エマの予言
エマに図書館はすぐそこだ、と説明すると落ち着いてくれた。一緒に図書館へ行くことになったが、その前に予言が当たるならききたいことがある。
「お願いがあるんだけど、できればわたしの将来を予言してほしい。今こんなに問題がないように、普通でいようと努力しているのに、将来ひどいことになっていたら嫌なんだ」
「私の予言は必ず当たりますけど、ききたくないことでもいいですか?」
「自信があるんだね、いいよ、お願い」
神殿のボランティアで占いをしているそうで、占ってあげるとよく当たるから喜ばれるが、中には悪いこともその通りになってしまって怒りだす人もいるそうだ。
未来視は占いではないから、気持ち悪いほど全てがその通りになるのだろう。
「私の目をよくみて、手を繋いでください」
エマの手とわたしの手が繋がれて、ちょっと思い悩むような顔でみつめられた。
エマの目をみていると、急に暗闇の中に入り、次の瞬間光の中に投げ出された。
手は繋がっているがエマの姿は見えなくなって、不思議な場所に着いたから不安になった。
銀色の動く細い道が十列くらい並んでいて、ゆっくりと同じ方向に動いているが、途中から少しずつ道が分かれていく。多くの人が並んで乗っていて、自分の行きたい方向へ流れている。
途中で坂道を上って広い場所に出ると、銀色の動く道が終わって、人々がチケットを買っているようだ、案内のアナウンスが響き渡っている。
チケットを持った人々がまた順番に急な下り坂へ向かうから、ついていくと動く銀色の道があるけど、ものすごく急で落ちそうだ、怖い。
すべり台のような動く道に乗ると、階段状になって動いていて安全だったが、なぜわたしがこの列に乗ったのかわからない、十列くらいの全ての道にびっしりと人が立って乗っている、不思議だ。
わたしはその真ん中くらいの銀色の道に乗って流れていたが、道が分かれていくうちにいつの間にか一番左側になり、大きな銀色の四角い建物の中の一階に着いた。
銀色の四角い建物には、大きくて透明な窓が規則正しく並んでいて、日の光を反射して輝いている。
1という文字が上に貼ってある扉の前に立っていると、扉が開いたのでなぜだか中に入ることになった。小さな部屋になっていて扉の脇に数字が並んでいるので、10を押すとすうっと何かが動いて、止まる。
扉が開くと暗い廊下があり、迷わず正面の部屋に入ると、知らない人がいて仲良く握手した、そこですうっと景色が遠くなると、目の前には心配そうな顔をしたエマがいた。
「生徒会長!あれはなんでしょう?」
「なんだろうね」
しばらく顔を見合わせた。
「予言は数ある未来の可能性の一つですけど、それにしてもよくわからないものでしたね」
急に心臓がばくばくし始めて、頭が混乱してきた、こんな時でも自分の顔はしれっとしているのだろうか。
「魔力がおかしいことをわかっている子供だったから、変な人生にならないように、目立たず普通に、慎重にしてきたのに、時間が進んでいった結果、これになると思うと怖くなるよ。
これ、なんだろう、絶対におかしいよね?この国でもないし、どこでもない」
真剣な顔でエマの顔をのぞきこむと、エマは青くなって後ずさった。
予言だけで他にはなにもできないと言っていたのに、自分がエマにすがりつきたい気持ちでいたことに驚く。
「ごめん、びっくりしたんだ、図書館へ行こう」
エマは考えこむような表情で、黙ったまま扉の外へ出て行った。
宿舎から居住区の外まで一緒に歩いていたが、一言もない、何か結論が出るような予言ではなかったが、答えの出ない重苦しい感じが続いている。
立ち入り禁止区域の柵の近くまで来ると、急にエマが立ち止まった。
「別の未来もあるはずです、後でもう一度みてみましょう」
と言う、それもそうだ、とうなずいて、そこでエマの小さな背中を見送った、避けていたわけではないが、その後しばらくエマに会うことはなかった。
頭の中が混乱したまま過ごしていたある日の生徒会室に、ハリエットさんたちが来て、急にお茶会を開くと言いだした。
「魔王が勇者に勝ってしまった後始末よ、嫌がられても困るわ」
そう言われたら返す言葉もない。
勇者だった大国の騎士たちを招いてお茶会をする、ということで、友好的な関係のまま帰国してもらうためには、わたしが企画して接待するのが一番いいそうだ。
わたしに対する騎士二人の印象がよくなることで、N国の外交がうまくいくなら、子供同士仲良くするのが一番だ、と白の塔からハリエットさんが命令されたかのように圧力をかけてくる。
それってどうなんだろう、何をすればいいのかな?愛想がなくて、あるのは魔力量だけなんだけど。




