留学生
二年生になって一カ月過ぎた頃、学院に大国①と②から留学生が来た。
アレックスが去年帰ってほっとしていたのに、その二人は大国からN国の魔王を倒すために送られて来た勇者だという。
大国は同盟国だが、元々N国の魔力が気に入らなかった。
圧倒的な力で押さえつけた同盟関係でなければ、納得できないし不快だから、いつかなにかで仕返ししたかったようだ。
そしてN国の宰相様がうっかり上に立ってしまったか、父さんが失敗して力を見せつけたのか知らないが、要するに大国は機嫌をそこねた。
そこで生徒会長のケントを魔王にして、勇者の挑戦を受けることにしたらしい。わたしは魔王ね、茶番だけど。
人であれば勇者を応援したくなるが、魔王軍の生徒会は人気があるから、学院中がどちらの応援をするかでもめている。
「あー、めんどくさい」
思わず口にだして言ってしまった、父さんからは面倒でもやっつけないでと頼まれているし、まわりのみんなはやる気のない魔王をみて笑っている。
そんなある日の食堂で勇者たちに出会った。
「お前が魔王だな、必ず倒してやる!覚悟しておけ」
いかにも勇者らしい堂々とした体格の騎士二人が、魔王に宣戦布告してきた。
定食を手に持ってはいるが、見た目のいい金髪と銀髪の騎士で少し尻込みする。
どっちがどの国の勇者かよくわからないけど、魔剣を支給されて無理やり戦わせるなんて、君たちが魔王のようだね、と思ったがいわないでおいた。
試合は二カ月後で、その後も毎日何かしらいわれている。
「どちらも人気と実力があって、勝ち気な性格ですよ」
とローザが教えてくれた。
「どちらが強いの?」
「あのレベルで打ち合ったら、決着がつかないか、運で決まるでしょう、魔力はあまりないはずですけど」
「とにかくこちらが負ければいいんだよね」
「なかなかプライドの高い騎士だから、そう簡単に納得するかどうか」
そうか負けるのも難しいな。
「魔力なしなら絶対に負ける自信があるけど、それじゃ怪我しちゃうよね」
「魔力より強いことを証明したいのに、魔法を使わないわけにはいかないでしょう」
どうしよう、剣を振り回したことなんてないのに。
「私、ケントさんには必要ないと思ってましたけど、騎士科で少し練習しませんか」
「手伝ってくれる?」
「もちろんいいですよ」
ローザ、なんていい子なんだ、二カ月でなんとかなるのかな。
騎士科で剣を持つところから教えてもらって、毎日素振りをすることになった。
一週間くらいでやっと、振り回されずに剣を扱えるようになってきたから、次の段階に進む。
「今日は少しだけ打ち合ってみましょう」
ローザに言われて、基本通りに剣を打ち合わせてみた。
ローザの剣は一振りが速くて重い、強い剣士を相手にするから身体強化はしてある。
でもなんとなくその速さや重さや軌道を魔力で察知しているから、受け流すことができそうだ。
そうしたら初めて打ち合ったのに、勝てる気がしてきた。
細かく魔法を入れてみよう、時間を少しだけ歪めて一瞬ローザの動きを止めた後、闇魔法で軽く暗示をかける、負けるのではないかと不安にする波動を出してから、少しローザの動きを制限する。ずるいが魔法を使っていいし、一対一だから何でもできそうだ。
「ちょっと待って、何かしましたよね?勝てる気がしないんだけど」
「ごめんね、ちょっと魔法を入れてみた」
「この急に力が抜ける感じはなんですか?」
「闇魔法で軽く暗示をかけている、剣士相手に反則だけど」
「試合中に闇魔法を使えるなんてすごいですね」
「少し時間を操作するんだ」
「そんなことできるんですね!規格外ですよ、魔法ですかそれ」
ローザがあきれている、だから反則だって言ったのに。
「でもこんな地味な魔法じゃ、使ってるかどうかわからないから納得しないだろう?もっとバーンと魔法を使ってあっさり負けたほうがやられたっぽくない?」
「そうですね、それなら自爆してみたらどうでしょう」
「そのほうが簡単だな、そうしよう」
剣の練習をしてきたけど、いらなくなってしまった。
一旦そこで話が終わったから、ローザと別れて生徒会室に向かった。
そうだ、身体強化して自爆したらフィルさんに運んでもらって、エリオットに判定させよう、なんだ簡単。
炎を出して服もちょっと焦げた感じに演出して、奥に下がったらすぐに転移して逃げよう、完璧だ、にんまり笑ってしまった。
「生徒会長、ご無事をお祈りしておりますわ」
後ろにいた、わけのわからない女の子に声をかけられた時、考えながら歩いていたせいで変な笑顔だった。
「わあ、君は誰?」
改めて女の子をよく見ると、制服の他は全て黒で統一して地味にしているし、何かに取り憑かれているかのような思いつめた暗い表情で、小柄でやせ細った体は病的な感じがする。
大国から来た勇者よりも怖ろしい気がした。
「私、未来がみえるんです、大丈夫、勝ちますよ」
「そ、そう?ありがとう」
なんだそれ。




