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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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制御

 「わかった、もうやめていいよ」

 途中でやめると、一瞬で巨大な光の渦が消えた。


 「これでは制御せずにはいられないよね、ケントは制御がうまいから本当はどのくらいの威力になるのかみておきたかっただけなんだ。

 予想どおり、ケントは最強の勇者みたいで威圧されるし、魔力が光って体からあふれ出てくるみたいだ。

 いつも必要以上に力をおさえて、わざと影を薄くして存在感をなくすから消えそうにみえるけど、本当は強いんだなあ」

 父さんはうれしそうにしているが、普通に生きていくためには力をおさえなくちゃ。


 「ケントはいつも自分をいない者のように扱うから、気になっていたんだ。

 他人と関わらずに、透明になってまわりを見ているだけなんて、まるで自分をいらない子にしてしまったようだ。ケントは今ここで生きているんだよ、しっかり存在していいんだ、自分を消しちゃだめだよ」


 そうなのかな?


 「もう少し制御をゆるめて、ケントの力があることをみせてもいいよ。自分の価値をゼロにして生きていくなんて、死んでいるようだ。

 ケントは枯れるような場所に置かれた花があったら、似合う場所へ持っていきたくなるだろう?だから自分の居場所も葉を茂らせて花を咲かせられる所にしてあげないとね」


 「でもN国にこんな力があるってわかったら困るでしょう?」


 「わかったところでなにもできない人たちが気づいていないだけで、ケントをどうにかしたい人たちにはもう知られているよ。

 父さんはケントが思っているよりも役に立つから、子供がそんなに心配しちゃいけない、ケントは心配性がなおらないね」


 父さんがにっこり笑った。そうか、わたしは誰をめざしていたんだろう、ちょうど真ん中の普通っていう人はいないのに。


 「ケントはもう優秀な魔術師だ、誰にも遠慮はいらないよ」


 今までなんとも思っていなかったのに、父さんにそういわれたらなぜか涙がでていた。

 特殊だから悪評があることも、魔力が化け物並みにあることも、自分では特になにも感じていないと思っていたけど、ようやく自分の気持ちに気づくことができた。

 わたしはそんなふうに我慢させられるのが、嫌だったのだ、そしていつまでも我慢する必要はないらしい。


 自分の部屋で目覚めると、まぶたが重い。夜中に泣いていたよ、とショーンが教えてくれた。

 まだ日がのぼる前の朝焼けが窓の外にみえる、いつもと全く同じように一日が始まるのに、昨日とは別の日にみえた。

 同じ日なんてない、普通なんてないんだな、とぼんやりした頭で考える、自分がいた教室の隅は、なんて小さな場所だったのだろう。


 夏休みが終わり、真面目な学生生活をしているうちに、優秀な成績で一年が終わった。


 「じゃあ生徒会長はケントだね」

 エリオットがそういうから、やらなくちゃいけない気になって引き受けた。ある程度大きな魔法が使えるくらいの制御に変えたから、魔力の少ないほとんどの人たちを守ることができるようになっている。


 人前で注意事項を話したり実際魔法を使うことも増えたから、生徒会長をすることには大きな負担を感じなくなっていた。


 「会長って誰?」


 「あんな人いたっけ?」

と多くの人に言われているが気にしないようにしよう、わたしの悪評は一部の人しか知らなかったようだ、顔を知られていないのは存在を薄くしていたせいだし。

 でも今まで生徒会の仕事だからとがんばっていたことは、全く評価されていなかったんですかね。


 新学年が始まって、人目につかないようにする、という縛りをなくしたら楽になった。


 少し威圧される人もいるけど、誰かの影に隠れないで真ん中を歩くと風が正面から当たって気持ちいい。

 広い中庭にいて、誰かにみられていてもいいんだと思えることや、広い講堂での集会で前に出て、自分の考えた魔法に関する指示を直接出せることで、今まで感じていた不自由がなくなった。

 

 なぜこうしてはいけないと思っていたのだろうか?やりたいことを自分から進んでやってしまっても、大きな問題はなかった。


 自由になった、何でもできそうでどこまでも行けそうな気がしている。誰かのふりをしなくても生きていける、わあーっとかけ出してしまいたい。

 ほんの少しの自信が世界を変えた。


 「ケントは本来こういう人間だった、今までがまちがっていただけだよ」

とフィルさんに言われた。


 「ケントがやる気になってくれてよかった」

 カーク先生もそう言ってくれる、おかげで学院の結界をこまめに張り直すことになったけど。


 使ってはいけないと思いこんでいたが、人に頼られて魔法を使うことで、直接感謝されるのは悪くない気持ちだ。


 できる限り目立たないようにする、という殻を破って外に出たばかりの生き物のように、どこまでも世界が広っている。いい気になって好きなように動きまわりすぎたかもしれない。 

 

 だからこんな事になってしまっていた。

 気づくのが遅すぎて、変更できないのもわかっているが本人にきいてみた。


 「今年はフィルさんが生徒会長になれましたよね?」


 「やっと気づいたか」

 おもしろそうにフィルさんが笑って答えた。


 「ケントのためだよ、私はこれ以上目立ちたくないしね」

 エリオットとローザもうなずく、みんなで決めたんだ?




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