神殿からの留学生
「ご迷惑をおかけしました」
魔術科の教室から出てきたエマが逃げようとするから、腕をつかんで引っぱって宿舎に転移して謝罪した。
「いきなりなんですか!生徒会長が私を迷惑に思っていたんでしょう」
「そんなわけないだろう、資料が集まってこれからどうしようか、ってときに迷惑なんて、自分の事だよ」
「妹さんたちは、お兄様の迷惑にならないように気をつけてください、って言ってましたよ」
「あー、妹はちょっとおかしいんだ」
「しっかりした妹さんとお友達でしたよ」
「とにかく、ずーっと前からわたしに関してはおかしな子だから」
「兄に変なうわさが立たないようにしている、よい妹にみえましたよ」
「変なうわさが立ったの?」
「ええ、私が連れ込まれたことになってます」
あー、まちがってないなー。
「女性関係じゃないけど、連れ込んだのは確かだから否定できないなー」
「そこは否定してくださいよ、しかも私は女性ですよ、けっこう失礼ですね」
「同性だったらよかったのか、わたしが女かエマが男だったらこんな邪魔が入らなかったわけだよね、残念だなぁ」
「性別は変えられませんからね、困ったものです」
「いっそ恋人同士ってことにしない?それなら納得するんじゃないの」
「嫌ですよ、それがだめだから妹さんが来たんでしょう、生徒会長みたいな人の恋人なんてできませんよ、まわりからかなりうるさくいわれそうだし」
そんなに嫌か、自分でも時々びっくりするくらい変な人だからな、生徒会長じゃなくてケントってよんでね。
嫌がられても手を取って、未来をみせてもらった。
前回と同じく、とても十数年後とは思えない未来だ。もしこれが前世の未来なら、その未来にいるのはわたしではなくて彼だ
さらにどれくらい先の未来かわからないが、前世の神のような彼がいて、汚染された世界を浄化できずに困っていた。
時を越えて未来を浄化するなんて、普通はできない。ずーっと浄化を覚えていても、肉体が滅んだらどこに記憶しておくのだろう?魂にでも刻むのか、前世なのに間に合うのかな。
遠い未来を浄化する仕掛けって、何だろうか?
「エマ、この未来の人は異世界にいる前世の別の人だよね、わたしはどうなっているんだろう」
「ケントさんは大人になってどこにいたとしても、困ったりしないからみる必要がないのでしょうか?」
変だ、自分の未来がみえなくて、前世ばかりがみえている。自分の未来も前世によって変わるのかな?時間を越えて助けることが、わたしの未来なのか。
そんなふうに頭の中は前世のことばかり考えて過ごしているのに、向かい合った机の前には神殿からの留学生がいて、なぜか留学中の行事の日程や内容の説明をしている。
この説明は生徒会長にさせるように、と指名されたが、いつも一緒にいた貴族の先輩はどうしたのだろうか。カーク先生から渡された日程表をみながら、内容を説明していく。
「あの、どうかしましたか」
ふと彼女を見ると目が怒っていたから、びっくりして説明が止まってしまった。
「行事の日程なんて見ればわかります、私はあなたにお会いしたい、といったはずなのに、もう半分も時間が過ぎてしまいました」
「わたしに何か?」
「ここにいる間、私とお付き合いしてくださらないかしら、好きな女性はいらっしゃるの?」
「いいえ…」
「じゃ、問題ないわね」
この人の話が理解できない、それではまた明日、と言って出て行ってしまった。
神殿の人に一般常識なんて必要ないのかな、知り合いでもないのにお付き合いって何なの?
貴族が担当するから面倒ない、って話だったのに、いつも優雅にお迎えの馬車で帰っていた、仕事をしない先輩たちはどうしたのかな。
夕方、薬学科の実習を早めに片付けて、魔術科の転移魔術陣の後ろの暗い所に座ってエマを待っていた。エマに嫌がられないように魔力を抑えて存在を薄くしているから、他の人には見えていない。
そこへ神殿からの留学生の彼女がやって来た。
「あの生徒会長ならまあいいわ、魔力量と見た目もいいし、家柄も悪くなさそうね、私が連れて歩くのにちょうどいいわ」
「そうそう、生徒会って見た目かいいの。フィル様に手を出されると困るけど、もう一人、エリオットさんっていう、ケントさんに負けないくらいステキなかたがいらっしゃるの、ご存じ?」
この人、生徒会で貴族の女の人だ。
「そうなの?エリオットね、それじゃその子も私が連れて来てあげましょう。やはり美しい者同士一緒にいた方が、見る側に圧力をかけやすいでしょう?私に簡単に近づけるなんて、一般生徒に思われたら大変」
まずわたしと会った記憶がなくなるように、彼女に闇魔法をかける、慎重にわたしの記憶を消していく。
かなり近くにいたから普通にかかってくれた、もしかしたら彼女の魔力量は多くないのかもしれない。
(エリオット!)
エリオットを念話で呼び出す。
(もし付き合いたくないのなら、神殿からの留学生には絶対に会うなよ)
(ケント?なんだそれは、付き合うって)
(ずいぶん勝手な女の子のようだ)
(それはかなりだね、鈍感なケントが気づくなんて。わかったよ、忠告をありがとう。またいつでも念話してね、これが初めてでしょう)
(そう?)
ふと横を見るとエマが来ていた。気配を消してもいつもの場所で待っているのだから、気づいたようだ。
よく見えていないのかその前で、神殿からの留学生や先輩たちがぞろぞろと転移して行く。しばらくすると、エマがへたっと座り込んだ、顔から表情が消えて青白くみえる。
「エマ、具合が悪いの?」
体調が悪そうだ、無理やり宿舎に転移してソファに抱き上げて寝かせた。
軽い、人なのかな、エマ?




