厚手の生地の服でわかりにかったけど胸が大きくなってるし、というか何か綺麗になってるしっ!!」
「ちょ、ちょっと、ミレーもう、む、胸を揉むの止めてっ!」
「何この胸。何この胸。うわうわっなんか凄すぎて止まらないのよ、うわっ!!」

 うわっミレーが壊れた。そして唐突に揉むのを止め胸から手を放すと、彼女はモーリィの胸に顔を押しつけて力いっぱい抱きついてきた。驚くモーリィにたいして、ミレーはそのたわわな胸に顔を埋めた状態で懇願する。

「モーリィ。このまま抱きしめたままで、お話しの続きをして欲しい」
「ミレー……?」
「ごめんなさい、お願い、モーリィ……」

 ミレーは僅かに涙声になっていた。どうしようかと視線を上げたモーリィと女騎士の目が合う。彼女は無言で頷いた。ホント男前だなこの砦の女騎士様達はさっ。

 モーリィはミレーの体に優しく手を回すと今までの事を話し出した。

 上手い話し方では無かったが、一つ一つお互いの離れていた時間を埋めるかのように語った。そうして全ての話が終わり、モーリィがまだ自分の胸に抱きついたままのミレーの背中を軽く撫でる。そうすると彼女が呟いた。

「モーリィあのね。私、勇者との事があってから、男なんてもう一生いいって本気で思っていたの」
「え? う、うん」
「でもね、でもね、今のモーリィだったら、私イけると思うの色々な意味で……」
「うん、え……ええっっ!?」

 話がおかしな方向にへと転がっていった。ひどくひどく嫌な予感がした。崖下に落ちかけているような感覚だ。ミレーはモーリィに抱きついたまま、その豊かな胸から顔を僅かに上げる。モーリィは彼女の上目使いを見てゾクリっとした。
 そう、その表情はつい最近嫌になるほど見た事のあるものだったからだ。

「モーリィ。私と結婚しましょうっ!!」

 頬を染め顔を恍惚とさせ潤んだ眼差しをモーリィに向けていた。
 お尻を治療してあげた騎士達が浮かべていた雌の表情てやつだった。

 モーリィは縋るように女騎士を見た。彼女は目を瞑り両手の平を上に向け、肘を折り曲げ横に広げたまま、首を俯き気味に左右に振った。処置無し無理てやつだ。
 その分かりやす過ぎる仕草が今のモーリィには異様に腹ただしかった。

「私のお嫁さんとして、絶対にモーリィの事を幸せにするからっ!!」

 結婚はともかく、そこはせめて夫にしていただけませんかね?
 もう離さないとばかりに鼻息も荒くきつく抱きしめられ、その胸部装甲たわわ部分をミレーの顔でぐりぐりと、縦横無尽に占拠されたままモーリィは呆然と思った。
 たまたま様子を見に来たターニャが、状況を察して引き剥がしてくれるまで、女騎士に見守られながら、彼女はミレーに抱きつかれていたのであった。


 その後。

 ミレーや騎士団の面子に常に付きまとわれて、襲撃しにきた幼女魔王になぜか懐かれて、さり気無く治療部屋に訪れる騎士団長や、訪問にきた宮廷魔術師長や一緒に視察に来た国の王子。ミレーを連れ戻しに来た勇者や、遊びにきた獣王などのおかしな連中に一斉に求婚されるハメになるのだが、それはまたモーリィの別の話。
     感想とか頂けると嬉しいのよ?(チラッ

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