勇者とお茶会
「ご迷惑をおかけしました、大国の騎士様に傷をつけるような魔力暴走を起こすなんて未熟でした」
一つ一つの言葉を呪いのように心に刻む。
まるで本当であるかのように心の中に刻むと、記憶は実際体験した事の上に、さらに言葉通りの事があったかのように記されていく。
爆発して、引き分けた。未熟な魔法のせいで。何度も言葉にのせて、さらに魅了していくと、甘い言葉は心の中にすっと受け入れられる。
ずいぶんからまれて嫌なことを言われてきたが、大国の大人ではなくて、まだ子供の騎士の心の中に干渉するなんて気が滅入る。
これはカーク先生の提案で、仕方ない事だとわかっているが、大国とのやり取りは面倒で嫌になる、犠牲になった騎士たちがかわいそうだ。
しかしわたしの魔法は加減されているし、わたし自身は闇魔法と相性がいいわけではない。言い訳はやめよう、わたしの魅了の魔法はたくましい大国の騎士二人にしっかりとかかってしまった。
お茶会の中央のテーブルで、わたしの両隣に座った大国の騎士たちは、生徒会長にベッタリとくっついている。
まわりのテーブルでは着飾った騎士科の女の子たちが、彼らと話そうと待っているのだが、なかなか生徒会長から離れてくれない。
わたしの顔は母に似ているが女ではないし、髪が少し長いのは、魔法を使う時に便利なことがあるからだ。
それなのに金髪と銀髪の騎士は、両側からわたしの長い髪を手にとって遊んでいるし、うっかり手を握られそうになった。
魅了はたった一回軽くかけられただけだから、もう解けているはずなのになんでだろう?わたしは右手に紅茶のカップを持ち、左手に大きなお菓子をつかんで離さないようにしている。
「ケント、会えなくなるのは淋しいな」
「もう一度君の魔法をみてみたかったよ」
「はぁ」
名前も知らない、大国という名でよんでいた騎士たちの言葉に、ため息のような返事しか出てこない、やりすぎたのだ。
女のように扱われるのは初めてで、背中から寒けがする。弱くかけたはずの魔法が、実はしっかりかかっていたため、かけた本人がその被害にあっているのだ、魅了って怖いな。
「ケント、仲良くなれてよかったね」
にっこり笑うフィルさんの後ろで、エリオットがお腹を抱えて声をださずにうずくまって笑っている、明日腹筋が痛むように呪いをかけておこう。
エリオットのおかげで正気に戻った。
これは二人の騎士のためのお別れ会でもあるので、立ち上がって騎士たちとそれぞれお別れの挨拶をするように促した。
騎士たちには順番に握手してくださいとお願いして、呪いの代わりにエリオットの腹をこっそり叩いた。
「痛いな、ケント、好かれるのも大変だね」
「エリオットにも魅了の魔法をかけてあげようか?」
「いや、あれは魔法じゃない、本気でケントが好きなんだって。気付いてないの?男でもケントのファンはいるんだよ」
「えっ、どういう意味?」
「恋愛じゃなくて尊敬、単純に好意?魔力で威圧された後に優しくされたら、いい奴だって思うんだよ。今回は名誉も回復したし、ありがとうってことじゃないの?ケントが怖がりすぎてておもしろいけど」
いやいや、それ以上の何か絡みつくような好意がみえた気がするんだけど、気のせい?
「本気で気に入られたんだよ、ケントは見た目と違って、本当は何も考えてなくてあっさりした人間だけど、思慮深くみえるからね、心理的に何かしら仕掛けて反応をみてみたいんだよ」
それであの態度になるのか、なぜだ?
「意外とからかったらおもしろいから、連れて帰りたいんじゃないの?N国が絶対に出さないだろうけど」
よかった、面倒な国には行きたくない。
ものすごく不本意な好意を無理やり押しつけられて、お茶会が終わった、その後すぐに髪を切って短くした。
「ケントは学院で上手くやっているようだね、大国の騎士たちと仲良くなったんだって?」
父さんはわかっているのにわざと声をかけてくる。
「仲良くさせられただけで、本当のわたしの事なんて何も知らないで帰って行きましたよ」
「本当のケント?じゃあケントはなに?学生、魔術師、妖精使い、それとも世界で一番だから魔王並みの人?そもそもケントを人とよぶのは合っているのか」
父さんはにやっと笑う、意地が悪い、わかっていても認めたくないところをわざと言ってくる。
「誰かの隠された情報なんて、その時や場所によって都合のいいように受け取られるものだからね、本当はこうだと言ったところで、きちんと理解されないならあまり意味がないだろう」
「宰相補佐らしい説明でごまかされますね」
嫌味を言ったが、こちらをちらっと見ただけですぐにまた笑っている。




